軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

126

◆胃根みどり

深夜。都内のとある自然公園。

前方に池が見え、街灯がスポットライトの様に照らすベンチ。

胃根みどりは待ち合わせ場所のベンチの側に立ち、狐坂移蔵を待っていた。

「お前に呼び出しを受けるなんてな。調子はどうだ?」

と、不意に死角から声が聞こえてくる。

振り向けば、狐坂がベンチに腰を下ろしていた。

「まあ、ね。貴方の方は元気そうね。計画が上手くいっているということかしら」

胃根は返事を返しながら、狐坂の隣に座った。

「今のところ順調だ。そっちは?」

「駄目ね。うまくいかなかったわ」

お互いに近況を報告し、様子を伺う。

相手は好調で、自分は不調。両極端な結果となっていた。

「そう言われてみると、最近噂を全く聞かなくなったな……。お前の役目は高位霊術師の毒殺。それほど難しいとは思えないが、荷が重かったか?」

胃根にとっては心外な問いかけだった。が、途中から結果が出せなくなったのも事実だ。

「これでも初めは順調だったのよ? だけど、重要人物を一人消せば、捜査が始まり、他の人物の警備が厚くなる。結局、数をこなせばこなすほど、やれることが減って、逃げ道も減るのよ」

胃根はうんざりした顔で溜息を吐く。

後半は本当に大変だった。

殺すことより、逃げることを考えなければ、何もできなくなっていたのだ。

狐坂が納得できない様子で尋ねた。

「それでも、十家の当主くらいは処理できるだろ」

「一応、十家どころか四柱にも手を出してみたけど、効果が薄かったわ。残念だけど、いくら殺しても、次の候補者が当主になるだけよ。だから暗殺は諦めて、お金と凶石を集めていたわ」

「ほう、思い切った方向転換だな。何もしていなかったわけではないんだな」

狐坂が驚いた様子で呟いた。

「まあ、それである程度の結果を残せたから、毒殺を止めたことについては大目に見てほしいわね。それで、そっちの進捗はどうなの?」

自身の詳細を話した胃根は、狐坂に対しても同等の情報を求めた。

「北海道内には、土地と相性の良い場所に門を設置済み。今は全国に門を設置する段階に移行中だ。王が復活成されたときに大軍を準備できるようになるまで、あと数年といったところかな」

「そう、良かったわ」

胃根は狐坂の報告を聞き、ほっとした。計画は順調。

自分の様に、効果が薄かったわけではない。

しかし、狐坂の方は分からない、といった感じに首をひねる。

「それで今日は何の用だ。俺たちは、痕跡を辿られないために、基本的にお互い不干渉のはず。わざわざ、俺の仕事の進捗状況を聞きに来たのか?」

「それもあるわ。本題は別だけど。さっき言ったでしょ、こっちはうまく行ってないって」

「それで、お前の仕事を手伝え、とでも?」

自身の仕事で手一杯なのに、このうえ金稼ぎや凶石集めを手伝わされるのはごめんだ、とでも思ったのだろう。

狐坂が、ことさら嫌そうな顔をする。

それに反応し、胃根が首を振った。

「違うわ。実は、以前懇意にしていた仕事相手が捕まったのよ。このままだと、芋づる式に私も捕まる恐れがある。だから、北海道へ身を隠すことにした。これ以上の活動が無理になったことを伝えに来たの」

顔を歪ませた胃根は悔しそうに親指の爪をかむ。

そして、盛大な溜息をつくと話を続けた。

「それで、貴方に私が溜め込んだものを引きついで貰おうと思って呼んだわけ」

「溜め込んだもの、というと金と凶石か」

狐坂は腕組みし、考え込むように顔を伏せる。

「そうよ。凶石は貴方たちの仕事が捗るようにと思って溜めたものよ。貴方自身が使ってもいいし、貴方が用意する軍勢を強化するのに使ってもいい。貴方の能力なら、その辺りも自在に行えるはず」

