軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

145

◆玄宮勝邦

玄宮家当主、玄宮勝邦は最側近の鶴見から報告を受けていた。

「十家の会議で結界のことが議題に上がったようです」

「で、どうなった」

報告は受けている。

詳細不明の結界が、未踏破エリアで発見されたという。

「判断がつかないので、玄宮家の見解が知りたいそうです」

「そうなるか……」

勝邦は腕組みをし、考え込む。

結界の事は玄宮の血を引く者にしか分からない。問い合わせが来るのは当然の帰結だ。

だが、その結界については、ある程度予測がついていた。

――多分、その結界は主流派と関係している。

発見された場所から、簡単に推測できることだった。

不本意な話だが、現在、玄宮家と名乗って活動している者たちは、掃討戦時に逃げ回っていた者の末裔となる。

掃討戦時、玄宮家として表舞台で活動していた主流派と呼ばれる者たちは、戦闘が休止となる直前に全員行方不明となってしまった。

そして、当主と主流派の不在が長期間続き、残された者の中から、なし崩し的に新たな当主が決まった。それが勝邦だ。

そんな、戦闘に対して消極的姿勢を貫いている現玄宮家が、未踏破エリアに赴いて結界を作ることなどありえない。

そんな危険な場所へ赴く気概の持ち主など残っていないのだ。

つまり、未踏破エリアにある結界は、主流派が残したものと考えるのが妥当なのである。

それを裏付けるように、結界の側で玄宮の者が残した痕跡を発見したという報告も聞いた。

生存が絶望的という予測付きで。

(未踏破エリアか……。これでは前当主も死んでいるだろうな)

元来、四柱の当主は霊獣と契約している。

契約しているからこそ、当主と認められる。

が、勝邦は霊獣と契約していなかった。

霊獣と契約していた前当主が行方不明のため、霊獣も行方が分からないのだ。

霊獣と契約していない勝邦は、当主として非常に不安定な状態だった。

霊獣不在のため、他の三柱の当主と同等の扱いを受けることが憚られる。

四柱の中では発言力も低く、霊獣との契約を催促される始末。

それに加え、一族の中では、新たな当主候補の噂が後を絶たない。

勝邦には、そういったことを黙らせる術が無かったのだ。

(主流派が残した結界か。もしかすると……)

そこに霊獣がいるかもしれない。

霊獣さえ見つかれば、今の状態から脱却できる。

(早急に現地へ向かい、調査しなければ)

勝邦は、件の結界に一縷の望みを見出した。

まず、現地でやるべきは霊獣の捜索。

とにかく霊獣の不在状態が問題なのだ。

どこにいるかが分かれば、対策がとれる。

「実物を見ていないので何も分からないな。玄宮家として、一度結界を確認し、回答を出すと答えておけ」

「現地へ向かうのは危険では。結界は未踏破エリアにあると聞きます」

「気にしすぎだ。結界までのルートは確保され、現地には霊術師も常駐しているのだろう?」

鶴見は危険度が高いと判断したようだが、むしろ今が好機。

安全が保障されているわけではないが、現地へ向かう難易度が格段に下がっている。

このタイミングで、結界に向かい霊獣を探すのは理にかなっていた。

「それはそうですが……。最低限、護衛の数を増やすべきです」

「人を揃えると妖怪を呼び寄せる恐れがある。この場合は少人数が適当だな」

鶴見の進言はもっともに聞こえるが、実際は違う。

未踏破エリアでは、少人数行動の方が安全なのだ。

「承知いたしました。ですが、その結界、わざわざ当主様が出向いて調べる価値があるのでしょうか」

「……正直、結界などどうでもよい」

「え」

こちらの真意を測りかねて、鶴見が疑問を浮かべる。

「お前は、前当主や主流派が生存していると思うか?」

「音信不通になって時間が経ちすぎています。残念ながら、……難しいかと」

「私もそう思う。そこで結界だ。報告では、長期間放置されていたのに消滅していないそうだ。発見場所とその特殊性から鑑みて、結界は主流派が残したものと見て間違いない。そんな特殊なものなら、近辺に霊獣がいてもおかしくないと思わんか?」

「そ、それは……、確かに!」

説明を聞き、得心を得た顔で鶴見が頷く。

当主を含めた主流派が全滅しているのなら、現在の霊獣は誰とも契約していない状態。

それなら、見つけ出すだけで契約することが可能だ。

「つまりは、そういうことだ。近く、北海道へ向かう。準備を始めろ」

「承知いたしました」

勝邦は、退室していく鶴見を目で追いながら考える。

十家であれば、北海道へ向かうとなると、様々な障害を乗り越える必要がある。

が、自身は十家ではなく、四柱。

四柱であれば、十家の様なしがらみを気にする必要はない。

北海道へも近日中には向えることだろう。

――四柱は、十家と明確に違う部分が存在する。

それは、血筋。

公にはされていないが、四柱には、それぞれ扱える特殊能力が存在する。

玄宮家は結界の構築がそれに相当する。

結界は、その外見から霊術との判別がつきにくい。

そのため、収容施設などで普通に使用されている。

大半の霊術師は独自開発した霊術と誤解しているが、紛れもない特殊能力である。

柱の一族の特殊能力は、四柱の血を受け継いでいないと使用することができない。

その力を使えることが四柱の絶対条件。

つまり、外部の者が四柱へ昇格することは事実上不可能だった。

そのため、その地位が揺らぐことはあり得ない。

不動の頂点を確立していた。

逆に十家は、実力主義。

階位が存在し、力不足と判定されれば、上下の入れ替わりが発生する。

元は、全体の能力向上のために取り入れられた制度だったが、現在は機能していない。

今となっては、足の引っ張り合いに使われているだけ。

粗探しで用い、お互いを蹴落とし合うために利用されている。

全員が互いの行動に目を光らせ、監視し合う。

結果、消極的行動しかできない。

少しでも問題が見つかれば、全員から糾弾され、責任を追及される構造が出来上がっていた。

そうなると、十家自ら侵入を禁じた北海道へ入ることは、弱点を作る行為に等しい。

どのような手柄を得ようとも、規則を破ったと断じられる結末が待っている。

つまり、十家は事実上、北海道へ行くことは不可能だった。

しかし、四柱は違う。

四柱は十家も介入できない、不動の地位。

十家が作った規則も軽視して問題ない。

禁を破っても、厳重注意を受ける程度。

地位がはく奪されるような展開にはならないのだ。

(北海道へ向かうことに障害はない。あるとすれば、着いた後だな……)

やはり、懸念があるとすれば、結界のある場所だろう。

未踏破エリアが危険なのは間違いない。

そもそも、四柱の当主が前線を通り越したエリアに侵入するなど、前代未聞だ。

実際、結界がなければ自分も行こうとは思わない。

本来であれば、部下に向かわせるべき案件だろう。

しかし、今回に関しては、それでは問題がある。

――霊獣だ。

現地に霊獣が居た場合、部下が霊獣と契約してしまう可能性が捨てきれない。

そのため、どうしても勝邦自身が現地に向かう必要があった。

自分が結界を調査すると言えば、十家も色々と言って来るだろう。

それでも、結界について尋ねてきたのは向こうだ。

今回に限れば無理も通しやすい。

そういった意味でも、この機会を逃すわけにはいかなかった。

「霊獣が見つかれば、私も……」

肩身の狭い思いをしなくて済む。

霊獣と契約すれば、対抗勢力を黙らせることができる。

勝邦は、この好機を何とか生かそうと思索に耽る。