軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第349話 決め手に欠ける±デート

一進一退の戦いとなった。

スーリは大きく動くことはなく、身体から異形を出し続けている。

異形は向かってくるがスーリ本体はルカリムの前で動こうとはしないし、精霊達もスーリ本体の周囲から動こうとはしなかった。

だけどスーリの身体から次々と生まれるスーリに似た異形。彼らには性器がなく、男女の区別もつかない。まるで人形のようなそれらはまっすぐこちらに向かってきて――――潰し続ける。

「<おいでませルカリムが眷属よ!青藍よ!>」

「<雷精よ。焼き尽くせ!>」

「<水よ、凍りつけ!>」

スーリから出てくる異形は数を増し、消耗戦となっている。

相変わらず精霊もスーリも動かない。

エルストラさんが出した精霊が前方で水の帯で攻撃し、ブレーリグスさんの雷撃で痺れさせて、私が凍りつかせる。

「<氷龍よ!潰せ!!>」

たまに貯めておいた氷龍を向かってくる異形の群れに向かって射出する。

彼らは身体が弾けても潰れてもただこちらに向かってくる。

何体か頭が潰れたけど、それでも関係なくこちらに向かってくる。

たまにユース老先生が床や壁を動かしてくれる。いつの間にか大きな部屋だったはずがスーリから私の元まで一直線の通路のようになっていて、スーリの異形はまっすぐにこちらに向かってくるようになった。

広がられると当てにくいから非常に助かる。

「どうにかならないか!賢者だろう!?」

「無茶を言うんじゃないわい!この場に一般兵を連れてきたところで上位存在の癇に障れば何が起きるかわからんぞ!!」

侵入した時と違って私の姿もスーリの姿も元に戻っているし、脱出は考えなくてもいい。時間の経過はこちらに味方してくれているはずだ。

だけど、精霊が集まってそこに敵対しているスーリという上位存在がいる場に一般の兵を連れてきても何が起こるかかわからない。

ただ……この場でどうにかできるとすればきっと私か、エルストラさんだろう。

他の人がスーリに向かって直接の攻撃をすれば精霊がどう動くかわからないが、エルストラさんなら「ルカリムの眷属」と言われる精霊の加護があるし私ならあの精霊の集団といつも一緒にいたから多分大丈夫。多分だが。

ただ、スーリの異形は出せる数に限りがないのか、増え続けている。

たまにユース老先生がまとめて部屋の外に排出、ラズリーさんが操る溶岩に落としているが……減らせている量よりも増える量が多い。

私の水で纏めて押しつぶしてしまいたいけど、スーリ本体を狙えば、スーリを取り囲んでいる精霊に当たる。だから無理に潰すことも出来ない。

約定がなんだかはわからないがルカリムがスーリを止めてくれる可能性もあるし、現状、確実にスーリの異形は減っている。

無理をして精霊が敵に回ることだけは避けねばならない。

だから精霊の様子見も兼ねての膠着状態となってしまっている。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「イリーアン様、如何でしょうか?」

「いい感じ……なのかな?」

化粧は慣れてないが……それでもアモス殿と会うのだからしておいた方がいいはず。

しかし、強く化粧をつければ職務で会うのに「意識している」とあからさますぎる。かと言って意識されないのも良くない。

だから化粧をしてもらったが……本当にこれぐらいでいいのだろうか?

「流行りの色を使っておりますわ。おっしゃられた通りにちゃんと化粧は薄く、整える程度ですわ」

「……ありがとう、行ってくるよ」

彼女を信じることにしよう。

準備は出来ているしそろそろ行かないと。……いや、本当はもう一度だけ、服を選び直したい。

だけど、アモス殿を待たせてしまうかもしれないし、待ち合わせ場所に向かわないといけない。

「ご武運を」

「戦いに行くんじゃないって」

今日はアモス殿と領都の視察の予定だ。

恵みの雨でリヴァイアス領の魔獣や獣が活性化し、空を飛べるアモス殿はずっと見回っていた。

オベイロスの中でも精霊の格が上の大精霊は特別な存在で、大精霊であるリヴァイアス侯爵領は広い。影響が何処まであったのか調査する必要もあってなかなかアモス殿は帰ってこなかった。

しかし、領都も被害を受けている。

スライムが詰まったことで都市の設備と水門が破損した。周囲に作られた砦や領都を取り囲む壁の軽微な損傷。急激な植物の成長で保管庫が壊れて武器の一部が錆びたりと……リヴァイアスの防衛上、アモス将軍は知っておいたほうが良い。

