作品タイトル不明
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早く……っ。呼吸が止まる前に説明しないと。
「発現確率が三割に上昇します。それに、これ以上生産数を増やすのであれば、品質が低下し、五割に到達する可能性も……」
「もっと確率を上げられるか?」
「え」
何聞いてきてるの、この人。
そんなものを飲んだら、高確率で一属性になるってことでしょ。
その質問に、どんな意味があるの?
ああ、脳に酸素が届いていない。
早く答えないと。
「そんなの簡単です。粗悪品にすればいいだけです。でも、そんなことをすれば、一属性しか発現しない薬になってしまう危険性がありますよ!」
私が早口でまくし立てると、オーナーが震え出した。
完成度の低い品に怒り心頭なのかと思いきや、顔色を見ると興奮して喜んでいるようにしか見えない。こ、怖い。
あ、降ろされた。
またフライハイするかもしれんから、しっかり空気を吸っておこう。
「それで、一属性しか発現しない薬の作成難易度は高いか」
「え?」
質問の意図が分からず聞き返したら、睨まれた。
く、答えればいいんでしょ、答えれば。
私は、実際に頭の中でシミュレートしてみる。
「先ほど、粗悪品と表現したように、制作難易度は低いです。繊細な工程を省くだけなので、大半の作業を力技で、ごり押しできるようになります」
「制作時間は今と同じか、それとも長くなるか」
と、聞いてくるので、工程を洗い出す。
私が作り出した霊薬は、品質が高いと二属性を発現しやすくなる。
そこに一属性が発現しにくくなる処理を施す。
更にもうひと手間加えることで、三属性が発現できる可能性が付与される。
つまり、一属性を発現しにくくなる工程と、三属性を発現させる工程がまるまるカットできるので、完成までの時間が短縮される。
そして、二属性を発現しにくくするために、意図的に品質を低下させなければならない。
これは、あらゆる製作工程を雑に仕上げることと、一度の生産数を増やすことで、解決できるだろう。
ついでに、二属性、三属性を発現させなくてよいのなら、使用する素材の種類を減らせる。
結果、使わなくていい設備が出てくるので、その場所にも新しい生産ラインを配置できる。
完成までの時間も短縮できるが、生産数も上げられそうだ。
いや、そこは確実に一属性を発現する工程をプラスすべきだろうか。
その辺りは、要相談だな。
「詳細を詰める必要はありますが、およそ半分くらいの制作期間に短縮できます。あ、それと」
話しながら思いついたことがあり、つい余計なことを口にしてしまう。
「なんだ?」
当然、鋭い視線で先を促される。
「二属性以上を発現しなくていいのなら、薬の摂取量を減らせます。飲み続ける期間が半年から三か月くらいになる感じでしょうか。そうなると、一人に使う総量が減るので、生産量は自動的に増えることになります」
二属性や三属性にならなくてよいのなら、半年間も摂取し続ける必要はない。
それに加え、素材を減らして成分が減った分、体への吸収効率も良くなるはず。
その二つを加味すると、三か月くらいで霊気を発現しそうだ。
「そうかそうか。ハッハッハ!」
何が面白いのか全く理解できないが、オーナーが大声で笑いながら私の背中をバンバンと叩く。
意図が理解できず、恐怖が先行する。怖い怖い怖い。
「よし、今まで作っていたもの、保管していたものを全て廃棄だ。一属性しか発現しない霊薬を作る工場に改装するぞ」
「ええ!?」
今まで作っていたもの全部廃棄? それ、いくらすると思ってるの。
大体、一属性が発現する霊薬を作って、どうするつもりなんだ。
「そんな霊薬を作ってどうするんですか? 誰も欲しがりませんよ!」
「欲しいと言っても、当面は誰にもやらん。出来たものは全て部下に使わせる」
嬉々とした表情で答えるオーナーの顔を見て、私はドン引き。
「えぇ~……」
そんなもの作って飲ませるとか、パワハラの極致じゃん。
ブラックにも程があるだろ。
「まだ飲み始めていなくて良かった。これで私も新しい霊薬を試せる」
飲み始めなくて良かった? 一属性の霊薬を自ら試す?
く、狂ってる……。
この工場なんなん? このクライアントなんなん?
なんでそんな無駄なものを大量生産するん? 作ってるこっちが病みそうなんですけど?
もう、おうち帰りたい……。
満足そうに笑い続けるオーナーを見た私は、言い知れぬ恐怖を覚えた。
「ところで、誘魔の香を知っているか?」
現実逃避気味にライフラインが断たれた雑居ビルを懐かしんでいると、オーナーが質問してきた。
「はあ、知っていますけど」
――誘魔の香。
妖怪を呼び寄せるお香だ。
非常に効果が高く、扱いには細心の注意を払う必要がある危険物である。
「なら話が早い。大量に必要になった。同時進行で大量生産しろ」
と、オーナーがいつも通りの雰囲気で、端的に指示してくる。
「え、一体何に使うんですか」
用途が不明すぎる。
そんな物を作っても、使いどころが見当たらない。
どうするつもりなんだ。
ぶっちゃけ、仕事が増えるから無駄なことはしたくないんだけど……。
「妖怪を呼び寄せる効果があるんだから、そのために決まっているだろう。おびき寄せて狩るんだよ」
「そんな生易しい効果じゃないですよ。根こそぎ引き寄せるから、東京の通勤ラッシュ状態になりますよ?」
か、勘違いしている!?
私は、勇気を出して使用目的を聞いた自分を、心の中で褒めちぎった。
危うく無駄な仕事が増えるところだった。
誘魔の香は、そんな生易しい物じゃない。
あれは、妖怪退治に使えるような代物ではない。
強烈な掃除機で吸い寄せるくらいの効果があるのだ。
制御して活用しようとすると、必ず失敗する。
しかし、こちらの指摘を聞いても、オーナーの表情に変化はなかった。
「くく、それはいい。一属性の試し撃ちにもってこいだ」
と、ニヤリと笑う。
「えぇ~……?」
自殺したいの? そうなの?
大量の妖怪相手に一属性の霊術師をぶつけるっていうのは、そういうことだよ?
ブラックを通り越して、自爆行為に等しい。
さすがに洒落になっていない。霊術師じゃない素人が考えた夢の計画すぎる。
いくらなんでも穴だらけだ。ザルってレベルじゃないぞ。
しかし、そのことを指摘すれば、私がここで自爆することになる。
……オーナーは霊術師としては素人かもしれないが、馬鹿ではない。
きっと、計画が実現不可能なことに気づけば、途中で中止にするはず……。
私は期待を込めてそう判断し、反対意見を心の引き出しにそっとしまい込んだ。
「人が必要なら早めに言え。頼んだぞ」
オーナーのごり押しで、お香作りが決定してしまった。
結果、無駄で面倒な仕事がひとつ増えるということになった。
――最悪だ。
そして、言いたいことを言い終えたオーナーが立ち去ろうとする。
と、そこであることに気づいた私は慌てて引き留めた。
「ちょ、ちょっと待って。材料! 材料が足りません! 誘魔の香なんて誰も欲しがらないから、市場に素材が出回っていないんですよ!」
お香作りには、大きな問題が一つある。
それは材料の不足だ。
そのことを、オーナーにまくし立てて説明する。
しかし、こちらの声が聞こえているはずなのに、オーナーは歩いて行ってしまう。
「なら作れ。この辺なら畑も作り放題だろ」
そう言って、出て行った。
「まじか……」
というわけで、一属性の霊薬を大量生産する上に、危険物と認定されているお香の材料を確保するために畑仕事をすることが決まった。
私は、ここで一体何をさせられているんだろう……。