軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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◆九白真緒

マズイ。

マズイマズイマズイ!

私は内心非常に焦っていた。

が、母に鍛えられた表情筋は、安定した状態を保っている。

誰が見ても、完璧に平静。落ち着いた佇まいをキープしている。

いや、そんなことは今はどうでもいい。

雲上院礼香に話しかけられた。というか、勧誘された。

あの雲上院礼香に!

そして、私の名前!

私は九白真緒!

だめだ! 完全一致というやつだ!

どうしよう!? どうしよう!?

ここまで激しくパニックに陥ったのは、初めてではないだろうか。

その原因は前世の記憶にある、『きらめき☆スピリットスター』というマンガのストーリーにある。

この作品は、お金持ちたちが通う高校が舞台となっていた。

そこへ特待生として入学した主人公が、学園のヒーローと出会って思いが通じ合うまでを描いたラブコメマンガだ。

――そして、この作品は連載マンガだった。

連載マンガというのは、人気がないと物語の途中でも終了を宣告され、バッサリと打ち切られてしまう。

『きらめき☆スピリットスター』は、それなりに人気作であり、ちゃんとエピローグまで描かれていた。

だが、人気作としての地位を維持し続けるために、何度となくテコ入れが行われた。

テコ入れ――、要するに物語上で凄い出来事が起きたという事だ。

連載が長期間になれば、飽きられる危険性も高くなり、テコ入れもよりハードなものになる。

ハイジャックもあれば、強盗もある。

お金持ちが通う学校じゃなかったのかよ、周辺の治安はどうなっているんだよ!

と、ツッコミたくなるが、そんなことを気にしていたら掲載順位が落ちて打ち切りエンドなのだ。

他にもヒロインが雪山で遭難して、ヒーローが単身助けに来るとか。

いわゆる定番の展開も満載である。

物語の終盤間近になると、それはもうドンドコドンだ。

その最大の被害者になったのが、悪役令嬢である雲上院礼香だ。

まあ悪役だし、フィクションだ。どんな目に遭ってもしょうがないのはしょうがない。

雲上院礼香は主人公をいじめぬいて、ヘイトを買っていた。

それを解消させるためもあり、死んでしまうのだ。

このマンガ、舞台は現代に限りなく近い。

そのため、悪役令嬢のいじめは、ヒロインを殺すようなものではない。

一応、ヒロインを殺そうとした人物も存在するが、それは雲上院礼香ではない。

彼女が行ったいじめは、相手に恥をかかせるとか、悪い噂を流すとか、そういう類いである。

そういったイジメを行った者の罰としては、全てを失うような制裁を受ける形で落ち着くのが定番。

――でも、死んじゃうのだ。

しかも、かなり無茶苦茶な展開で。

なんと、学校に銃を持った脱獄犯の集団が侵入。

生徒を人質に立て篭もる。

そんな中、雲上院礼香は取り巻きを盾にして逃げようとした結果、銃で撃たれて死亡。

盾にされた取り巻きも銃で撃たれて死亡、という展開だ。

撃たれて死ぬ取り巻きは二名。

四谷真理(ヨツヤ マリ) と九白真緒。

マリマオコンビとか言われてたっけ。

はい、九白真緒って私だよね。

これは死確。死亡確定だわ〜……。

だいたい、取り巻きの名前とか、作品の本筋から遠すぎるよ〜。

きっちり覚えてるわけないって〜……。

まあ、覚えていたから、今慌てふためいてるわけだけど……。

しかも、『きらめき☆スピリットスター』では、霊術の存在はかなり雑に扱われていた。

作中、主人公のヒロインがいきなり霊気に目覚め、五属性の使い手となっていた。

しかも、ストーリー上では、さして深堀りされていない。

ほとんどフレーバーテキストのような扱いで、「え〜い!」とか言って、たまにビーム撃ってただけなんだよ。

……気付けないって。

それだけのヒントじゃ、無理だって……。

大体、フォーゲートとか作中に一切出てこなかったからね!

も〜! どうしたらいいのよ!

落ち着け、私。

そうだ、もう一人の取り巻きである四谷真理はどこにいるんだろう?

確か原作では、四谷真理と九白真緒は幼馴染の設定。

しかし、私にそんな幼馴染はいない。

――というか、幼稚園も小学校もまともに通っていないからか!

自分から接点を潰していたよ!

これじゃあ、会えるものも会えないわ。

冷静になった私は学年全体を調べ、隣のクラスに四谷真理がいることを確認した。

どうやら、普通に友達を作り、クラスで仲良くやっている様子。

クラスも別だし、私と知り合いでもない。

これなら四谷真理は雲上院礼香と接触する可能性はなさそうだ。

つまり、このままの状況を維持できれば、彼女は死なずに済む。

フラグ回避だ。やったね……!

マンガのことなど一切考えていなかったが、たまたま一人の死亡フラグを回避することに成功していた。

そして私自身。

ついさっき、雲上院礼香の申し出を断った。

――あれ? このまま何事もなければ、私も死なないんじゃない?

しつこく勧誘されるようなら登校しなければいいし、意外と何とかなりそう?

知らない間にいい感じに、全部終わってた。

いやあ、良かった良かった。慌てて大騒ぎしていたことが恥ずかしいよ。

今の状態を維持し続ければ、死ぬのは雲上院礼香のみ。

って、雲上院礼香は死んでしまうのか……。

う〜ん……、悪役令嬢が死ぬのは、自業自得な部分もあるしなぁ。

でも――、やりすぎだよなあ。

いくら、いじめっ子とはいえ、死ぬ事が分かっていて見過ごすのは後味が悪すぎる。

というか、フィクションの話ではないのだ。

人一人が死ぬと分かっていて知らないフリするとか、どうかしてるだろ。

よし、高校は彼女と同じ学校に通い、事件当日に母に頼んで脱獄犯グループを確保してもらっちゃおう。

いや、学校を襲撃する前に、捕まえることが出来ればもっといい。

そうすれば、雲上院礼香も死ぬ事はない。

未来を知っている私が、苦い気持ちを味わうこともない。

とりあえず死亡者がでなければ、それでいいだろう。

私も万能ってわけじゃない。

彼女が悪役令嬢になるかどうかは、彼女の人生だ。

私が関与するところではない。そこまでの面倒はみきれないもんね。

そもそも、今の彼女の性格はどうなんだろう。

今の段階で、手がつけられないほど悪役令嬢しているのかな?