作品タイトル不明
28
このままじゃ危ない! 服に火が移っちゃう!
だけど、皆、驚いて固まってしまう。
かく言う私も、声すら出せない状態だった。
そんな中、上級生の握る指揮棒が舞鶴さんへ向けられる。
指揮棒が輝き、光が収束、火の玉が形作られていく。
ほんの数秒の出来事だったから、回避する事も声を出すことも出来ないまま、事の成り行きを見守ってしまう。
「あ、危ない!」
私がそう叫んだ瞬間、火の玉も発射されていた。
このままでは舞鶴さんに当たってしまう!
だけど、火の玉は舞鶴さんに直撃する前に、消えてなくなった。
厳密に言うと、火の玉に上履きが当たって、かき消えてしまったのだ。
え? 助かった?
上履きが飛んで来た方向を見れば、雲上院さんと九白さんがいた。
そして、九白さんが手をこちらにかざした状態で佇んでいる。
ということは九白さんがやったの?
疑問に思っていると、二人がこちらへ駆けつけた。
そして九白さんが消火器を使った。ピンを抜き、ホースを火に向けてレバーを引く。
すると、ホースから泡が勢いよく飛び出し、火が消されていった。
「た、助かったぁ……」
私がホッと安堵したのと同時に、周囲に人が集まり出した。
特別教室がある階だけど、そこそこ人がいたようだ。
人の気配に気付いた上級生は舌打ちすると、走って逃げていった。
「大丈夫?」
と、声をかけてくれる九白さん。
どうやら二人は、先生に言われて手伝いに来てくれたらしい。
先生も私に頼んだ後、一人で運ぶには量が多すぎると気付いてくれたみたいだ。
うう、先生が気付いてくれてよかったぁ。
危うく舞鶴さんが大変なことになるところだったよ……。
件の舞鶴さんは、放心状態で、お友達と雲上院さんが介抱している。
それにしても九白さんの咄嗟の行動力には驚きだ。
というか、九白さんを見つめる雲上院さんの目が怖い。
もの凄い尊敬の眼差しで彼女を見つめている。目が輝きすぎて怖いよ……。
それからその日の放課後――。
掃除当番だった私は、屋上の渡り廊下にいた。
ここの掃除は雑巾がけがないから楽なんだよね。今日は風が気持ちいいし、最高である。
掃除が終わったら他のみんなは帰っちゃったけど、私はちょっと休憩。
昼休みの出来事は本当に怖かった。
うちの学校に、あんなことをする生徒がいるなんて驚きである。
あの後、燃えたプリントを見た先生が大騒ぎ。目撃証言が一杯あったから犯人もすぐに特定されて、厳重注意されていた。
注意程度で済むのはおかしい気もするけど。まあ、相手は霊術師の家だし仕方ないかも。
件の上級生は罰で音楽室の掃除をしているらしい。
性格が悪そうだったけど、本当にやっているのだろうか、と音楽室を見下ろす。
すると、上級生二人組が室内に居るのが見えた。けど、掃除はしていない。
開けた窓にもたれかかって、外を眺めている。
私と同じである。これはサボってるな。
……先生に言いつけてやろうかな。でも、バレたら目を付けられそうで怖い。
などと思いながらぼんやり様子を見ていると、急に二人が駆け出して教室を出て行った。
帰ったのかなと、思っていたらすぐに戻ってきた。
なにやら二人掛かりで、よたつきながら大きいバケツを運んでいる。
あれは、生ゴミなんかを入れるプラスチック製の60Lサイズのやつだ。
あのバケツすごく重そう。何か入っているのだろうか。
二人はそのまま窓際へ。そしてバケツを窓の外に放り投げようとした。
が、失敗。つまづく。
「え、何やってるの?」
思わず声が出てしまう。
二人は窓からバケツを放り投げようとして失敗。結果、真下に落ちた。
バケツの中には大量の水が入っていたらしい。
二人の目算では遠くへ放り投げるはずだったみたいだけど、真下に水とバケツが順に落ちていく。
そして、下の教室で窓拭きをしていた生徒に直撃。
身を乗り出していた後頭部に大量の水がかかり、体のバランスが崩れる。
そこにトドメとばかりにバケツが直撃した。
バケツを受けた衝撃で、生徒は窓から落ちてしまう。
「キャー!」
驚いた私は、思わず大声で悲鳴を上げていた。
もう助からない! あのまま落ちたら大怪我しちゃう!
そう思っても、何もできない。私は落下する生徒を見続けることしかできなかった。
地面に衝突しちゃう! と思った次の瞬間、誰かが生徒を空中で横抱きにキャッチした。
抱えられた生徒と抱えた誰かは、そのまま危なげなく着地。
二人とも怪我は無さそうである。
「よかったぁ……」
ほっと胸をなで下ろし、誰が助けてくれたのかと顔を確認する。
「九白さん!?」
なんと、落下する生徒を助けたのは九白さんだった。
彼女と助かった生徒の周りには人だかりができ、門で下校する生徒の見送りをしていた先生が駆けつける。
九白さんと、雲上院さん、それに助けられた生徒から先生が事情説明を受けている。
そして、人だかりを含めた全員の視線が音楽室に。
……だけど、その時には音楽室は無人になっていた。
あの二人組は逃げ出したようだ。
まあ、私が誰がやったか報告するけどね。
――それに、気になる事がある。
あの二人組は、真下の生徒にバケツを投げつけるつもりじゃなかった。
もっと遠くを狙っていた。それはつまり――
下校中の九白さんと雲上院さんを狙っていたのではないだろうか。
それが失敗して、九白さんが生徒を助ける結果になっちゃったみたいだけど。
昼休みの事を根に持っていて、仕返しをするつもりだったんじゃあ……。