軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59

私は吸い込まれるように崖下へ落下した。

数秒の浮遊感を味わった後、衝撃を逃がすようにして着地。

そのまま前転して物陰へ身を隠した。

追撃と目視での発見を恐れての行動だ。

かなり高所からの落下だったが、怪我は一切なし。

私の体内には濃密な霊気が大量にある。

よって、この程度の落下で怪我することはない。

しかし、隙を突かれた。ここまでするとは思っていなかったよ。

しばらく様子を見たが、追撃が来る気配は無い。

こんなことをして、どういうつもりなのだろうか。

上の声が響いて聞こえてこないかな、と耳を澄ます。

お、聞こえそうかも。

「確認しますか?」

「この高さだ。十中八九死んでいるだろう。もし、生きていたとしても重症だ。荷物もここにあるし、上がってくることは不可能だ。じきに死ぬ」

「そっすね。金持ちの娘らしいし、今頃ピーピー泣いてるんじゃないすか」

「念のため、足場とハシゴを破壊しておけ。荷物も持って行くぞ」

「わかりやした」

「ハシゴはOKです!」

おいおいおい、まさか置き去りにするつもりだったとは。

しかも、脱出経路を絶つ周到さ。殺す気満々じゃないか。

軽いイジメかと思っていたら、大違いだったよ。

――といっても、大して危機感は持っていない。

今回は万が一に備えて、最低限のサバイバル道具と携帯食料を身につけていた。

特に亀角たちを意識しての行動ではない。なんか、染み付いちゃってるんだよね。

身体検査を受けて全身の道具を引っぺがされていたら、ちょっと面倒だったけど、そういうわけでもない。これは余裕。なんとでもなりそうだ。

さて……、無理に動いて上の連中に気付かれるより、落ち着いて救助を待つかな。

手元に連絡手段はないのが、ちょっと面倒ではある。

だけど焦りは禁物。ここは上の様子を見ながら、のんびり行きますか。

「すぐに合流しますか?」

「そうだな。向こうもそろそろ誘拐が終わっているはずだ」

「なんでこいつも攫わなかったんですかね」

「さあな。そんなこと俺は知らん。金さえ貰えれば、それでいい。それより、ここでは電波が届かん。すぐに外に出るぞ」

「わかりやした!」

のんびりしようと思っていたら、これだよ。

どうやら亀角たちは、二つのグループに分かれて行動しているようだ。

もう片方のグループが誘拐を決行中とは、穏やかではない。

一体、誰を誘拐したんだ。とっ捕まえて吐かせないといけないね。

私は霊気をフル活用し、登攀。ボルダリング気分で一気に崖を駆け登る。

失敗して落下したとしてもケガの心配はないので、思いっきりいく。

力任せに行ったけど、崖が崩れることは無かった。あっという間に登りきることに成功。

ひと息ついた後、壁に張り付いた状態で、ひょっこり顔を出す。

すると、三人がこちらに背を向けて足場を登っていくのが見えた。

私は、今がチャンスとばかりに飛び出す。

そして、力任せに足場を引き剥がした。

「ぐわ! お前は!」

「ひえっ!」

「ギャァ!」

思い思いに悲鳴をあげ、落下する三人。そこに崩れた足場がのしかかる。

三人は崩れた鉄骨の下敷きになった。

私は素早く接近し、脱出し易そうな者から拘束していく。

といっても、ロープがないので、鉄骨をねじ曲げてロープがわりにする。

これなら簡単に外せないはず。流れ作業で手早く全員を縛り上げた。

「ふう、うまくいったわ」

額を手の甲で拭う。奇襲大成功である。

「貴様、殺すつもりか!」

亀角が吠える。

「その言葉、そっくりそのまま返したいね」

「……ッ」

途端、亀角が押し黙る。この人は数秒前に私にやったことを忘れちゃったのかね。

「まあ、私はあんた達には霊気があるから死なないと思ってやったけどね。でも、そっちは殺す気でやったよね? 脱出経路を潰してたし」

こっちは鉄骨の下敷きになっても、骨折程度で済むだろうという目論みでやった。

そっちは即死じゃなくても、放置して殺そうとしていた。

この差、随分と違うんじゃないかな。

「で、誰を誘拐するって?」

無言を貫く三人に問いかける。

「っ、聞いていたのか!?」

亀角が顔を上げ、驚く。

この中でいうと、亀角は案外口が堅そうなんだよね。

他の二人は、どうだろう。

「うちの両親? それとも雲上院礼香? それとも雲上院昭一郎?」

と、順に可能性が高そうなのを聞いていく。

すると、雲上院の名前が出たあたりで、細海と安守の表情が目に見えて強張った。

ほうほう、なるほど。

これはのんびりしてられないな。

私は自分の荷物を取り戻し、携帯端末を取り出す。ふむ、やっぱり圏外か。

三人は放置して、外に出ることにする。

私は足場が崩れた場所を跳び越えると、出入り口へ走った。

外に出たら早速電波の状況をチェック。残念、まだ駄目だ。

山を駆け下り、道路へ出る。そのまま画面を見ながら走る。

しばらく走り、圏内に到着するや否や、レイちゃんとレイちゃんのお父さんに連絡。

両方不通だ。繋がらない。

次に両親に連絡を取り、事情を話した。

父には雲上院親子の捜索、母にはこちらへの迎えの手配と、襲った者たちの処理をお願いする。

あの三人には襲われたが、やり返してしまった。

今の状態で私が警察に通報しても、亀角たちに嘘をつかれたら分が悪い。

証拠がない状態で、小学生一人と大人三人の言葉の信頼度は随分違う。

というわけで、親の力を借りることにする。

こういう時、うちの両親は頼りになりすぎるのだ。

これからどうするかを考えながら待っていると、遠くからヘリの音が……。

おお……、我が家の本気を見た。