作品タイトル不明
ローレルの提案
「今日は、私の馬車で帰るわよ」
不満を漏らすことなく、ローレルは素直に頷く。
私とローレルは過去を含めて初めて同じ馬車で屋敷まで帰っている。
義兄のベネディクトは人脈作りで放課後はよく高位貴族の集まりに参加しているので、恐らくだがまだローレルの事件を耳にしていないのだろう。
なので、彼らが乗る馬車はベネディクトに譲りローレルは私がいつも利用している馬車で帰ることに。
普段彼らが使用している馬車より乗り心地が悪いだろうに文句も言わずに黙っている。
今のローレルには馬車の乗り心地など気にする余裕がないのだろう。
そんなことを気にするよりも考えなければならないことが山程ある。
あの男への報告に、相手方への謝罪。
私も同席した方がいいのか?
「……ぉ義姉……様」
学園から馬車に乗り入るまで一切口を開かなかったローレルが漸く言葉を発した。
「……なに?」
今まで黙っていたローレルが何を口にするのか……
自分で謝罪することから逃げ、私だけに頭を下げさせていたことに謝罪するのか感謝するのか。
「お義姉様が……した……ことに出来ませんか?」
普段私を蔑む視線を送るローレルが私に縋り付き、まさかの言葉。
「……貴方……何を……言っているの?」
ローレルの真剣な目から、提案は冗談などではなく本気なんだと伝わる。
伝わるからといってそれは承諾できるものではない。
「お父様には、お義姉様が破損させてしまった事にしてください」
教師や制作者に対して説明も謝罪もせず、時間を掛けて考えぬいた結果の答えが
『自分の罪を私に押し付ける』
なの?
……そうか、だから過去も……
「それは……」
「お父様に今回の事が知られては信用を失ってしまいます。私、そんなの耐えられません。お願いします……お義姉様っ。お義姉様が代わってください」
信用……
自身の信用を失い父に嫌われるのは嫌。
すでに父から信用を失っている私であれば、これ以上父に嫌われたとしても構わないと?
「……被害者の方達にどう謝罪するの? 私の粗相では、あの男……公爵様は動いたりしないわよ」
「それは……私がなんとか……説得をします」
説得?
あの男を?
「……学園の皆さんにはなんて説明するの? ローレル様が破損させた現場を目撃した者がいるのよ、それなのに私が犯人でしたと言うのは難しいんじゃないかしら?」
「……それは……お義姉様の命令という事で……」
犯人から逃れるためなら他人を……義姉を犠牲にして陥れることに躊躇いがないのね。
それを本人に提案するなんて……
今のローレルの姿を見ると、過去もローレルが原因で破損し私に罪を擦り付けたのは確実なんだろう。
だけど、疑問に感じる部分もある。
過去も今回と事件の内容は変わらないが、目撃者が存在したのだけが違う。
どうして今回は目撃者が現れたのかが分からない。
偶然変わったのか、私が過去と別の行動をしたからなのか……
その事を考えたいが、今は……
「私がそんな命令をローレル様にお願いする理由は何かしら?」
「……王子様の婚約者候補の座を狙って焦っていたと言えば……」
王子の婚約者の座を狙って焦っているのはローレルの方。
私はそんなもの一切興味がない。
私が罪を被ってくれると信じて疑わないのか、すらすらとローレルは提案する。
だけど、それは無理がある。
「婚約者の座……残念ながらその言い訳は通用しないわ」
「……なっ何故ですか? 皆さん信じますよっ。それに、私が王子様の婚約者になればお義姉様だって。私がお義姉様の婚約者を助言する事も出来ます。お義姉様が娼婦という噂も私がどうにかしてみせますから……ねっ……」
私は『娼婦』ではなく『娼婦の娘』ね。
私が拒絶しないと思っていたが、受け入れないことで強引に頷かせようと。
最後の『ねっ』で押し切ろうとしている。
だけど私は知っている。
過去、王子の婚約者だと発表されると、その日のうちに私は追い出された。
その時、ローレルは私を見て笑っていた。
そんな人が、私の人生について手助けするはずがない。
ローレルの本音を知り尚更、身代わりなんてお断り。
自分の罪は自分で償って。
「ローレル様あのね、私は……既に王子に婚約者候補を辞退したい旨を伝えているのよ。王子が今回の件を知ったら私の矛盾に気付き『嘘』だとすぐに判明するわ。そうなれば、あなたの立場は余計に悪くなり今すぐにでも婚約者候補の座を剥奪されるわ」
「……婚約者候補を辞退だなんて……嘘ですよね?」
