軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

79

彼の隣に立つ男子だけだ。あの顔にはマンガで見覚えがある。

「あちらはアキラ様の幼馴染の雪沢智仁様ですわ。あの様子ですと、アキラ様にお願いされて仕方なく参加しているのかもしれませんわね」

助っ人として参加しているなら、レイちゃんが欠席している間、交通整備や通訳の役割を雪沢智仁がしていたのかもしれない。

「確かに。彼がいないと、アキラ様はあれだけの女の子たちの相手を一人で捌かなければならなくなるわけだもんね」

鷹羽アキラは、相当我慢をしていると思う。

表情は笑顔を保っているが、静止した画像のように顔が固まっているからだ。

誕生日会の参加者が、全員女子。

その子たちが、次々と押し寄せてくるわけだ。

実際、レイちゃんが挨拶を済ませてから、ひっきりなしに女の子が挨拶に向かっている。

あ、眉間が痙攣してる。

「ええ。以前参加した時より、参加者が増えている気がしますわ……」

おおう、合計人数でも増加傾向にあるのか。

「女の子たちは二つのグループに分かれてる感じだね? 派閥的なやつなのかな」

全体を俯瞰してみると、集団の中に明確な境界線が見えた。

分かれた二つのグループは、ほぼ同人数。

お互いがけん制しあっているのか、絶妙に距離が開いているため、分かりやすい。

「あれは、霊術師の家と資産家の家で分かれている感じですね。わたくしたちが合流するのであれば、資産家の家になりますわね。まあ、ずっと誘ってきていたので、向こうから来るかもしれませんが」

「なるほどね~」

こういった催しだと、霊術師の家とそれ以外で、グループ分けになるのが定番のようだ。

そんなことを話していると資産家グループの子たちが、こちらへやってきた。

そして、その中のリーダーを務めているであろう子が、嬉しそうにレイちゃんに話しかけてきた。

「雲上院さん、来ていただけたのですね!」

「ええ、今年は予定の調整ができましたので。いつもお誘い頂いていたのに参加できず、心苦しく思っていたのですよ」

「いえ、そんなお気になさらずに。あの、そちらは?」

「友人の九白真緒さんですわ」

「へぇ……。暮舞不破子です、よろしくお願いしますね」

リーダーの子は、私に対して値踏みするような視線でジロジロと見た後、自己紹介してきた。

まあ、彼女からすれば、社交の場で見かけたことがない雲上院礼香の友人なる存在が、いきなりポンと現れたようなもの。

気になって詮索してしまうのも当然かもしれない。

「九白真緒です。よろしくお願いします」

私は無難に挨拶を返しておく。

「それより、雲上院さん! 聞いてください」

リーダーの子改め、暮舞さんは、ハッとしたような表情となり、レイちゃんにまくし立てた。

多分、私というイレギュラーなお供がいたことで、本題を忘れていたのだろう。

「あらあら、どうされたのかしら」

「雲上院さんが参加されないので、向こうの灘蔵さんがアキラ様に近づき、ずっと独占していたのです」

「まあ、そんなことに。ですが、そのような状況になれば、アキラ様が気づいて、なんとかしてくださったのでは?」

ふむふむ、霊術師のグループのリーダー格は灘蔵さんというっぽいね。

「ええ、まあ……。アキラ様も、灘蔵さんとそれほど親密になられたい様子ではなかったので。折を見て、私たちと接する時間を作ってくださいましたわ」

しかし、鷹羽アキラも大変だ。いざこざが起きないように調整しなければならないなんて。

「それでしたら、ある程度は仕方ありませんわ。もし、わたくしが参加していたとしても、結局わたくしとアキラ様がお話しする時間が発生します。そうなると、結局皆さんの時間も減ってしまいますからね」

だから、本来ならレイちゃんを強引に誘う理由なんてない。

それなのに、参加要請が活性化した。

何か理由があると思っていたが、その答えが分かってしまった。

なぜかと言えば、レイちゃんと暮舞さんが会話している間、他の子たちがある一点をじっと見つめていたためだ。

暮舞さんは、その答えを今から話すのだろう。

「それが最近……、私たちを含め、灘蔵さんも、ほぼお話しする時間がなくなってしまったのです」

「あら、それはどうして?」

「ご覧いただければ分かるかと」

という暮舞さんの視線の先では、楽しげに談笑する鷹羽アキラと兎与田七海の姿が。

そこに雪沢智仁が加わり、他の者を寄せ付けない雰囲気を形成している。

霊術師の家の子たちも、その様子を遠巻きに眺め、悔しそうな顔をしていた。

う~ん……、殺伐!

