作品タイトル不明
お茶会…
「侯爵令嬢という立場や、普段からお茶会を開催している私でないとこのような場は難しいかと考えましたの」
令嬢の発言は伯爵家のソバレリーにはこの場では爵位が低い為に立場上難しい。
公爵家となったばかりのローレルはお茶会に参加することはあっても開催したことはない未熟者。
カルリバルの言葉は二人に対しての言葉だと判断し、二人もその様に受け取り言い返せずにいた。
令嬢の言葉はもれなく私も含まれているのかもしれないが、私は『関係ありません』という態度を取り続ける。
モリアンナだけが反論できそうなものだが、令嬢は成り行きを見てなのか未だに口を開かない。
「本日用意したのは……」
有力候補者達が黙り込んだのに気を良くしたのか、カルリバルは大変満足そうに今流行りのケーキ店や隣国の高級茶葉の紅茶の説明をし始める。
だが、今回のお茶会は普段の貴族令嬢のお茶会とは意味が違う。
このまま穏便に終われば良いが、未だにローレルの目はギラつき、攻撃できる隙を狙っている。
殺気を隠すこともせずにいるので案の定主催者の目に留まる。
「そうだわ、ヒルメン令嬢の絵画を拝見させていただきました。とても素晴らしく令嬢の発想は芸術界に激震を走らせましたね。我が校の誇りだわ」
「……くっ」
カルリバルが紹介した人物の名前を聞き、ローレルは一気に顔を歪ませる。
ラベリー・ヒルメン伯爵令嬢とは芸術祭で最優秀作品を受賞した令嬢である。
一見カルリバルは優秀者に花を持たせているようにも感じられるが、受賞するまでの過程を振り返るとある一人の事件が浮かび上がる。
ローレルによる作品損壊。
ヒルメンは己の機転により結果として評価されたが、無念の結果を得た人物もこの場にはいる。
先ほどまでカルリバルに牙を向いていた令嬢、ソバレリー。
令嬢は彫刻を提出していたが、ローレルの不注意により作品を破損し出場を辞退した経歴の持ち主。
令嬢自身は過去の事件をほじくり返すことはなく、キャステン公爵からも慰謝料などの話が付いているので令嬢の口からあの事件について語られることはない。
胸のうちは分からなくとも蟠りがあることを表には出していない。
「ありがとうございます。あの作品は……途中断念しようと考えたのですが、ある人から強く影響を受けた作品なんです」
令嬢の言葉から過去にはなかった出会いを経験し、作品に変化が生まれたらしい。
「まぁ、それは誰なんです? 令嬢の作品に影響を与えるような人物とは?」
カルリバルは単に興味があるのか、自身の名前が呼ばれるのを期待しているのかヒルメンからその人物の名前を聞きたくて好奇心を隠す様子がない。
「その方はパーティーにサイズの合わないドレスにも関わらず、機転で乗り越えみすぼらしいどころか目を引くドレスにしたのです。あの光景はとても印象的でしたわ」
ヒルメンの話はなんだか私の記憶にも有るようなものだったので、つい令嬢を確認すると微笑まれた。
私が初めて参加した王族主催のパーティーで、ローレルのドレスを借りたことがあった。
当時はローレルの方が成長が早く、借りたドレスも私にはとても大きかったので急遽背中で絞りリボンで目立たぬように使用人の機転により大きなバラのようなデザインになった。
「それって……」
自身の名前が挙がるか、令嬢が認めざるを得ない有名な人物の名前が挙がると予想していたがまさかの人物だった為、分かりやすくカルリバルは困惑している。
周囲も誰の事か察し、一気に視線が私に集まった。
「お義姉様を侮辱しないでっ」
ここぞと言わんばかりにローレルが割って入る。
義姉を庇うような発言だが内心は……
「私は侮辱したのではなく……」
ヒルメンは『強く影響を受けた』としか話していないのに、ローレルは『侮辱』と返す。
本気で侮辱と受け取ったわけではない。
今の不利な立場を一転させるために『家族である義姉が侮辱され我慢出来ずに立ち向かう妹』を演出したいにすぎない。
「あの時は、私のドレスを気に入ったと聞いたので私が貸したんです。お義姉様は強引に私から奪ったわけではありません」
誰も私がローレルのドレスを奪ったなどとは思っていない。
優秀作品を選ばれる程絵画に影響を与えたのが義姉というのが許せないと思ったのか、義姉を蹴落としながらも庇うことで自身の評価をあげようとしているのか。
「……ありがとう、ローレル」
「お義姉様……私は悔しいです……」
泣き真似をしてまで自身を義姉思いの優しい妹を演じる。
「大丈夫よ、貴方のおかげで私は傷付いたりしていないわ。それに私がドレスを一着も所持していない事は皆さんも薄々察しているもの……」
「お義姉様っ、そんな嘘は止めてください。貴族令嬢がドレスを持っていないだなんて誰も信じませんよ」
「なんの瑕疵もない令嬢であればそうね。だけど私は違うのは分かるでしょ? 貴族であれば私のような存在が表舞台に立つことは望まれない。私はね、王族のパーティーに呼ばれるまで一度も屋敷を出ることが許されなかったの……勿論お茶会やパーティーの招待状が私に届くことはなかった。公爵様は私を貴族と認めていないから全てにおいて参加を許さなかったの。全てのお誘いに参加しない私にはドレスは必要ないし、私にお金を掛けるような無駄なことを公爵様は一切しない人よ。なので、私はドレスを仕立てたことは無いの。あの日、突然王族のパーティーに公爵様が『参加しろ』と言ったのは、相手が王族の為に虚偽の報告をして欠席させることが出来なかったので仕方なく急遽ローレルのドレスを私に差し出して参加させたの……あの頃は私の体が小さかったのでドレスの背中を絞って参加した……んですが……あれ……ですか?」
私はこんな話をする切っ掛けとなったヒルメンに視線を向ける。
「はい。あの日、令嬢の発言とドレスが頭から離れずにいました。作品が損傷した時は参加を見送るしかないかと諦めていたのですが、あの日の公爵令嬢のドレスを思い出し作品に反映させていただきました」
あの日の行動が作品に生かされるなんて思いもよらなかった。
「……私は……何も……」
「いえっそれだけではありません。令嬢が披露したあの日のドレスはその後流行となり、今でもあのドレスをモチーフにされています」
「……そうなんですか?」
これは謙遜でもなんでもなく、ドレスに縁のない私は本当に知らない事で周囲の令嬢達も力強く頷く。
「私もあの後すぐに注文いたしました。ですが、現物を拝見していないデザイナーに上手く伝わらず製作に時間を要しました」
「私もそうなんです」
「私もお願いしましたわ」
社交界に疎い私は令嬢達を疑うわけではないが、どうしても半信半疑に。
思いもよらない話の流れに私は戸惑い続けるしかなく、そうなるとある人物が動き出す。