軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

可愛げのない女

会議は紛糾し、かなり長引いた。

すっかり夕日は地平線の向こうに消え、窓の外は真っ暗だ。

私はルーンケン卿と今後の、主にニュンペーの件をどう片付けるかを相談するために、共に回廊を歩いていた。

夏とはいえ、夜の回廊はひんやりとしている。

思わず、腕をさすると鳥肌が立っていた。

(……さっきの。人形の件がまだ尾を引いているのかしら)

人形に魅入られ、魂が吸い取られてしまった……とは、想像もしなかった。ルーンケン卿の言葉通りなら、ベロニカの魂はあの人形の中にあり──彼女は二度と、そこから出ることは出来ない。

そう思うとやはり恐ろしくて、ぶるっと身震いした。

その時、ぱさ、という軽い音がした。ついで、肩に柔らかな感触。振り向けば、ルーンケン卿が私の肩にジャケットをかけていた。

「寒いのでは?と思ったのですが……違いましたか」

「…………いえ、ありがとうございます」

私は感謝を口にして、有難くその好意をいただくことにした。

ジャケットが滑り落ちないよう胸元を重ね合わせるように掴みながら、私は彼に問いかけた。

「即位されるのですね」

「……はい。お伝えしておらず申し訳ありません」

「構いませんわ。私は陛下……前国王陛下の妻だったのですから。ルーンケン卿にとっては、政敵ですもの」

少し嫌味っぽい言い方になってしまったわ……。

いえでも、やっぱりニュンペーで偶然とはいえ、共に行動していたのだもの。教えて欲しかった。

そう思っていると、慌てたように彼が言った。

「いえ、そうではありません」

ルーンケン卿が、足を止める。

自然、私も立ち止まった。

顔を上げると、彼は眉を寄せ、困惑と焦燥が露わになったような表情を浮かべていた。

それから、僅かな沈黙を置いて、彼はくしゃり、と自身の前髪をかき乱す。

「……私は、こういったことは不得手ですので、単刀直入に言います。クレメンティーナ様」

「は、はい」

なんだか、いつもと違う彼の様子に、どうしてか私も緊張してしまう。雰囲気に呑まれ、戸惑いながら返答する。

ピンと、その場の空気が張りつめた。

彼は私を見ると、はっきり、宣言するように言った。

「私の妻になってください」

「…………はい?」

一瞬、何を言われているのか分からなかった。てっきり、仕事の話かと思ったのだ。

だけど、今彼が口にしたのは──

(わたしのつまに、わたしの、つま……)

妻。

彼の言葉が何度もリフレインし、ようやく形になる。瞬間、その意味を理解した。

「…………!?!?」

その時──なぜか、私は今。

絶対、尋ねるべきではないことを口走っていた。

「まずは、婚約が先では?」

(あ、あら~~~~!?)

口にしてから、内心悲鳴をあげた。

確かにそう、その通りなのだけど……!!

絶対に今、尋ねることではなかった。

(他に聞くことがあったわよね……!?なぜ結婚?とか、それってつまり、政略結婚ですの?とか……!!)

それなのに、飛び出した言葉は、順番を問うものだった。

私の言葉に、ルーンケン卿はぱちぱちと何度か瞬きを繰り返してから、困ったように苦笑した。

「……そうですね。あなたと前国王ブライアン・レヴィアタンの離縁は議会で正式に認められました。だから、どうか私の妻に──いいえ、私と生涯を共にする、パートナーに。……共犯者に、なってください」

ルーンケン卿の言葉に、私は言葉を失う。

先程、私と前国王陛下──ブライアンの離縁は、正式に認められた。

そして、続けて提案されたのが、結婚相手のスライド、つまり、ルーンケン卿との婚約。

(貴族の世界では、よくある話ではある、わね)

夫が戦死したから、その弟に結婚相手がスライドする、とか、そういったことは。

それが、従兄弟だったとしても、常識の範囲内だ、とはいえ──。

『あなたは、我々が思い描く理想の王妃です。ですから、どうかこのまま王妃という冠をいただいてはくれませんか』

そう言ったのは、宰相だった。

陛下が執務を放棄したことで私が代理を務めることになり、宰相には多大な迷惑をかけた。

彼には恩がある。

だから、私はその言葉に是、と返すべきなのだろう。頷くべきだ、と思った。

思った、けれど。

『──』

なぜだろう。

私は宰相の申し出に一瞬、言葉に詰まってしまったのだ。

求められるなら、応えたい。

私の求める【王妃像】が正解であったことを教えられたようで、この三年間の努力は決して無意味ではなかったのだと言ってもらえたようで、泣きたくなるほど嬉しかった。

だけど、同じくらい──何かが、引っかかる。それは、石を飲んだような感覚と、似ている、気がする。

このまま、頷いていいのだろうか……?

そして、私はまた求められるままに【 都合のいい女(王妃) 】を演じることになるのだろう。

そう思うと、答えられなかった。

沈黙は、ほんの一瞬。

不自然にならない程度の空白だった、と思うのだけど。私の答えより先に、待ったをかけたのが、ルーンケン卿だった。そして、回答は保留として会議を終えた。

「私は、あなたを信頼しています」

「っ……」

「その上で、言っています。あなたに、私の妻になって欲しい、と」

「引き続き、私に王妃の責務を果たせ、と?」

私の返答は、可愛らしくないにも程がある、皮肉げなものだった。

陛下に、『可愛げがない』と吐き捨てられた時、そんなものがあればこんな今は招いていなかった、というようなことを口にした。

だけど、この可愛げのなさは、女として致命的なのではないだろうか。

今更、誰かからの愛を得たいとは思わない。

愛し愛される関係なんて、私には縁がなさすぎたからだ。

さながらそれは、物語の中にしかないもののように感じていた。

まつ毛を伏せると少し思案したような気配を感じた。

そして、ルーンケン卿がぽつり、と言う。

「三年前」