軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18:双子の姉は計画する

アランがガザード公爵邸を訪れるのと同じ頃、コーデリアは屋敷を留守にすることが多くなった。

アランに対して行った悪戯が気まずいのもあるだろうが、それ以外に、王宮の茶会に呼ばれることが増えたからだ。

王太子とその婚約者によって開催されるお茶会は、ごく一部の貴族子弟のみが招かれる。

次期国王となる王太子に近付きたい貴族達にとっては、正に垂涎の場であった。

そんな場に次期公爵のディアナではなくコーデリアが招待されることに、誰も疑問を抱かない。

婚約者が居る身ながらも、コーデリアは王太子のお気に入りであり、男女の仲を抜きにしても二人の仲睦まじい様子は評判であった。

当然、それは表向きの話だ。

王太子の婚約者であるケイリー・エルドレッド公爵令嬢にとっては面白くはないだろうし、ガザード公爵家としては外聞が悪い。

とはいえ送られてくる招待状を無視する訳にもいかず、またコーデリア当人が王太子に会いに行きたがることも、悩みの種であった。

「我が家の娘達は、まったく……」

「あら、私も同じ扱いですか?」

ぼやくガザード公爵ウェズリーに、ディアナが唇を尖らせる。

「どちらも手がかかる可愛い娘だという点では、同じに決まっているだろう」

父ウェズリーにとっては、ディアナもコーデリアも等しく可愛い娘なのだ。

それを分かっていながらも、ディアナとしては少し複雑だ。

前世のコーデリアがどうしてあんな行動に出たのかは、いまだにハッキリとはしない。

面と向かって聞いたところで、今のコーデリアに分かるはずもないだろう。

「コーデリアは最近すっかり呆けていることが多くなったようでなぁ……あれは恋の病か」

「コーデリアが王太子殿下に煩っているのなんて、今に始まったことじゃないでしょう」

ため息を零す父ウェズリーに、ついディアナは揶揄うような声を上げてしまう。

「そうだな。お前のアランと一緒だ」

すかさず父からやり返されて、肩を竦める。

年の離れた王弟アランに想いを寄せる姉も、婚約者の居る王太子ローレンスに想いを寄せる妹も、父親にとってはどちらも悩みの種なのかもしれない。

「私はもう婚約まで済ませましたから」

ふくれっ面で答えながらも、やはりいまだ父には申し訳なさは残っている。

そそくさと執務室を出て、廊下を歩く。

「コーデリアが恋煩い、か……」

本当に、今更な話だ。

ディアナにとって、双子の妹が抱いていた恋心など、それこそ彼女が十にもならない頃からよーく知っている。

想いを寄せられていた当の本人も、それは理解していることだろう。

だからこそ、今このタイミングでコーデリアを頻繁に王城に招くローレンスが、薄気味悪く感じてしまう。

王城に呼ばれたコーデリアは、上手くあの男に丸め込まれていないと良いのだが。

「色々とやりたいことはあるのだけれど、どうしたものかしら……」

ディアナが独り言のようにぽつりと呟いた時だった。

「やりたいこととは?」

「うわぁっ!?」

突然声を掛けられ、ディアナが飛び上がる。

気付けば、ディアナの隣を長身のアランが並んで歩いていた。

一体いつの間に……と思いはすれど、そういえば父の執務室を出てからというもの、長く考え事をしながら歩いていた。

自分の迂闊さに、思わず顔が赤らむ。

「い、居るなら居ると言ってください!」

「はは、真剣そうな表情だったものでな」

最近のアランは、すっかりガザード公爵家に自由に立ち入れるようになっていた。

それもそのはず、ディアナの婚約者ということは、次期公爵の婿。

屋敷の者達も、皆そのつもりで接している。

「……で。婚約者としては、妻になる人のやりたいことを知っておきたいのだが」

軽い口調とは裏腹に、アランの視線は真剣そのものだ。

じっとディアナを見つめ、彼女の表情を窺う。

「……お父様の後を継ぐなら、私も自分の商会を起ち上げるべきかと思ったんです」

ディアナの父ウェズリーは公爵であると同時に、ラトリッジ王国の経済を動かすとさえ言われた商会のオーナーでもあった。

