軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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◆狐坂移蔵

――脱獄騒動が始まる少し前。

狐坂移蔵は、道内にある胃根に教えられた凶石の隠し場所に来ていた。

人が訪れることのない山奥にあり、毒の結界に守られた洞窟。

進入時に使う解毒剤は渡されたが量に限りがある。

そのため、何度も訪れることは叶わない。

「暗殺をやめて方向転換したと言っていたが、これほどとはな……」

目の前で怪しく輝く凶石の山を見て、驚愕する。

一体どれだけの時間を掛けて集めた量なのだろうか。

痕跡を見るも、半分減った様子はない。

本来であれば、山分けと言う話だった。

ただし、期限以内に持ち去った形跡がない場合は、全て使って構わないという話になっている。

現時点で、期限はとうに過ぎていた。

狐坂がこの場を訪れることより、自身の仕事を優先したためだ。

約束の時は経過しているので、眼前の凶石を全て使って問題ないことになる。

ただ、量が量だけに、この全てを本当に自分だけで使ってしまってよいものか、もう少し待つべきか迷いが生じた。

「あと少しだけ待つか……」

どのように使うかも考えていないし、ここ以上に安全な保管場所もない。

しばらくはこのままにしておこう。そう判断する。

しかし、約束の時期を過ぎても、凶石が持ち出されていないことが気になる。

胃根に何かあったのだろうか。

狐坂は、一度様子を見に行くべきか悩んだ。

基本、我々はお互い不干渉かつ、分散行動を貫くことになっている。

だから、胃根に同行して鬼谷へ会いに行くのを断った。

そうすると、三人が集結した状態が長く続くことになってしまうからだ。

が、鬼谷に進捗を聞きつつ、胃根に会えたかどうか世間話をする程度なら問題ないだろう。

その程度の情報交換なら、今までも何度かあった。

「行ってみるか……」

狐坂は、胃根の状態を確認するため、鬼谷へ会いに行くことを決めた。

――思い立った狐坂は早速結界がある場所へ向かった。

「む、どうなっている?」

たどり着いて周囲が変化していることに気づく。

ここは、未踏破エリアと呼ばれる区域内。

人が寄り付かず、長年放置されていた場所だ。

だが、今は違っていた。人の出入りがあるのだ。

山のふもとに、プレハブの仮設住宅がある。

もう一つ気になったのは、結界の近くに古い民家が一つあったこと。

ここには数えるほどしか訪れていないが、その時あの家の存在に気づかなかった。

それだけ結界に注意を奪われていたのだろうか……。

そして、結界のある洞窟周辺を霊術師と思しき者たちが見張りを行っていた。

おかしい。前はこんな状態ではなかった。

狐坂は疑問を覚えながら接近。

霊術師たちに気づかれないようにしつつ、洞窟へ近づいていく。

そもそも、このような状態では、結界の側にいる鬼谷が見つかってしまい、破壊工作ができない。

まさか……。

嫌な予感を覚えつつ、内部へ侵入を果たす。

警備を担当している霊術師は大した実力ではなかった。

そのため、相手に気取られることなく、結界の側まで来ることができた。

物陰に身を潜め、結界の様子を窺う。

鬼谷が絶えず攻撃していたにしては、綺麗な状態だ。

どうにもおかしい。

何より、鬼谷がこの場にいないのが不自然だ。

奴は変質的執着と表現した方が相応しいほど、王に忠誠を誓っている。

だから、王が結界に閉じ込められている現在、側から離れるようなことはしない。

つまりは、この場に鬼谷がいないということは、やられたと考える方が自然。

どういう経緯かは分からないが、結界が発見されたときに、鬼谷も倒されてしまったのだろう。

そうなると、もうひとつ浮き彫りになってくることがある。

鬼谷と接触を図った胃根の安否だ。

この状況を胃根が知って、自分に知らせに来ないのはおかしい。

なにより、期限が過ぎたのに凶石が持ち出されていなかった。

つまり、胃根もやられてしまったと考えた方がいい。

――まさか、ここに来て二人がやられてしまうとは。

かなりの衝撃だったが、なんとか気持ちを立て直す。

狐坂は、見張りの隙を突いて結界に触れてみた。

自分の能力で結界に干渉できないか試すためだ。

しかし、結果は失敗。分かっていた通りの展開となった。

なんせ、以前も試して駄目だったのだ。だから、鬼谷に破壊の仕事を譲った。

念のためと思って試してみたが、やはり駄目だった。

そうなると、この場でできることはない。

狐坂は、速やかにその場から遠ざかった。

人が寄り付かない場所まで離れ、これからどうするかを考える。

三人で王の解放と、その後のために活動してきたが、残ったのは自分だけとなってしまった。

これから先の事を考えると、一番重要なのは王が閉じ込められている結界だ。

あの結界については、おかしな部分が複数ある。

