軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

90

「凄いでしょ。タイラのオリジナルなんだよ。昔は百術の兎与田って呼ばれてたんだって。タイラにかかれば、水属性や土属性でも攻撃目的の術式を組めちゃうんだから」

と、ナナちゃんがどこか得意げに話す。

「おい、恥ずかしいからやめろ」

ナナちゃんの言葉に、先生が耳を赤くする。

「何が? 相棒の有能さを自慢して何が悪いわけ?」

と、ナナちゃんが意地悪そうな顔で言う。

「ちっ、覚えてろよ……」

それに反応し、先生が悪態をついた。

でも、オリジナルの術を作り出すなんて、凄い事なんじゃないの?

しかも、属性を無視した術を作れるとは……。

「これは、良い講師に出会えましたね」

「うんうん」

先生は、意外に凄腕の様だ。

あの時、母はただの酔っ払いを連れてきたというわけではなかったということなのだろう。

「話を戻すぞ。お前たちは、妖怪がどうやって出現するか知っているか?」

「たしか、狭間と呼ばれるところから出てくるんですよね」

「授業で習いましたわ」

と、私たちは先生の質問に答える。これは峰霊中学の授業で教わった。

「その通り。要は扉だと考えればいい。狭間の大きさ、持続期間は千差万別。予測できるほどの規則性を持たず、自然に発生し、時間経過で消滅する。大きければ大きいほど消えるまでに時間がかかる。そして消えるまで妖怪が不規則に出続ける。狭間が大きいほど、強い妖怪が出てくる可能性が高くなるって感じだ」

「可能性ってことは、強い個体が出てこないこともあるんだ」

これまで私が倒した妖怪は、それほど強くなかった。

テレビのニュースなんかでも、強い妖怪の情報は見たことがない。

そういったことを加味して考えると、遭遇率は低いのかもしれない。

「ほとんど出てこないな。出たら大騒ぎだ。昔から、周囲に人が多いと弱い妖怪を大量に出し、周囲に妖怪が多いと強い個体が出てくると言われているな。だから俺も強い妖怪にはほとんど遭遇したことがない」

「……北海道はどうなのでしょう?」

これからの事を考えたのか、レイちゃんが北海道の妖怪について質問する。

「あそこは大半の住人が避難したまま帰っていない。そんな状態がずっと続いて妖怪が増え続け、人が住める場所は限られている。平たく言って魔境だな。強い妖怪との遭遇率も、こことは桁違いなはずだ」

「そんなに厳しい環境なのですね」

と、真剣な表情で先生の話を聞くレイちゃん。

私たちが北海道の妖怪について知るのは、これが初めてだ。

話を聞く限り、向こうへ行くことができるようになった場合は、相応の準備が必要になりそうだ。

「っと、話が逸れたな。狭間については理解したよな。で、前に行った廃工場には狭間は無かったよな? つまり、妖怪を出して消滅した後ってことだ。妖怪を複数見つけた場合なんかは、出現位置の中心あたりに狭間があると考えればいい。それをこいつで探し出すんだ」

そう言って先生が右手を前に出す。

「蝶?」

その掌の上には、水で出来た蝶が羽ばたいていた。

「私はこれね」

次いでナナちゃんが、自分の肩を指さす。

「鳥……、ツバメでしょうか」

レイちゃんが言った通り、ナナちゃんの肩には水で出来たツバメが留まっている。

「それぞれの属性と霊気の特性に合わせて、索敵に使えそうな探査霊体、要は生き物を作るんだ。俺は元々ハエとかネズミを使っていたんだが、こいつにキモいって言われてな……。便利だったんだが……」