その光景を見たレイちゃんは、軽く首肯し口を開いた。

「なるほど、兎与田さんとばかり話している、と」

「兎与田七海をご存じなのですか!?」

と、目を見開く暮舞さん。

「ええ、クラスメイトですわ。それ以上の接点はありませんので、どういった方かは存じ上げませんが」

「そうだったのですね。兎与田七海が誕生日会や他の催しに参加し始めてから、アキラ様は彼女に付きっ切りで……」

他の子は派閥と言われるほどのグループを形成しているが、兎与田七海は単独参加。

初めは鷹羽アキラも、孤立している状態を気にして接していたのかもしれないが、今はそれが定番となったのだろう。

おおよそを把握したレイちゃんは、穏やかな声音で皆に諭すように話しかけた。

「……それは皆さんにとって残念な話かもしれません。ですが、これだけ分かりやすい状態なのでしたら、身を引くのが賢明では? 数分程度しか二人の様子を伺っていませんが、とても仲睦まじい様子。あそこに立ち入れば、間違いなく好感度が下がりますわよ」

「そ……、それはそうなのですが……。もし、あの場にいるのが雲上院さんであれば、納得もいくのです! 百歩譲って、灘蔵さんであったとしても……。それが、あんなどこの馬の骨とも知れない女が居座っているとなると、皆冷静ではいられず……」

暮舞さんは、思いつめた様子で拳を握り締めると、唇をかんで目を伏せた。

ここ何年か続いている出来事のせいか、感情を御しきれない様子だ。

レイちゃんは、そんな暮舞さんの心にすっと入り込んでしまうような、優しくも冷たい声で問いかける。

「兎与田七海に務まるなら、自分にだって可能性があるのでは、と?」

「……そこまでは。いえ、思っている人もいるでしょうね」

暮舞さんは、どこか自嘲めいた笑みを浮かべた。

――こういったお上品な場で、兎与田七海の存在は浮いていた。

この場にいるお嬢様たちからすれば、かなり破天荒に見えるだろう。

あんな無礼な態度で親密になれるなら、自分にも可能性があるのではと思ってしまうのは仕方ないかもしれない。

「人の仲というのは名前、家柄や資産で決まるものではありません。暮舞さん、いえ、皆さんの家の方が兎与田七海の家庭より裕福だからといって、それが彼女以上にアキラ様と親密になれる理由にはならないのです」

レイちゃんは、暮舞さんの後ろに自然と集まりだした派閥の人たちにも聞かせるように話す。

「そのような態度で接していれば、必ずアキラ様の不興を買います。なにせ、親しくしている相手を貶しているのと同じですからね」

「……おっしゃる通りですわ」

「ここはむしろ切り替えるべきでしょう」

レイちゃんは愛用している霊装の洋扇をピシャリと鳴らす。

「切り替える?」

「アキラ様は絶対に無理。以前は多少なりとも可能性が見えたので、未練があったのです。ですが、今の状況となっては絶対に無理。それならば、別の相手を探す猶予が増えたと考えるべきです。思い上がりも甚だしいですが、こうなってしまった状況を作ったのは、わたくしにも原因があります。もし、わたくしが、幼い時から積極的にアキラ様と接して、ある程度親密になっていれば、皆さんももっと早くに切り替えていたはずです。それが、アキラ様のお相手が特殊だっただけに、無駄な時間を過ごさせてしまった……。本当に申し訳ありませんわ」

そう言いながらレイちゃんは、申し訳なさそうな顔で深々と頭を下げた。

思いもよらぬところでレイちゃんに謝罪させてしまったことで、集まっていた子たちに動揺が走る。

「そ、そんな、雲上院さんが謝るようなことでは!」

「本当に悪いと思っているのですよ。ですから、皆さんに謝罪の意味も兼ねて、なるべくそういった場を提供しようと思いますの」

頭を上げたその顔はキリッと引き締まり、策士顔。

「そういった場?」

暮舞さんは話の流れに付いていけていない様子で聞き返した。

「ええ。わたくしが適当な名目でパーティーを開催いたしますわ。そうですわね……、さしあたっては合格、もしくは入学祝いなどでしょうか。とにかく、それなりの頻度で開催することを約束します。そして、その場にはアキラ様を招待いたしません。そうすれば、自ずと男性の参加者も増えるでしょう。アキラ様には申し訳ないですが、事前に理由を説明しておけば、快く賛同していただけるはずです。自身の誕生日会の女性参加者数が減ると伝えれば、アキラ様から男性陣へ参加を働きかけてくれる可能性すらあります」