私が既に王子に婚約者候補辞退を宣言しているとは思っていなかったようで、本気で驚いている。
まさか、ここで王子に婚約者候補辞退を宣言していたことが功を奏すとは思っていなかった。
ローレルは本気で私に罪を擦り付け自分も『被害者』だと言い張り、逃げ切る気だったのだろう。
「嘘ではないわ。私のような出生の者が婚約者候補という立場すら烏滸がましいもの。王子との婚約者候補として初めての対面した際に既に告げてあるの。公表は『折を見て発表する』と彼からも了承を得ているわ」
そこまで正確に彼から了承を得ているわけではないが、私が『辞退したい』というのは伝えてあるので嘘ではない。
「……そ……んな……」
婚約者候補辞退は信じられない様子だが、私が出生の話を口にするとローレルは納得したのかそれ以上は何も言わない。
自分の罪を擦り付ける計画が頓挫してしまった事に動揺し次の作戦を練っている様子。
「今回の件は事故なんだから、正直に話すべきよ。公爵様も故意ではないと分かればローレル様を信じ相手方にも誠心誠意対応し謝罪してくれるわ。学園もそこまで大事にはしないはずよ」
私が犯人とされた過去、父として公爵は一切動くことはなく
『自分で招いたのだから自分でどうにかしろ』
という態度で、学園にも抗議もしなければ嘆願もしてくれなかった。
冤罪だと訴える私の言葉は誰にも届かず
『証拠が無い為に処罰は下さない』
学園が決定。
何の処罰もない事で周囲の反感は強まり、冤罪にも関わらず私は『罰』のような日々を与えられた。
あの頃は学年全員の視線が怖かった。
なのに、実際の犯人はローレルだったなんて……
「ローレル様、一人で報告に行ける?」
邸に到着し部屋へ向かうローレルに声を掛けるも、私の言葉に返事することなく行ってしまった。
どうなったのか気になり、使用人に尋ねた。
「ねぇ、ローレルは大丈夫?」
「旦那様とお話しされているようです」
「そう……」
帰宅した公爵に今日の出来事を報告している……
過去もローレルの仕業だとしたら、あの子は平然と私に罪を擦り付け
『お義姉様が申し訳ありませんでした』
私の代わりに周囲に頭を下げ、私には
『罪を認めて皆さんに謝罪するべきです』
諭すような発言をした。
自身の罪を私に擦り付け、正義面していたとは……
「騙されてたわ……」
もしかしたら過去の私は知らないところでもローレルの罠にハマっていたのかもしれない。
その後、公爵がどうにかしたようだ。
公爵がどのような対応をしたのか分からないが、周囲のローレルを敵視するのを見る限りでは私に
『命令された』
『関与していた』
という嘘の噂は流れていないように感じる。
今回の事件は
『生徒の不注意』
と、学園は発表。
処罰は無し。
実際は『ローレルによるもの』と、学年に知れ渡った。
そして、交流会の作品だが……
「代表者が無事決定した。彼女の素晴らしい才能は他国にも通用するだろう」
何十名も参加した中で学園代表として選ばれたのは……
ローレルに絵画が破損された伯爵令嬢の作品。
彼女はローレルにキャンバスを破損されたのを補修し、傷の部分を隠すのではなく敢えて硝子などを張り派手にすることで逆に裂け目を目立たせずにした。
今までにない手法と経緯を知る者達は彼女の発想の転換を評価し投票。
彼女は周囲に圧倒的大差を付け学園代表となり、国際芸術祭が開催される隣国へ赴いた。
『聞きました? あの方の作品が最優秀作品に選ばれたそうよ』
彼女は見事最優秀作品に選ばれたらしい。
ハッキリと経緯は伝えていないが、アクシデントを乗り越えての作品として高評価を得て国際芸術祭最優秀作品に選ばれ表彰された。
我が国に戻ると学園側も彼女の功績を褒め称え、作品は学園に展示される。
彼女の作品を破損させたローレルは彼女が隣国へ向かっている間に時間を掛けて忘れ去られていたが、彼女が国際芸術祭の最優秀作品賞に選ばれ学園に展示されたことで再び事件が掘り返され肩身の狭い思いを。
「過去とは違うのよね……」
気になる事がある。
過去に同じ事件は起きていたが伯爵令嬢の彼女の作品はキャンバスを補修するものの傷が目立ち代表には別の人物が選ばれていた。
代表として選ばれた人物は国際芸術祭に参加するも最優秀作品には選ばれなかったと記憶している。
「少しずつ未来が変わっている」
私が行動を変えた事での変化なら納得出来るが、事件の真相が明らかになったのは私の行動は関係ない。
「何もしていないところで変化が起きているのは何故なんだろう?」