先生は諦めきれないといった表情で残念そうに呟く。

が、ナナちゃんは顔をしかめ、非常に嫌そうだ。

「ハエとかないわ……。見た目は大事でしょ」

「そうですね。やっぱり格好良いのが一番ですわ!」

腕組みしたレイちゃんが、目を閉じて大きく頷く。

「だよね! 分かってるじゃん」

レイちゃんの同意を得たナナちゃんは、どこか嬉しそうだ。

それにしても、面白そうな霊術だ。

私は何を作ろう……。う~ん、迷ってしまうなあ。

「で、どうやればいいんですか?」

術を使ってみたくてソワソワしていた私は先を促した。

私の言葉を受け、「……それはだな」と、レクチャーモードへと移行する先生。

そこから詳しい説明を受け、探査術を教わった。

――数時間後。

「ほう、やるじゃねえか」

顎に手を当てた先生が、レイちゃんの方を見てニヤリと笑う。

レイちゃんは、見事に探査術を成功させていた。

彼女の体の周りを、朱色に輝く炎の魚たちが楽し気に泳いでいる。

多分、あれは熱帯魚のクマノミだ。レイちゃんが作り出した探査霊体は魚だった。

無数の魚が空中を泳ぐ姿は、どこか幻想的ですらある。

「この術、霊気をほとんど使いませんのね。これは利便性が高いですわね」

術を発動した感想を述べるレイちゃん。

「いや、普通に使うけど……。それだけの数を出したら、残りの霊力が心もとないんじゃないのか? あんまり張り切って霊気切れを起こすなよ?」

「いえ、特に問題ありませんわ」

心配してくれる先生に、素の表情で答えるレイちゃん。

特に強がったり、無理をしたりしているようには見えない。

レイちゃんの霊力が高いせいで、コスパの良い霊術と勘違いしてしまったのだろうか。

と、ここで私は先生が話した内容に気なる部分があったので、会話に割り込んだ。

「あの、霊気切れってなんですか?」

「「え?」」

すると、先生とナナちゃんが不思議なものを見るような目で私を見てくる。

「わたくしも知りたいですわ」

私の質問を聞き、レイちゃんも霊気切れに興味を示して尋ねる。

すると、先生とナナちゃんの二人は困惑顔になって顔を見合わせた。

数瞬の沈黙の後、先生が咳払いをし、口を開いた。

「いや、そんな難しい話じゃない。全身に溜めた霊気を短い時間で全て吐き出すと、虚脱感に襲われるやつだ。一度は経験あるだろ? こう、調子に乗って霊気を使いすぎて眩暈を起こしたとか、そういうやつだよ」

「一瞬で霊気を使い切ったことはあるけど、体調に変化はなかったですね。レイちゃんは、どう?」

霊核が小さい頃は、先生が言う「霊気切れ」の状態に頻繁になっていた。

だけど、そんな感覚に陥ったことはない。

もしかして、自分だけかと思ってレイちゃんにも聞いてみる。

「わたくしも、不調を感じたことはありませんわ」

と、レイちゃんも自覚したことがないと言う。

「よし、一属性には霊気切れがないんだ、そうなんだ」

なんか、やけっぱちのような言い方で結論付ける先生。

「ま、ないほうが良いことだし、いいんじゃない」

と、どこか諦めた表情で頷くナナちゃん。

二人は、私たちが系統を調べた時にやらかしたことを思い出して面倒臭くなったのか、深く考えるのをやめたようだ。

「まあ、今は絶対に霊気切れが起きることはないし、どうでもいいか」

「そうですわね」

と、私たちもこれ以上の言及を見送る。

ぶっちゃけ、今の私たちの霊核の大きさであれば、全身から霊気が無くなるという状況は一瞬たりとも起きることはない。

一度の送量が、体の大きさを凌駕しているためだ。

どれだけ霊装を小さくしても、関係ない。霊気が強烈な勢いで流れ込んでくるため、霊気切れが起きる前に、新たな霊気が充填されてしまうのだ。

イメージ的には、霊気は体という管を通して右から左に流れるだけ。

最早、全身に霊気を溜めるという工程が発生していないのである。

「またキモいこと言ってる……」

「よせ。追及しても、こっちが損をするだけだ」

ナナちゃんと先生が妙なことを言って、自分に言い聞かせるように納得している。

「まあ、私たちは霊力が高いってことですよ」

「その通りですわ」

「符も爆発してたし、そういうことなんだろうな……。探査霊体を、それだけ大量に出しても安定してるなら、もう少し手を加えれば攻撃にも使えそうだな」

諦め顔で納得した先生は、レイちゃんの器用さを見てアレンジの方向性を思いついたようだ。

レイちゃんの術の披露が終わったころ、私も術を成功させる。

「私も出来たけど。どうかな?」