軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話 デートの約束……?

綾香のおかげで無事に胡麻油を2本、手に入れる事に成功した晴翔。

当初の目的であった納豆と、綾香の買い物のワサビをそれぞれ買った後、2人は会計を済ませ、買った商品を袋詰めする。

「はい大槻君、胡麻油」

「有難うございます。本当に助かりました」

晴翔は綾香から胡麻油を受け取りながら頭を下げ、受け取った胡麻油を自分のエコバッグに入れる。

「大槻君、そのエコバッグ……凄く可愛いね」

「え? あぁ……実はこれ、普段は自分の祖母が使っているやつなんですよ」

晴翔は少し恥ずかしそうにしながら言う。

「あ、そうだったんだ。そうだよね、大槻君が使うには少し可愛すぎるもんね」

そう言いながら綾香はもう一度、晴翔のエコバッグに視線を向ける。

彼の持つエコバッグは淡いピンクの生地に、とても可愛らしいクマの刺繍が施されていて、高校男児が持つには少し幼いと言うか、乙女すぎると言うか、取り敢えず晴翔が持ち歩くには違和感のあるデザインではあった。

「まぁ、祖母が持つにしてもちょっと可愛いすぎるデザインだなとは思うんですけどね。祖母、好きなんですよねこういうの」

若干苦笑混じりに言う晴翔に、綾香が微笑みを浮かべる。

「私は良いと思うよ? 大槻君のおばあちゃん可愛い」

「あはは、有難うございます」

2人とも袋詰めが終わると、ガスバーナーを買うためスーパーに隣接しているホームセンターへと向かう。

「うわぁ、ホームセンターって思ってたよりも色々なものが置いてあるんだね」

ほとんど訪れた事がないというホームセンターに、綾香は物珍しそうに辺りをキョロキョロと見渡す。

「園芸品や日曜大工のものが売ってるってイメージだったけど、家電とか食料品とかも売ってるんだね」

「今のホームセンターは本当に品揃えがいいですからね。キッチン用品もありますし、なんならキッチンのリフォームも出来ちゃいますよ」

「へぇ、そうなんだ。あ! ペットコーナーだ」

綾香はガラスのケージに入れられている子犬を遠くに見つけると、そちらに向かってトトッと駆け出すが、直ぐに立ち止まり、若干恥じらう表情で晴翔に振り返る。

「ガスバーナー、買いに来たんだよね……」

「えぇ、まぁ。……少し見ていきましょうか?」

「良いの?」

「はい、大丈夫です」

「やった!」

綾香は嬉しそうに子犬の所まで駆け寄っていく。

そんな彼女の後ろ姿に、晴翔は苦笑を浮かべた。

「あんなの、断れるわけないって……」

周りには聞こえない小さな声で呟きを漏らす晴翔。

彼はポケットからスマホを少しだけ取り出して時間を確認する。

バイトの時間まで充分余裕とまではいかないが、少し寄り道するだけの時間はまだある。

晴翔は、ケージの前にしゃがんで子犬を見つめている綾香の後ろから、同じ子犬を観察する。

「可愛い〜あっ! こっち来た!」

「これはポメラニアンの子犬ですね」

晴翔はケージに貼られている子犬の情報を見ながら言う。

「この子の体、すっごくモフモフしててちっちゃくて可愛いよ!」

綾香はガラスに鼻が当たりそうなくらい顔を近づけて、目を輝かせる。

そんな彼女の様子に、晴翔も自然と笑みを溢しながら、ふと子犬の値段を確認してみる。

そして、ゼロの数を数えた後にゆっくりと視線を逸らした。

「大槻君! 見て見て! 肉球可愛い〜! ふわあぁ!」

ポメラニアンの子犬が、ケージのガラスに前脚をかけた後、その場でグルグルと周りだし、そしてまたケージのガラスに前脚をかけるという動作を繰り返している。

その可愛らしい子犬の仕草に、綾香は感極まったかのような声を出す。

確かに、ポメラニアンの子犬は小さくて、体もモフモフでまるで毛玉がポンポンと跳ねているかの様な可愛らしさがある。

しかし、晴翔の目にはそんな子犬の可愛らしさよりも、目の前の少女の方がよっぽど可愛く見えて仕方がなかった。

「東條さん、子犬好きなんですね」

「うん! こんな可愛いの嫌いな人の方が珍しいよ」

綾香は、先程から同じ行動を繰り返している子犬を飽きる事なく見つめ続けながら答える。

晴翔もそんな彼女の様子から目が離せなくなっていた。

美少女と小動物の組み合わせによる攻撃力は、高校生男児に、いや、世の男全てにクリティカルヒットする。

「東條さんと、ふれあい動物園とかに行ったら楽しそうですね」

一日中、動物と触れ合う綾香を観ていたら、目の保養になりすぎて視力が2.5くらいになりそうだ。そんな事を思いながら晴翔が何となしに言うと、今までガラスに張り付いていた綾香が、ばっと子犬から視線を外して晴翔を見上げる。

「私もふれあい動物園行ってみたい!」

「……え?」

「………………あ、いや、その……」

綾香の言葉に、疑問の声を漏らす晴翔。

その反応を見た綾香はハッとした表情になり、次第に顔を赤くしていく。

そんな彼女の様子に、晴翔も先程の自分の発言を思い返して、気恥ずかしさが込み上げてきた。

(あれ? 今の俺の言い方、東條さんを誘ってる感じになっちゃってる?)

