軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第348話 交渉Ψ反撃

「…………ジュリオン・ヤム・ナ・ハー!」

精霊になにか言って身体の凍りついていたスーリだけど、身体が割れながらも立ち上がった。

壁を破壊して突入してきたジュリオンだったけど、何が起きたのかわかっていないのだろう。スーリの身体は砕けて、再生した箇所から元のスーリに戻ってしまっている。

「<私を、守れ!!>」

「――――……はいっ!」

今のスーリは、私に化けた状態が解除されていてスーリに見えるはずなのに……やはり洗脳されているのか。

「<新芽よ、枝の望みに伸びよ>」

スーリの割れた肉から――――何かが生まれてきた。

それぞれがスーリの顔をしてスーリの体格で、ほとんどスーリに見える。だけど異形の存在。

腕のあるべき位置に目があり、胸の位置に顔がある。人の形態をしながら、どこかにおかしな部位がある。スーリの身体からそんな存在が――――次々と現れてきた。

「ヴァリエタース!」

「今は外が騒がしい!しかもあの精霊の群れの中に魔法は使えん!!」

ブレーリグスが叫んだ。

スーリがなにかしている……明らかに危険だ。

倒れたままのスーリだが今攻撃してはスーリの周りで動かなくなっている水の精霊がどう動くかわからない。ユース老先生は攻撃できないのだ。

ジュリオンはスーリの異形など気にせず、スーリの本体の前で棒立ちとなっている。

増え続けるスーリの身体から増えるスーリの異形。スーリの本体を取り囲む水の精霊。

明らかに異常な状況、でも誰も動けなかった。もしも動けば、どうなるかわからない。

「目ぇ覚ませ!このトカゲ女が!!」

その言葉で、状況が動き始めた。

ジュリオンに殴りかかるダースさんだけど、その瞬間、私に向かってスーリから生まれた異形が突進してきた。

スーリ本体はルカリムと睨み合ったまま微動だにしていない。

ただでさえスーリはすぐに治る不死性に武道の達人のような技量を持っているのに、それが集団で向かってくる。

これは非常に不味いが……私のもとに飛んでくるストーカー杖。手に取ると――――リヴァイアスが動いた。

「あ、今はやめ――」

一瞬で何が起こるか察したが止めようもなくリヴァイアスは私を口に含んだ。

すぐにペッと吐き出され、リヴァイアスは一瞬悲しそうに私のおでこに頬を触れさせたかと思えばすぐに振り返って……スーリの異形に向かって巨大化、壁をぶち破って轢き潰した。

「おわっ!?」

「崩れる!?」

「持たせるわい!」

リヴァイアスの突進で部屋が、いや城が大きく揺らいだ。

リヴァイアスから怒りが伝わってくる。行ってしまった壁の向こう側では激しい衝撃音が続いて聞こえる。

動けている精霊はリヴァイアスだけだ。オルカスも他の精霊もリヴァイアスを取り囲んだまま動こうとしない。ルカリムはスーリの前にいる。

「何故わたくしまで……?」

「なんかすいません」

「フリム、いつも通りのフリムに見えますよ!」

エルストラさんは私を抱き抱えていた。当然、リヴァイアスはエルストラさんごと口に含んだ。それはなんかごめん。

リヴァイアスに轢かれて倒れていたスーリの異形が数体、人間らしからぬ動きで立ち上がりこちらを見てきた。

スーリはハイエルフの革を被った悪魔じゃないだろうか?