レイちゃんが新しく出会いの場を提供すれば、鷹羽アキラの誕生日会に出席する意味は薄れていく。

そうすれば今の女性偏重かつ過多な状況も変化し、自然と本来の参加者の層と数に落ち着いていくはず。

そういったことを理解すれば、鷹羽アキラも快く協力してくれるだろう。

「「「おお……」」」

レイちゃんの話を聞き、ぐっと身を乗り出す皆さん。

どうやら、今の話で皆の心をしっかりとつかんだ様子。

話の内容が魅力的に感じたのか、皆が前のめりに傾聴の姿勢に入っていく。

「皆さんには、そちらで新たな出会いを模索していただきたく思います。それと、アキラ様が駄目だから、と雪沢様に接触するのもお控えください」

雪沢智仁にアタックかけちゃ駄目よと、レイちゃんが釘を刺す。

「え、それはどうしてなのでしょうか?」

暮舞さんが、不思議そうに首を傾げた。

「雪沢様は関係ないのでは」と、傾聴姿勢の女の子たちの中からも、疑問の声が上がる。

「……本来口外すべきではないのですが、雪沢様には家が決めた婚約者がすでにいらっしゃいます」

「ええ?」

レイちゃんから提供された新情報に、ざわめく面子。

マンガでそのことについて言及するシーンを覚えていたため、私はその事を知っていた。

でも、まさかレイちゃんが知っているとは思わなかった。

「公表していないのは、変な気の使われ方をされたくないからでしょう。ですが、アキラ様が駄目だからと、今度は皆さん全員で雪沢様に向かわれたらどうなると思いますか?」

返答せずとも結果が目に見えているせいか、誰も言葉を発しない。

「親しい関係になることは、100%不可能ですわ。むしろ、今までアキラ様が行っていた対応を今度は自分がしなければならないと思い、女性不信に陥ってしまうかもしれません」

「……それは」

どんな状況になるか簡単に想像できたのか、皆が押し黙る。

レイちゃんは、そんな沈黙を活かし、よく通る声音で説得に当たる。

「そう、それは皆さんの望むことではないことは、わたくしが一番よく分かっています。アキラ様も雪沢様も、とても魅力あふれる方なのは確かですからね」

「雲上院さん……」

レイちゃんの同情的な姿勢に、皆がぐっと感じ入る。

全員、周囲のことなど目に入らず、ひたすらに一点を見つめている。

餌を待つひな鳥のように、レイちゃんの次の言葉を待つ。

その瞳には、雲上院礼香の姿がくっきりと刻まれているかのようだ。

「やはり、そんなお二人には笑顔でいてほしい。幸せであってほしいとは思いませんか?」

「それはその通りです……」

レイちゃんの問いに、皆は深々と首肯する。

「そこにわたくしたちの、押し付けがましい願望を挟んでも仕方ないではありませんか。それに、あのアキラ様が興味を示していらっしゃるのですから、兎与田七海という人物は素晴らしい方なのかもしれません」

「確かに。アキラ様が認められた方ですものね……」

そうかもしれない、そういう視点はなかった。

そんな類いの言葉が、次々と聞こえてくる。

レイちゃんの言葉に、暮舞さんと資産家令嬢の皆さんが、兎与田七海を認める発言に肯定の意を示し始めた。

それを雲上院礼香は見逃さない。ここぞとばかりにクロージングに入る。

「そうです。ですから、今はじっと二人の関係の行く末を見守るのです。鷹羽家の親族の中には兎与田さんのことを反対する人も出てくるでしょう。アキラ様と兎与田さんが喧嘩をしたりするかもしれません。ですが、それで皆さんとアキラ様の距離が縮まったり、仲良くなれたりするかというと、そうはならない」

と、レイちゃんが声の調子に合わせ、パシリと洋扇を打つ。

うん……、落語かな?

そんな心のツッコミが伝わるはずもなく、話は続く。

「むしろ、その障害が二人の絆を更に強固にしていく! 外部から干渉があればあるほど、燃え上がる。そしていつか、二人の強い絆にほだされて、両親が関係を認める。わたくしには、そんな未来が目に浮かびます」

レイちゃんの指し示す未来が容易に想像できたのか、誰も反論しない。

それを肯定と取り、話を続けていく。

「ここまで話せば、分かっていただけると思いますが、皆さんが二人に固執すればするほど、無為に時を過ごすことになります。わたくしは皆さんにそうなって欲しくないと心から願ってやまないのです。ですから、切り替えましょう。諦めきれない気持ちもあるかもしれませんが、そこはぐっとこらえて、二人を陰ながら応援するのです。そして、ご両親も認めるような関係になったら、公に祝福する。そうすることによって、鷹羽家とも良好な関係を築いていく、これなのです!」

皆、力説するレイちゃんの言葉に耳を傾け、誰も一言も発しない。

この一帯だけが静かなせいで、周囲の喧騒がうっすらと聞こえてくる。

誰かの、ゴクリと喉を鳴らす音が耳に入るほどだ。

「そして、皆さんのお相手は、わたくしが探し出すお手伝いをさせていただく。これが、全員が幸福になるウィンウィンのプランですわ」

「雲上院さん……、いえ、礼香様……」

「礼香様……」

「レイカ様……」

呼び方が、自然とレイカ様へと変わっていく。

皆、陶酔したような目でレイちゃんを見つめている。完全な独壇場である。

――マンガの雲上院礼香は、悪役令嬢だった。

非常に難のある性格の持ち主だった。

だが、今、目の前にいるレイちゃんは違う。

秘めたるポテンシャルを完全に開放し、心技体すべてを兼ね備えた真の姿へと昇りつめようとしている。

本当の意味で、雲上院の名前を使いこなしつつある。

人々はその立ち居振る舞いに目を留め、その言葉に聞き入る。

偽りのない本物のカリスマ。

真の雲上院礼香の姿がそこにあった。