軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その努力は、認めてあげたい

(陛下は貴族院にかけあってくる、と仰ったけど)

恐らくこの結婚はほぼ確実に破婚となるだろう。

何せ、貴族院の重鎮は我がクラウゼニッツァー公爵家当主であるお父様だ。

お父様はこの三年、この結婚について考えるようずっと私に言ってきた。

療養と言って城を離れるも良し、王家有責での離縁も可能だと、そう言い添えて。

──と言うのも。

先代国王に婚約解消された貴族女性、というのが私の母であったりする。

私の母は公爵家出身の高貴な女性で、王家都合にて婚約解消されたあとは、ずっとお母様を好きだったというお父様に口説かれて婚約を結び、結婚したという。

私の両親は、貴族にしては珍しい恋愛結婚だ。

そういう経緯もあり、お父様は現王家に良い印象がない。

(お父様の気持ちも察して余りある……というものよね~~)

何せ、妻が先代国王に婚約解消され、娘はその息子と白い結婚である。

しかも夫であるブライアンは愛人に首ったけと来ている。

先代国王は、お母様との婚約を無理に解消し、異国の女性を妃にした。そのことで、王家は国中から批判を買った。

その状況をどうにかしなければ、と先代国王は考えたのだろう。

彼は、王家の信頼回復を狙ってクラウゼニッツァー公爵家の娘──つまり私と、自身の息子であるブライアンの縁談をまとめた。

クラウゼニッツァー公爵家は、建国から続いている歴史の古い家だ。クラウゼニッツァー公爵家の娘を妃にすれば先代のやらかしは帳消しに出来ると思ったのだろう。

お父様は、この婚約をかなり嫌がったという。

何せ、お父様からしたら自身の妻を切り捨てた相手である。だけど、先代国王が婚約解消したからこそ、お父様はお母様と結婚できたわけで……。

(そのあたりの感情は複雑そうよね……)

お父様は、婚約の打診を不敬ながら何度も断ったらしい。

だけど最終的に先代国王の王命を受け、仕方なく受け入れたとのことだ。

(その結果がこれなのだから。お父様が怒るのも当然だわ)

少し、考える。

私の努力が足りなかったのだろうか、と。

髪を金に染めて、陛下好みの女を演じればよかったのだろうか。

サラサに手鏡を返した私は、窓に映る自分を見て、ほんの少し、自問自答した。

きっと、完璧な女性なら、相手の理想通りに振る舞うのだろう。相手の好みに沿って、その仮面を貼り付け、演じることが出来るのだろう。

だけど私は──

(私は、できなかった)

個を捨てられなかったし、それ以上にやることが多くて、そこまで手が回らなかった。

毎日朝から晩まで書類と顔を合わせ、彼の代わりに執務をこなす日々。

目の前のことに、ただ必死だった。

気がつけば、いつの間にか私は【鋼鉄の王妃】だの、【 吹雪(ブリザード) 女】だの、散々な二つ名がついていた。

噂が噂を呼び、自身の不妊の腹いせにベロニカに毒を飲ませただの、立場の弱いベロニカに嫌がらせをしているだの、私はとんだ悪妃となっていたのだ。

「…………」

目の前のことに必死だった。

もっと広い視野を持って行動すればよかった、と思うもそれは後の祭り。後悔先に立たず、というやつである。

今だからこそ思うことであり、あの時はとにかく必死だったのだ。

私なりに、頑張った。

その努力は、認めてあげたい、と思う。

何より、自分自身のために。

私は窓の外に映るひまわり畑に目を細めた。

外は、眩いほどの晴天だ。

旅立ちにはぴったりの、快晴。

部屋を出て、馬車留めに向かっている途中。

王族専用庭園(ロイヤルガーデン) に隣接している回廊を歩いていると、背後から細く高い声が聞こえてきた。

「クレメンティーナ様!!」

聞き覚えのある声に、思わず足を止める。

そのまま振り向くか、振り向かまいか考えていると、そのひとは靴音を高く鳴らしながら、私の横を通り、前に立ち塞がった。

「どういうことですか!?私、聞いてません……!!」

眩い金髪に、春の空のような薄青の瞳。

彼女は怒ったように私を見ながら、その瞳に涙をためていた。

泣きそうになりながらも私を睨みつける少女の名前は、ベロニカ。

彼女こそが、陛下の愛人であり、ベルネット伯爵令嬢である。

私は静かに彼女を見つめた。

私にとって、ベロニカという少女は突発的に発生する台風、あるいは嵐のようなものだ。

何せ、いつも何かしらのトラブルを運んでくる。というか、彼女自身がトラブルメーカー、騒動の生成者なのだろう。

(想像してたよりかなり早い登場ね)

陛下から聞いたのだろうか。

だけどさっきの今よ?あまりに早すぎる。

とはいえ、私が城を発つのは既に決まっている。彼女と長く話す気は無い。

そう思って口を開こうとしたところで──

彼女は、私の思ってもみなかったことを声高に叫んだ。

「私の猫ちゃんたちを、返してください……!!」

泣きそうな声で、切実な様子で彼女は訴えた。