「なるほど」

「その代わり、私の仕事の成果が芳しくなかったことに関しては、王に取りなしてよ?」

胃根の思惑としては、仲間の仕事の効率を上げつつ自分の失態を擁護してもらいたかった。

「ふむ、それなら凶石を王に献上した方がよくないか?」

「それは別に用意してあるわ。だから、遠慮なく貰ってちょうだい」

そう言いながら、二枚の地図を見せる。

片方は狐坂たちに譲渡予定の凶石の場所が描かれた地図。

もう片方は、王に献上予定の凶石の場所が描かれた地図だった。

「ならば、受け取ろう。王に取りなす件も承った」

自分にデメリットがないと判断したのか、狐坂は笑顔で首肯した。

凶石を食うと力が強まる。しかし、その効果が大きいのは低位の妖怪。

自身や、隣にいる狐坂程になると、低位妖怪の凶石を一つ摂取しても体感では力の強まりを実感できない。微差に収まる。

強化と呼べるほどの効果を実感したいのであれば、大量の凶石が必要になる。

そのため、ある程度の力を付けた妖怪は自然と凶石での強化を控えるようになる。

だが、大量にある凶石を無条件でもらえると聞けば、断る理由もなかったのだろう。

「お金は全額渡すけど、凶石は半分だけよ。残りの半分は北海道へ行ったときに鬼谷に渡すつもり」

鬼谷剛。胃根たちの仲間であり、忠誠心の塊。

王のこと以外、全く興味を示さない。

それぞれの役割を決める際も、能力的に一番不適正なのに、王の捜索をやると言って聞かなかった。

現在は結界の破壊を担当している者だ。

「鬼谷か……。結界を発見したが、破壊に手間取っていると聞いた」

「私もよ。だから、集めた凶石で力を増強してもらうのよ」

「妙案だな」

狐坂が機嫌よく同意してくれたのを見て、胃根は無理を承知で頼みごとをしてみることにした。

「ちなみに、そのために貴方に同行してもらうことは可能かしら」

こちらの申し入れを聞いた途端、狐坂が渋面を作る。

「我々は基本不干渉。三人も顔を合わせて行動を共にするのは避けるべきだな」

狐坂が同行すれば、一時的でも三人が同じ場所にいる状態を作ることになる。

それが避けるべき状況というのは、よく分かる。

しかし、彼が同行してくれると、随分と手間が省けるのも事実なのである。

狐坂の言い分が正しいと判断した胃根は、すっぱり諦めた。

残念だが一人で行くしかないだろう。

「仕方ないわね。それなら、凶石の隠し場所に鬼谷を連れてくるしかないか。私では大量の凶石を動かす手がないから」

胃根はがっくりと肩を落とす。

受け渡す物が大量なだけに、ひと手間要することになる。

面倒だが、仕方がないだろう。

「手伝いたいところだが、お前は追われる身。接触も今回きりにすべきだな」

「分かったわ。これが隠し場所の地図よ。もし、一月経っても半分持ち出した形跡がないなら、全て持って行って構わないわ」

胃根は地図を差し出し、もしもの時の判断基準を話した。

「分かった。しかし、そんな大量の凶石をまとめて置いておいて問題ないのか」

狐坂は地図を受け取りながら、素朴な疑問を口にした。

凶石は、妖怪をひきつける。それが大量にあるとなれば、効果も上昇する。

そんな異質な場所があれば、人目に付くのではないかと思ったのだろう。

「人が居ない場所を厳選した上に毒を撒き、簡易結界を張ってある。誰も近づけないし、気づかないわ。そうだ、これが毒を無効化する薬よ。一口飲めば、半日持つから」

胃根は思い出したかのように、懐から小瓶を取り出して投げ渡す。

「特製の毒が撒かれて封鎖された場所か、ぞっとするな」

小瓶を受け取った狐坂は、冗談めかしにそう言った。

胃根は肩をすくめて見せた後、立ち上がった。

次いで、狐坂も立ち上がる。

「凶石の隠し場所は安全だから、用途が決まるまで置いておいても問題ないわ。私は鬼谷への受け渡しを済ませた後、王が復活するまで潜伏するわ」

「分かった。王復活の折、再会するとしよう」

その言葉を最後に狐坂の姿が消えてなくなる。

残ったのは自分一人。

狐坂との接触という用を済ませた胃根は、自然公園を後にし、北海道へ向かう準備を開始した。