軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十七話 「狙われた聖女」

「囮? どういうことだいスピカ?」

その言葉の響きに不穏なものを感じたのか、レグルス様が怪訝な表情で尋ねてくる。

心配させてしまうかと思ったけれど、私は自分の中を考えを伝えることにした。

「犯人の手がどこまで及んでいるのかまったくわかりません。このまま私がホールに戻った時点で、捕縛が失敗したと判断されて犯人に逃げられてしまう可能性があります。ですから一度、私がちゃんと捕まったことにするんです」

「捕まった“フリ”をするということか?」

「はい。私はアルネブに捕まったフリをして、指定の場所まで連行される。レグルス様たちにはその場所の周りで潜んでもらい、犯人が現れたのを確認したのち確保に入っていただく。というのはどうかなと」

向こうもさすがに私自身がアルネブ側に協力して囮をしているとは思わないのではないだろうか。

犯人側から見ればアルネブはきちんと命令を遂行して私を拐って来たように見えると思うし。

ただ、それほどまでに危険な作戦ということでもある。

当然レグルス様は、私の身を案じて強くかぶりを振った。

「そんな危険な真似を君にさせられるはずないだろ……! 万が一僕たちの介入が遅れてみすみす君を連れ去られてしまったらどうするんだ」

「ですがそうしなければ犯人の尻尾は掴めません。現状で何も手掛かりがありませんから、時間も人手も限られている今こうするのが最善かと」

「……」

レグルス様は顔をしかめて黙り込む。

アルネブの妹さんは呪いを掛けられていて、向こうだけが解呪の手段を持っている。

もうこちらは後手に回るしかない状況なんだ。

いわばこれは人質交換。妹さんの呪いを解く代わりに私が犯人に捕まる苦肉の策である。

私を心配してくれているレグルス様は納得できない作戦だろうけど、今はこれしかない。

「ま、こうして話している今も怪しまれている可能性があるからな。心苦しい限りだが、スピカちゃんには一肌脱いでもらうとしようぜ。それに犯人の目的はわかっていないが、彼女を捕まえようとしている以上は殺される可能性も低いと思うからな」

「そ、そうです、ね……」

カストル様の説得で、レグルス様は鈍いながらも頷きを見せた。

納得した、というより、それ以外に方策がなくて渋々といった様子が見て取れる。

もう少し時間があればまともな策も練れただろうけど、今はこれで妥協するしかない。

時間制限は赤月の舞踏会が終了するまでなのだから。

「俺の妹のために、そこまでしていただけるなんて……。本当になんとお礼を言ったらいいか」

「いえ、見方によっては私が巻き込んだと言えなくもありませんから。なんとかして妹さんを助け出しましょう」

そう言うと、アルネブは深く頭を下げてお礼を口にした。

それから彼に、指定された拉致場所を教えてもらい、レグルス様とカストル様はその場所を聞いて顔を見合わせる。

「指定場所はまさかの王都内か。今は使われていない廃れた酒場跡。まあアルネブ君一人でスピカちゃんを連行するわけだからな、そこまで長距離の移動はさすがにさせないか」

「東地区の端の裏通りには空き家も多いですし、そこまでなら人目にもあまりつきませんから。指定場所に選ぶなら妥当なところかと」

「よし、じゃあ俺とレグルス君はこのまま何事もなかったかのようにホールへ戻るから、スピカちゃんはアルネブ君と一緒に拉致場所まで向かってくれ」

レグルス様とカストル様は、なんとか赤月の舞踏会を自然に抜け出して、指定の場所に張り込んでくれるという。

そして私からの合図を受け取ったら、すぐに駆けつけてくれるとのことだ。

自分から提案しておいて、情けない限りではあるんだけど、今の段階でものすごく怖い。

「ちなみに、どうやって気絶させたスピカちゃんを宮廷内から運び出すつもりだったんだ? まさかそこは無策ってわけじゃ……」

「距離は短いですが、俺は転移魔法が使えます。あらかじめ宮廷付近に借りた宿部屋に転移地点を設置していますので、それで宮廷から脱出しようと」

「そういえばアルネブ君の魔力は、闇魔法が得意な紫魔力だったな」

転移魔法。

闇魔法の一種で、離れた空間に瞬間的に移動ができる。

基本的には闇魔法を得意とする紫魔力の持ち主しか実用的に扱うことができない。

適性がある人物でさえ目の届く範囲ほどしか移動ができず、一度の使用で魔力枯渇に陥るほど扱いが難しい魔法だ。

だから近くの宿屋まで転移できるだけでもかなりの使い手という証拠である。

まあ万能な黒魔力持ちで、魔力の総量も桁違いなレグルス様だったら、隣町くらいまでなら移動ができそうな気はするけど。

ともあれ今後の行動方針が決まり、私たちはさっそく動き出すことにした。

レグルス様とカストル様は部屋の外へ、私とアルネブは転移魔法で付近の宿屋へ向かう。

と、アルネブが転移魔法の準備をしている時、後ろの方からレグルス様とカストル様の会話が聞こえてきた。

「にしても、犯人は本当に何がしたいんだろうな。スピカちゃんを拉致しても、どうせすぐに騒ぎは広まって犯行は割れるだろうに。そもそも彼女を捕まえて何をしようっていうのか」

「以前にも似たような人攫いに遭いかけています。その連中は聖女の力を狙っていたので、今回の犯人も同じような目的でスピカを捕らえようとしているのではないでしょうか。まあ、理由はなんだって構いませんよ……」

瞬間、心なしかこの場の空気が、唐突に重たくなったように感じた。

「必ず犯人を捕まえて、この手で罰するだけですから」

「……」

レグルス様は、この部屋に駆けつけて来たとき以上に、声音が冷たいものになっていた。