軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第337話 やらなくてもいいT気づかれない

領主様に、いや、スーリに動きがあった。

理由はわからないが海に行くらしい。

急遽お見送りをするとなって……一目領主様を見ようという人も集まっていて、私も見に行くことにした。

スーリが私を見れば何かしらのリアクションがあるかもしれない。

スーリが私に成り代わろうとするのなら私の存在は邪魔なはずで……意識がないうちに殺しても良かったはずだ。なのにわざわざ生かして、保護らしき術までかけている。

なら私が生きていることに意味があるのかもしれない。であれば、向こうから手出ししてくることは……多分ない。

浜辺に行ってみるとそこにはルカリムもオルカスも、リヴァイアスも……私に化けたスーリもそこにいた。

「伴もつけずどこに行く気ですか?」

「精霊のいる場所。必要だから行く」

「なら、私共をお連れください!」

「邪魔」

「たとえ邪魔でも、連れて行ってください」

「命令」

言い方が明らかにいつもの私じゃないのに、ジュリオンも困り顔のエール先生もそれに気が付いていない。

いったい、海のどこに行こうとしているのだろうか。

「――――っ!わかりました」

「せめてこちらだけでも」

「いらない」

スーリはエール先生にお弁当らしきものを渡されたが受け取ってそのまま手放した。

当然、地面に落ちるお弁当箱。

……思わず前に出そうになった。

スーリが何をしたいのか全くわからない。だけどそれは、そのお弁当は……エール先生から私への気遣いで、その気持ちは無下にして良いものじゃない。

「行く」

私が声を上げる前に、スーリは杖を掲げ、リヴァイアスが出てきて……海の上を滑るように走って何処かに行ってしまった。

リヴァイアスが出てきたからか、少し雨が降ってきた。

群衆の中から一歩出てしまっていた私。ジュリオンと目があった。

「あの……ジュリオン、エール先生」

「なんだ?」

今なら、今なら……スーリもいなくなったし気が付いてもらえるんじゃないか?

「私のことが、わかりませんか?」

「何が言いたい?スーリ」

「…………彼女は、フレーミスじゃないです」

「何を言いたい。なにか話したいことがあるんじゃないか?」

私は言葉に出しているのに、言葉が伝わっていないように感じる。

怪訝な顔をしているジュリオン。いつもの優しいジュリオンの表情じゃない。

「彼女は!今あっちに行ったのはフレーミスじゃありません!!」

気が付いてほしくて、大声で言ってしまった。

「何を言っているかわからんな。フレーミス様はいつものとおり私に気を遣っておられた。フレーミス様に無礼なことを言うんじゃない」

「――――……でも!」

怒ったようなジュリオンが近づいてきて――――明らかに私に向かって威圧してきた。

「フレーミス様を怖がらせて何がしたい?そもそも、ハイエルフが何故こんな場所にいる?」

「知りませんよそんなの!」

「もしかしてお前、死にたいのか?……再生力に自信があるようだが、私が試してやろうか?」

胸ぐらを掴まれ、睨まれている私。

いつものジュリオンを知っていたからこそ考えられなかった。

ジュリオンから「暴力を振るわれるかもしれない」なんて。

「やめなさい。大丈夫ですか?」

「……エ、エール先生!」

エール先生が割って入って止めてくれた。

もしかして、エール先生は気が付いてくれ――――

「なにがしたいのかわかりませんが、これ以上フリム様に近づかないでください。――――ジュリオン・ヤム・ナ・ハー、彼女は上位存在ですし、オベイロスはエルフの国と同盟関係です。……ここは抑えてください」

「――――二度と顔を見せるな。その時は警告を破ったとみなすからな」

エール先生の強い言葉に、殺気立っていたジュリオンは止まった。

ジュリオンの手が離され、尻餅をついてしまった。

ジュリオンはなおも苛立たしげに、私に向かって憎々しげにしていて……エール先生がジュリオンを軽く抑えてこの場を離れた。見物に来ていた人もいなくなった。

誰もいなくなって、雨が強くなってきて落ちていたお弁当だけがそこにあった。

拾って、路地裏の寝床に持って帰って……泣きながらそれを食べた。

あの状況が惨めだったから悲しいわけじゃない。

私は、私の思っていた以上に――――周りの人が大切になっていて……でも私にはこの状況をどうにもできない。

不甲斐なさと力不足に泣いてしまった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

誰にも私と理解されることもなく、日々は過ぎていた。

私の役職、私のやるべきこと……全部なくなって。

そもそも領主とか貴族とかって私がやらなくちゃいけないことだったんだろうか?

いっそこのまま、誰かの船に乗って、どこかに行くのも良いんじゃないか?

だって、私がいなくても、この領地は滞ることなく……やっていけている。

これまで求められてきて、その想いに応えようと必死だった。

経済は自分の専門分野でもあったし、誰かのために働くのは苦でもなく、少しずつ街が変わっていくのはやりごたえもあって楽しかった。

これまでは「やらなきゃいけないこと」だったはずなのに――――自分がいなくてもいいような気がして、ただ生きるために日銭を稼ぐ日々。

誰か話せそうな人を見かけても、ジュリオンのように対処されるのが怖くて話しかけられないでいる。

持ち物は貯めた銀貨と銅貨程度。服はサッカーで泥に汚れて、洗っても落ち切らない汚れが残ったまま。ずっと一緒だった精霊も杖もなし、頼れる人も臣下もいない。

王都に向かったほうが良いんじゃないか?向こうに行けばシャルルもいる。シャルルならきっとスーリの術の範囲外だろう。

……本当にそうか?上位存在は山を作って、海を動かして、天候を変える。

シャルルに影響がないと言い切れるか?むしろ今の状態で一国の王に、面会など出来るのだろうか?

――――そこまで、私がやる意味が…………私が戻ろうとする意味が、あるのだろうか?