だからこれは職務上、必要な視察であって決して職権乱用ではない。

一緒に領都近くの破損部を見て回る。ただそれだけ。二人で見回る。たったそれだけ。

フリム殿に報告するのは僕からじゃなくて良い。フリム殿は忙しいし、アモス殿が知りさえすれば仕事の割り振りは容易い。

「お待たせしました」

「いえ、いま来たところです」

アモス殿は多忙で、人を待たせて当たり前だ。気を遣わせないためにも来たばかりのように振る舞う。

アモス殿は危険な魔獣や害獣の相手をしていたのだ。実力は知っていても……それでも心配で、だからこそ無事な姿を見れて心が浮足立っている。

「そ、それでは行きましょうか」

「はいっ!」

アモス殿に抱えてもらって砦まで飛ぶ。

以前のように大きな手で胸を無遠慮にというわけではない。横抱きにされて空を飛ぶ。

「寒くはありませんか?」

「いえ、すぐ近くですし」

「そ、そうですか。なにせ鱗があるので」

「ふふっ」

高く飛んでいるわけでもなく、速さを出しているわけでもない。

寒いわけがないのだけど、アモス殿は本気で心配して……自分のような粗忽者に配慮してくれる。

母は身分が低く、王家の中では庶子のようなもので疎ましく思われていた。

だからずっと軍で暮らして……男のような生活をしてきた。

王家にも貴族にも粗雑な扱いをされ、誰かに助けてもらえるようなこともなく、軍という居場所はあったものの縮こまって生きてきた。

王家の血は鎖でしか無く、自由もなく……雑用を言いつけられるばかり。

貴族も貴族で派閥もあって誰も近寄ってこなかった。

祖父は身分が低かったが群を抜いて強く、王の命を助けて将軍になった。だから軍だけが自分の家族で、居場所で……でも鬱屈とした気持ちはどうしても拭えなかった。

軍から出れば「王子」で、自由もなく、卑屈に過ごすしかない。

だから祖父のような、話に伝え聞くような「英雄」に憧れた。

彼らは己が力で道を切り開き、自由に生きている。

自分には無いもので、無性に憧れた。クーリディアスを飛ぶ竜のように自由でありたかった。

そこに現れた、この男。

敵ではあったし、してやられたことや家族であった軍を傷つけられたのは少しは腹立たしかったけど……彼は英雄と呼ぶにふさわしい働きをした。もう笑って、称えたい気持ちしかなかった。

自分の力で自由に空を飛べるアモス殿。自分のやりたいように出来る力を持っていて、彼にとって信頼できる主が居て、彼を慕う仲間がいる。単身敵陣に行くなど、他の誰も真似できない。

彼はまさに理想で、憧れで……王家に囚われていた自分には恋い焦がれるのに充分すぎた。

触れられて、たったそれだけで嬉しくなってしまう。

もっと女の子のような付き合い方をした方がアモス殿も嬉しいのかもしれないが自分には出来ない。だけど、もう以前のように我慢することなどしたくはない。

途中わかったけど、この堅物……普段は空を飛ぶ際に地上を見るていたのに、今日は目的地の方向から一切視線を変えない。

きっと彼は彼なりに意識してくれているのだろう。嬉しくて今以上に身を近づけたいが空の上では危ないし、はしたないのでやめておく。

城近くの砦を見て回る。

父と戦う前にリヴァイアスでは土の魔法を使って多くの砦を作っていたそうだ。

海からこの巨大な入江に入って来れば、出入り口以外の全方向に砦が点在しているのは恐ろしいとしか言いようがない。

フリム殿が航路に現れて艦隊ごと氷漬けにしたからそこまで使っていないそうだけどね。

砦には兵よりも周辺の土地を整えるための農作具や種、食料が置かれている。とはいえ一応軍事施設として使われてもいるし、ここにやってくる商人の目もある。壊れたのなら修繕する必要があるだろう。

アモス殿は忙しくて状況を把握できていなかったわけで、こうやって伝えるのも必要なはず……。

「クルルル!」

「リューチャン?」

砦を回ってそれぞれの責任者から報告を受けていると……リューチャンが飛んできた。

まだ小さいのに発情期で暴れたとかでフリム殿の元から脱走していて、最近は露店街で見かけたという報告があったけど……なんでこんな場所に?

なにか焦っているようで、それは――――

「すぐに戻りましょう」

「わかった。いや、待って!槍二本持って行く!緊急事態だ!!」

アモス殿と目を合わせ、すぐに動く。

リューチャンのこの反応……フリム殿になにか起きたのかもしれない。

海に出てからの報告はなかったけど帰ってきたのかもしれない。リューチャンの様子から、別の何かで緊急の可能性もある。今日は領都周辺だけの視察の予定だったからお互い剣しか装備していない。砦の槍を借りていく。

「しっかり掴まってください」

「僕は槍を抱えているから、アモス殿がしっかり掴んでくれ……あ、胸は痛いから先程通りの抱きかかえ方で頼むよ」

「……わ、わかった」

少し照れたのがわかる。僕の勝ちだ!

遊んでばかりも居られないし、僕は槍二本抱えて――――アモス殿に先程よりも強く抱きかかえられた。先程よりもグッと力強く、それでいてより近くて………………こ、これは、僕の負けかな。

胸は高まるが、緊急事態かもしれない。まだそう決まったわけでもないけど、確認するまでは速やかに行動するしかない。

領都の方向に飛ぶと……その異常すぎる事態が目についた。

リヴァイアスの城が……窓が、壁が、表面が……波うって、動いている。

「これは……アモス殿?」

「わからん。しかし、いや、今はフレーミス様の安否こそ重要だ。下で迷っている連中にかまっている暇はない」

こういうことはよくあることなのかとも思ったが、アモス殿が知らないのなら完全な緊急事態だ。

城の下には亜人が走り回っているが……たしかにそうだ。

この状況なら「主のもとに向かおう」と同じことを考えるはず。嗅覚や聴覚に優れる亜人が多くいるのに、下で混乱しているということは……彼らには対処できないということになる。中にフリム殿がいるかはわからないが、最悪を想定して突入する。

「クルルル」

「アモス殿、リューチャンが向こうに行くようにと」

「なるほど」

「はいっ!」

あれ、リューチャンの言ってることがわかった気がする。

しかし今は緊急事態だ。後で考えればいい。

四階ほどの高さの入口に入って、いつもとは全く様子の違う城の、蠢く迷路に足を取られつつリューチャンについていく。

その動きに迷いはなく、道が先に続いているのに途中の壁に向かって止まった。

「下がって」

「はい」

槍を投げ渡され、少し下がる。

何をする気かすぐに分かった。

すると一歩下がったアモス殿は身を低くして、躊躇うことなく壁に突っ込んだ。

激しい音を立てて壁は崩れ……そこには何かと一緒のジュリオン殿がいた。