そもそも、あの場所が人間たちに知られていなかったことが不自然だった。

普通に考えれば、王を封じた結界なのだから、重要な情報として管理されているはずなのだ。

しかし、我々が発見した時、結界は完全な放置。野ざらし状態だった。

状況から考えて、結界を作った者と王が相打ちになったのかもしれない。

そのせいで、今まで人間側に知られていなかった……。

だが最近になって誰かが痕跡を見つけ出し、結界の場所に辿り着いたと考えるべきか。

その後、大量の霊術師に襲撃されて、鬼谷が死亡。

そして拠点化され、霊術師が常駐するようなった。

そのことを知らなかった胃根が、鬼谷に会いに行ってやられてしまった、という流れか……。

鬼谷と胃根、あの二人を倒してしまうような霊術師の集団に包囲されれば、自分も無事では済まない。

あの二人を倒した霊術師たちに対抗できなければ、結界へ干渉するのは難しい。

それ以前に、今のままでは何をしようとしても力が足りない。

飛躍的な強化が必要だ。

まずは、保存されていた凶石の半分を使用し、己を強化しよう。

残りの半分は一応残しておく。

鬼谷が生存している可能性はゼロだが、仲間の分まで消費してしまうことに抵抗を覚えたためだ。

それに胃根が残した凶石は大量にあり、半分でも充分な量といえる。

あれだけの凶石を食らえば自身に備わった特殊能力も、拡張できるはず。

ならば、それで問題ない。

胃根が王に献上するために用意しておいた凶石は、彼女が所持していた地図がなければ所在不明。

それなら、残した半分は自分で使わず王に献上するのがいいだろう。

凶石を食って力が増せば、相手を倒すことができなかったとしても、逃げることはできる。

しかし、それだけでは足りない。

自分の能力は戦闘向きではないので、もう一手欲しいところだ。

その辺りは、自身を強化してから考えるとしよう。

ひとまずは、凶石の消費だ。

思考をまとめた狐坂は、凶石の保管場所へと向かった。

◆とある警護士

伊藤は目を閉じ、最近の出来事を振り返っていた。

あれは、北海道関連の仕事の道筋が立った頃だった。

突然、上司である九白弓子から招集があり、メンバーが選抜された。

そのメンバーに自分も選ばれた。

久々の現場に心を躍らせながらブリーフィングに参加すると、なぜか契約を持ちかけられた。

――霊薬を飲まないか、と。

条件は二つ。

料金は会社が全て負担するが、確実に飲み切ること。

その後の修業などのアフターケアを保証する代わりに、二十年転職不可。

といった内容だった。

また、飲む霊薬は最新の物で、飲み続ける期間が短縮され、固定で一属性が出るように調整されているという。

その話を聞き、全員が浮ついた反応を示すこととなってしまう。

この頃になると、社員全員が弓子の娘である真緒と、その友人である雲上院礼香の霊力や属性について知っていたためだ。

結果、選抜メンバー全員がその場で即決で契約した。

そこから毒物と言っても過言ではない霊薬を飲み干して、仕事をする毎日が始まった。

無事に霊薬を飲み切り、霊気が発現すると、今度は霊術の修業と仕事をセットで行う日々。

強い充実感と引き換えに、中々に過酷な毎日を延々と過ごすこととなった。

真緒お嬢様は、これを四歳の頃にやったというのだから、驚きを隠せない。

それなりの苦痛を伴う毎日だったが、誰一人として音を上げなかった。

なぜなら、全員が効果を実感していたからだ。

修業を実践し、日に日に増していく霊力に全員が歓喜した。

特に、霊核の成長は視覚的にも分かり易く、強烈にモチベーションを増加させた。

監督する立場だったはずの弓子が一番熱狂していたのも、今では懐かしい思い出だ。

そして、霊術師免許を取得するための試験。

初回は、選抜メンバー全員が不合格という、不本意な結果に終わってしまった。

――なぜ不合格になったか。

理由は単純だ。全員、霊気を使わなかったのだ。

試験用の妖怪を、ある者は絞め殺し、ある者はナイフで刺殺し、ある者は殴り殺した。

全員、霊気を使うのを勿体ないと感じ、使用を控えたために起きた悲劇。

皆、全ての霊気を無駄なく霊核に圧縮する事に全てをかけていた時期だったのだ。

しかしそのせいで、お前たちは何をしにここに来たんだ、と叱責されてしまう。

霊術師の試験を受けに来たのに、霊気を使わずに物理で倒してどうする、と至極真っ当な指摘を受けてしまった。

結果は惨敗。霊術師を目指す十代の子たちに交じって参加したのに、最年長組の自分たちだけが全員不合格。非常に恥ずかしい思いをした。

その後、再試験で何とか合格を果たす。

正直、二度目の試験も全員危ない状態だった。

試験時、全員が霊気の消費を勿体ないと感じ、最小限の使用に抑えた。

それが、霊力が低いのではないかという疑いに発展し、審議対象となってしまったのだ。

その後、試験官の前で慌てて大盤振る舞いをして、なんとか合格となった。

紆余曲折あったが、契約者全員が霊術師という肩書きを手に入れることに成功したのだ。