上位存在は天災で、何を考えてるかわからなくて、避けるべき対象だ。

だけど、襲いかかって来るのなら……抵抗しちゃいけないわけじゃない。

「<水よ!>」

襲い来るスーリの異形。彼らに向かって水を放つ。

万全とは言えないが、リヴァイアスのおかげか、元通りとは言えないまでもかなりの水の力が使えた。

繊細なコントロールは出来ないが、消防車の水のように一直線に吐き出す。避けようとしたようだけど、ユース老先生が床をずらしてくれた。

お陰で水は直撃、スーリの異形は数体、大きく吹っ飛んでいった。

「大丈夫ですか!?貴様らフレーミス様によくも!!」

ジュリオンが鉄の塊のようなものを砕いて彼らの前に出てきた。

「ちょうどいい。――――<雷精よ。地を這い、焦がせ>」

「ぐぐっ!?グルァアアアア!!!!」

ジュリオンが両手を広げて雷撃を受け止めた。

異形を、私と誤認して……私を守るために――――その姿にスーリに対して怒りが沸き起こってくる。

「<水よ。包み込め。拘束して>」

ジュリオンを水で包み込み、更に水の腕で両手両足、尻尾と翼まで丁寧に掴む。

ジュリオンは抵抗しているが電撃のダメージで力が出せていない。それに水中に浮かせてしまえば無力化出来る。

「ちょうどええわい、スーリをどうにかするのに邪魔じゃし一旦退場してもらおうかの」

部屋が波打ち、水に閉じ込められたままだったジュリオンは壁の向こうに行ってしまった。

壁の向こうで水は解除されたし、水が気管に入っていたとしても溺れはしないだろう。

ジュリオンのことは心配だけど……やることがある。

「<潰れろ>」

残るスーリから生まれたスーリの異形に向かって、氷のハンマーを作って叩き潰す。

エール先生にジュリオン……この城で二人を見て、怒りが湧き上がった。手加減や外交、後のことなど何も考えずに放った本気の一撃だったが――――かなり頑丈。

かなりの力で潰した。リヴァイアスほどではないが少し揺れたほどだ。しかし、生きて……問題なさげに動いている。

スーリの異形は氷の質量を跳ね除けは出来なさそうだ。潰されたまま氷と床の隙間から出ようとしている。

「<このまま凍りつきなさい>」

過冷却水を出して凍りつかせた。拘束のためではなく本気の冷却だ。

スーリ本体のような動きは出来ていないことから技量はない。そして傷ついた部分は治っていないことから不死性はないようだ。

「スーリ、貴方は何がしたかったんですか?全部返してください」

「必要だからしている。天秤が傾いた。約定に従え」

ルカリムと精霊に囲まれたままの凍りついたスーリに少しだけ近づき、声を掛ける。

まだ油断はできない。スーリから生み出される異形はまだ出てくるかもしれない。

「…………なんです?それは」

何を言ってるかわからない。

ただ油断はできない。

「フリム、大家には役割がありますがその一つに天秤がどうのというものがあったはずです。わたくしも詳しくはありませんが」

「なら私には関係ありませんね。知りませんし」

「今はフリムが大家の長では?」

「正式な通達はないので」

たしかに伯父上はボコったが、大家の長とか言われても……伯父上の記憶にもそういうものはなかった。

「降参する。だから約定を守れ。戦力派遣を命令する」

「意味がわかりません。ここまでやっておいて……じゃあ、まずはジュリオンやエール先生への術を解いてください」

「約定を守ると約束して、じゃないとやらない」

「交渉になりませんね。……動かないでください。<水よ>」

油断も隙もない。体ごと凍らせたままにしておく。

このハイエルフ、動きはないけど多分こちらに襲いかかろうとした。ルカリムが見ているからか動こうとしたのがなんとなくわかった。

「じゃあ交渉。こちらには人質がいる、だから言う事を聞け」

「――――……は?」

捻り潰してやろうかこいつ。

私のことならまだしも、こいつはエール先生とジュリオンに術をかけた。他の家臣にも似たようなことをしたはずだ。

皆が人質なら、確かに私は膝を屈して言うことを聞いたほうがいいかもしれない。

だけど、目の前のスーリをどうにかして術を解除させられればそれも手のはずだ。外交上の問題を考えればシャルルやディア様から叱責されるかもしれないが。

私だけの問題なら誰であれ「生きて償え」と思えるが、こいつは邪悪で、万死に値する。私の守りたいものを危険に晒し続ける最低最悪の「敵」だ。

「協力を要請するのなら、まずは誠意を見せるべきではないでしょうか?」

「効率が良い」

「話が通じませんね」

「やってくれる?」

「今の流れの何処で私がやると思ったのですか?」

「だって人質がいる」

顔色一つ変えず、罪悪感もなくそう言ってくる。

「貴方をどうにかしてしまえば、人質の意味はありませんよね?」

ここには人質であるエール先生もジュリオンも居ない。

ここでスーリをどうにかできれば解決できるはず。

「<言う事を聞け。人間>」

凍った身体が動き、身体が大きく割れたスーリ。

自ら身体を割ったのだろう。

割れた身体から、肉片からスーリの形に近い異形が何体も生まれて、こちらに向かってきた。