ウェズリー自身が商売を行っている訳ではないが、彼とガザード公爵家が出資者となったガザード公爵領に本拠を置くルベイン商会は、公爵領にとってなくてはならない存在だ。

「公爵家を継ぐならば、ルベイン商会も継ぐことになるのでは」

「それはそうなんですけど、お父様のように自分で商会を大きくしてこそ経営者としての実力を認められるかなって」

「そこまで考えているのか」

ディアナの言葉に、アランが感心したように呟く。

父の力に頼らず、自分だけで商会を起ち上げて軌道に乗せることは、前世のディアナが切望していたことであった。

だが、一人で乗り出した商会経営には、多くの困難が待ち構えていた。

前世では、王太子がコーデリアを王宮に頻繁に呼ぶようになったのは、ディアナが商会経営に乗り出してからだった。

あの頃のディアナは、コーデリアが聞いてきたこと全てに明け透けに答えていた。

商会の運命を左右するような重要な機密でさえ、まさか双子の妹がその情報を王太子に売るだなんて思ってもみなかったのだ。

だが、結果は惨めなものだった。

競売の価格から取引先のリストに至るまで、全ての情報は王太子に筒抜けだったのだ。

前世のディアナは、最後まで双子のコーデリアを疑わなかった。

商会に携わった者を次々に情報漏洩の疑いで解雇して、最後に残ったのは自分だけ。

そうまでして信じたコーデリアに殺されて命を落としたのだから、本当に救いようがない。

「この屋敷は、人が多すぎますから……もっと少数精鋭の環境が良いのですけどね。なかなかそうは行かなくって」

「ふむ」

ディアナの言葉に、アランが顎を撫でる。

アランには、ディアナが前世でどのような思いをしたか、知る由もない。

だが、彼女が抱えているだろう不安には、心当たりがあった。

あれはディアナと想いを通わせ合った、翌日のことだった。

アランが花束を持って公爵邸を訪れた時に、なぜかコーデリアが甘ったるい声を掛けてきたのだ。

その時は何とも思わなかったが、帰りに門番と話をして気付かされた。

『まるであの時のコーデリアお嬢様は、ディアナお嬢様を装って王弟殿下に近付いておられるようでした』

そう言われた時には、婚約者の妹でありながら、不気味さを覚えたものだ。

もしアランがコーデリアであると気付かず、ディアナと思い込んで花束を渡していたら、それを見たディアナはどう感じただろうか。

……考えるだけで、アランの頭が痛くなってくる。

仲の良い双子の姉妹による悪戯──そう笑って済ませるには、あまりに配慮を欠いた行為だ。

コーデリアがスパイ行為を働くなどとは思わない。

思わないが、あの行動を思えば、ディアナと一緒に居させることにもいささか不安を覚える。

「新婚というのは、良いものだとは思わないか」

「え?」

突然の言葉にディアナが瞳を瞬かせ、アランを見上げた。

先ほどまでの会話と、今の言葉、どう繋がっているのかが咄嗟に理解出来ず、小さく首を傾げる。

「ディアナが望むなら、しばらくの間は別邸かどこかで二人で暮らしたとしても、誰も不思議には思わないだろう」

「あ……」

そこまで説明されて、ようやくディアナはアランの意図を理解した。

新婚生活を理由に家族と離れて別邸で暮らすのなら、コーデリアとは勿論、その息のかかった使用人達とも距離を置くことが出来る。

当然別邸にも使用人を連れて行く必要は出てくるだろうが、その相手は自分達で厳選出来るし、人数が少なければ情報が漏れた際に対策も講じやすい。

「よろしいのですか?」

「勿論、君がそう望むなら」

微笑んだアランの胸に、ディアナが飛び込む。

素直に甘えてくる恋人に目を細め、アランがディアナの髪を撫でた。

「となると、式は急いだ方が良いかな」

「二人で暮らす家も、決めなければなりませんね」

「そうだな。商売を始めるなら、その準備も必要だ」

「指輪も買いに行く約束ですわ」

結婚を前に、まだまだやることは山積みだ。

だが、今の二人にはそのどれもが苦にはならず、むしろ準備に楽しささえ感じてしまう。

蜜月にはまだ早いが、既に二人の間には甘い雰囲気が漂っていた。