本人としては全くそんなつもりはなかったのだが、期せずしてデートのお誘いをしてしまった。しかも、これも予想外な事に、彼女もそれを了承してしまった。

晴翔は、この状況をどうしようかと焦る心を必死に落ち着かせながら言葉を探していると、綾香の方が躊躇いがちに口を開く。

「ほ、ほら。動物園、涼太が好きで……そう! 涼太が好きなの! その……でも両親も仕事が忙しくて中々連れて行けなくて。でも、私1人で涼太を連れて行くのも、えっと、不安……と言うか、涼太も大槻君いたら……喜ぶと思うし……」

やたらと視線を泳がせながら、かなり言い訳がましい言い方をする綾香。

だが、晴翔も渡りに船である『涼太』に慌てて飛び乗る。

「あ、あぁ! そうですね。涼太君、動物園好きそうですよね」

「そ、そうなの。だから、その……」

途中で言葉を詰まらせ黙り込む綾香。

晴翔は、少し気まずい間を感じた後に、おもむろに口を開く。

「じゃあ……今度、行きますか? 動物園。……涼太君と、3人で」

「う、うん! 涼太と……3人で」

恥ずかしそうな、嬉しそうな、そしてほんの少しだけ残念そうな、そんな何とも複雑で魅力的な表情を浮かべる綾香を直視する事ができず、晴翔は彼女から視線を逸らす。

「えと、そ、そうだ。ガスバーナー買いに行かないと」

「そ、そうだね。ガスバーナー買わないと」

晴翔の取って付けたような言葉に、綾香はウンウンと何度も頷く。

その後2人は、ガスバーナーを買ってホームセンターから出るまで終始無言のままだった。

途中で何度か目が合うこともあったが、その度にお互い顔を赤くして顔を背けてしまっていた。

ホームセンターの敷地から出て、それぞれの家路につく前に、2人はもう一度顔を合わせ、そして逸らす。

「あの、それじゃあ、俺は一旦家に帰るので。また後で家に伺います」

「う、うん」

「それと……動物園に行く話については……」

「あっ! うん!」

晴翔の『動物園』という単語に、綾香は過剰に反応を示す。

「また後日に……その、日程とかを話し合いましょうか?」

「そう……だね。うん、そうしよう」

「それじゃあ、一旦……さようなら。また後で」

「うん、さようなら。後でね」

晴翔と綾香は言葉を交わすと、お互いに背中を向けてそれぞれの家に向かって歩き出す。

晴翔は暫く歩いてから、少し迷った後に後ろを振り返る。するとちょうど同じように振り返っていた綾香と視線が交差する。

「――ッ!」

晴翔はドキッとしながらも、軽く会釈をする。すると彼女も、はにかみながら小さく手を振ってくる。

晴翔は自分の顔が赤くなるのを感じ、慌てて前を向く。

「おいおいおい、可愛すぎだろ」

晴翔はニヤけ顔になるのを堪えながら、歩き出す。

「てか俺、東條さんとデートの約束、しちゃった?」

ポツンと1人呟く晴翔。

その後にブンブン首を振ってその考えを否定する。

「違う違う! 東條さんと2人きりじゃないし、涼太君がいるし。むしろ涼太君を動物園に連れて行く事が目的であって、東條さんと俺はその付き添い。つまりこれはデートではない!」

晴翔は「危ねぇ、勘違いするところだった」と胸を撫で下ろすが、直後にこれまでの彼女との会話を思い返す。

子犬に顔を輝かせる綾香、動物園に行きたいと期待を込めて言う綾香、視線が重なり恥ずかしそうにはにかむ綾香。

そのどれもが、晴翔にとってはとても魅力的に映ってしまっていた。

「マジで、可愛すぎ……」

家事代行のアルバイトで出会う前まで、晴翔の中での東條綾香という少女は、常に女子に囲まれ、男子には一切の興味を示さない人かと思っていた。

そんなふうに思っていた少女が、自分に対して笑みを浮かべたり、恥ずかしがったりしている。そして、弟が一緒とはいえ、動物園に行くことまで約束している。

「これから先、バイト大丈夫かな俺?」

今まで晴翔にとって、ただの『学園のアイドル』に過ぎなかった東條綾香という少女。

しかし、実際に接してみると意外と普通の少女で、とても可愛らしい一面があると知ってしまった晴翔。

「意識……しちゃうよなぁ」

晴翔が東條家に行くのは、あくまで仕事の為。

そこに邪な下心を持ち込むことは出来ない。

学校での『学園のアイドル』としての東條綾香と、家事代行で接する時の『普通』の東條綾香とのギャップに、自分の心がグラついていると自覚しながらも、晴翔はあえてその事については深く考えないようにする。

「よし! 取り敢えず今日は、魚を捌くことだけに集中しよう!」

晴翔は拳を握り気合を入れると、綾香の父である修一の釣った魚をどう調理するか考えながら、帰宅の途についた。