軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

109

戦闘の音を聞きつけ、こちらへ向かって来る。

これはまずい。しかし、自分には抗える力は残っていなかった。

せめてこの状況を誰かに知らせなければ。

そう思った咲耶は震える手で無線を起動し、呼びかける。

「誰か……、聞こえていますか。妖怪の更なる増援が来ました。大型の妖怪が複数います。直ちに逃げてください。誰か……、応答を……」

「お祖母様! 聞こえましたわ!」

初め、無線からの応答かと思った。が、余りに声が鮮明過ぎる。

「お祖母様!」

違和感を覚えて困惑していると、もう一度自分を呼ぶ声が聞こえる。

今度ははっきりと分かった。無線からの音声ではない。

声が聞こえた方を向けば、孫の礼香がこちらへ駆け寄ってくるところだった。

一体どういうことだ。なぜ、こんなところに礼香が。

「逃げなさい!」

最後の力を振り絞って叫ぶ。が、礼香が止まることはなかった。

彼女は、自分に駆け寄ると抱え込むようにして支えてくれる。

子供の華奢な体からは想像もできないほど、しっかりとした力強さを感じた。

「は、早く……逃げ……て。妖怪が……」

呼吸が乱れる中、必死で逃げるように促す。

「少しここでお待ちください。すぐに戻りますわ」

礼香はそう言うと、咲耶を地面に座らせ、前に進んでいく。

「待ちなさ……」

なんとか引き留めようとするも、声が出ない。

妖怪の群れへ進んでいく礼香の背を見ていると、急激に意識が鮮明になってくる。

力も入らず、声も出ない。本来なら気を失う直前だ。

が、今から目の前で起こる光景を想像してしまうと、それが強烈な衝撃となって覚醒を促す。

可愛い孫娘の今日まで成長してきた様々な光景が頭の中で蘇り、それと同時に途轍もない負の感情がのしかかってくる。

自分が、ここに来なければ。

いや、そもそもこんなことをしていなければ。

自分は何ということをしてしまったのか。

このままでは――。

このままでは礼香が死んでしまう!

「お祖母様を傷つけたこと、この雲上院礼香が許しません!」

妖怪の群れの前に仁王立ちとなった礼香が広げた洋扇を振るう。

それと同時に左右に二本の黒柱が立った。

黒柱には黒い縄のようなものが結ばれており、それが礼香と繋がっていた。

「はっ!」

気合の一声とともに、レイカが洋扇を構える。

すると、それがきっかけとなり、周囲に無数の熱帯魚が現れた。

炎で形作られた魚たちは、全てが意思を持っているかのようにゆらゆらと宙を泳ぐ。

召喚された炎魚の数が多すぎるせいで、前方の視界が朱色に染まり、熱で空気が揺らぐ。

「行きなさい!」

レイカが行先を示すように洋扇を振るう。

その号令が合図となり、炎魚たちは妖怪の群れに突撃。

炎の豪雨と見まがうほどの密度で炎魚らが弾丸のように妖怪たちに降り注ぐ。

結果、小さな個体の妖怪は全滅。

残すは大型の個体五体のみ。

「しぶとい」

礼香が再度洋扇を構える。

すると、今度は背後に巨大なマンタが現れた。

途轍もなく巨大なマンタは朱色に輝き、強烈な熱をはらんでいることを否応なく理解させる。

「消えなさい!」

レイカが洋扇を振るうと同時に巨大マンタが突撃。

大型妖怪に接触すると同時に五体全てを消し飛ばした。

途端、静寂が訪れる。動くものが消え去り、何の音もしなくなったのだ。

完全なる掃滅。雲上院礼香一人によって、大量の妖怪が一瞬で駆逐されたのである。

眼前で起きた出来事に呆気にとられていると、礼香が振り返って戻ってくる。

「さあ、帰りましょう」

そう手を差し伸べられた姿に日が差し込み、まるで後光がさしたかのようになる。

咲耶は孫娘の手を取り、立ち上がった。相対してみれば、小さい少女。

それがこんなにも頼もしく成長していることに驚く。

感慨を覚えていると、山の陰から、新たな大型個体が現れるのが見えた。

「新手が……」

「任せてください」

頼もしい言葉とともに、礼香が洋扇を構える。

が、彼女が攻撃することはなかった。

迫る大型個体の側面に、強烈な光線が当たったためだ。

巨大な光線は大型個体を包み込むようにして通過し、周囲が消失。

何事もなかったかのように、元の状態へと戻る。

「今のは一体……」

霊気放出のように見えたが、威力と大きさが桁違い過ぎる。

とても人間が放ったものとは思えない。

そういった自然現象と考えた方が納得できるほどの代物だ。

目の前で起きたことに呆然としていると、光線が出た方から誰かが駆けてくるのが見えた。

「レイちゃーん!」

孫の名を呼びながら大きく手を振る人影。

あれは、礼香の友人である九白真緒。

すると今の光線は彼女が?

人間技とは思えない出力だったが、他に原因となるようなものは眼前に存在しない。

「マオちゃん!」

手を振って駆けてくる友人の姿を見て、礼香が顔をほころばせる。

自然災害を起こせる孫の友人。何とも頼もしい存在ではないか。

咲耶は、自分にそう言い聞かせて納得することにした。

◆九白真緒

ギリギリのタイミングであったが、お祖母さん救出作戦は成功。

ついでに周囲に潜伏していた大量の妖怪も全滅させることができた。

それならここを新しい拠点にすればいいよねってことで、私の霊術で深い堀と高い塀を建設。

それに加えて、廃墟に妖怪が隠れ住まないように、近辺を更地にしてしまう。

私とレイちゃんの霊気放出を使えば、ものの数分で終わる作業だった。

広範囲の処理は後々やっていけばいいだろう。

持ち主に許可を得ずに家を解体できるのは、妖怪が絡んでいる事案のためだ。

何年も放置された家屋に人が住むことなんてできない。

しかも、ただ放置されただけでなく、中は妖怪に荒らされてボロボロの状態だ。

そんな家の持ち主を探し出して許可を得るまで解体できないとなると、また妖怪が住み着いてしまう。

というわけで、一定条件を満たすと解体の許可がおりやすいシステムになっているのだ。

今回は事後承諾になるけど、最前線での出来事だし問題ない。

結果、すっきりと見晴らしの良い状態になったので、狭間も出来づらいだろう。

後は行政が介入し、妖怪が攻め入りにくい構造の町として再建されていくはず。

安全が確保されれば、建設ラッシュが始まるのではないだろうか。

と、今回の一件の一区切りがついたところで、レイちゃんのお祖母さんが引退を発表。

といっても今すぐではない。

今後の方針として、将来的には前線での活動を辞め、後方での支援に回る旨を皆に伝えた。

お祖母さんに付いてきた人たちには少なからず衝撃が走ったが、年齢を考えれば仕方がないかという意見が浸透し、後任に榊さんが付くことで話が落ち着く。

お祖母さんは一旦東京へ帰り、しばらく療養。

今まで北海道に入り浸りだった時間を見直し、家族と過ごす時間を増やすことにしたみたい。

その話を聞いてレイちゃんがとても喜んでいた。

お祖母さん一人が前線から引退したからといって、急に勢いが衰えるとも思えない。

これから先も何とかなるはずだ。

マンガでは雲上院礼香のお祖母さんなんて登場しなかったし、話題にも上らなかった。

それに加え、今回の一件。

もしかすると、マンガでは今回の出来事でお祖母さんは亡くなっていたのかもしれない。

そう考えるなら、レイちゃんとお祖母さんが一緒に過ごす時間が増えるのは歓迎すべきことだろう。