軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】蹂躙されし者達1

「……何? 城塞都市? 馬鹿を言え。どう考えても、まだ建造出来ていない筈だ」

そう告げると、斥候の男は眉根を寄せて頷く。

「スクデットほどではないようですが、たしかに城塞都市だと……この地には二箇所村があるという話でしたが、もう片方の村の場所に行ってみますか?」

「馬鹿者! スクデット攻略の為に此処へ来たのだ! 今更狙いを変えられるか!」

「はっ! 申し訳ありません!」

怒鳴ると、斥候より連絡を受けた士官の騎士はその場に跪いて謝罪する。その頭を見下ろし、舌打ちをした。

「ちっ……城塞都市建設が始まったと聞いていたが、まさかもう完成しているだと……?」

わざわざこの私、イェリネッタ王国第八王子であるウニモグ・イェリネッタが指揮してきたというのに、我が国の諜報部隊は何をしていたというのか。

「くそ、どいつもこいつも私を馬鹿にして……」

右手親指の爪を噛み、愚痴を溢す。

もう三十二にもなるというのに、言い渡される指令は敵国の重要拠点ではなく、辺境の村の制圧程度だ。

作戦の一部とはいえ、兄弟達は皆が私よりも良い役目や立場を与えられているため、到底納得できるものではない。

陛下はもう高齢であり、王の交代は近いだろう。だというのに、私には機会すら与えられないのか。内心歯嚙みをしつつ、私は皆を見回して口を開いた。

「……城塞都市を新たに作り上げるにしては明らかに時間が足りない。ならば、城壁造りに重点を置き、見かけだけでも城塞都市に見えるように作り上げたのだろう。このまま進軍し、敵地を占領する」

「お、お待ちを! 見かけだけであろうと、城壁を作られてしまっていては攻略は難しいかと思われます! 我らの人数は僅か三百! 拠点攻めには人数が……」

目の前で頭を下げていた騎士が顔を上げて反対意見を述べた。私は無言で顎を引き、騎士の頭を蹴り飛ばす。情けなくも騎士は鼻血を流して呻いた。

「無礼者め。私の話を聞いていたのか? あの城壁は見掛け倒しだ。むしろ、完全に城塞都市として機能してしまう前に叩かねばならん。そんなことも分からないのか」

「わ、分かりました……」

鼻を押さえながら頭を下げる騎士を眺めつつ、私は深く息を吐いて顔を上げた。

「上空からの情報は?」

「手前の村には人はおらず、奥の城塞都市に避難しているようです」

「あの城壁のある町が目標の村か。だが、ここからスクデットはかなり距離がある。避難するには……」

「そういう、ことでしょうか。どうも、ワイバーンからの報告を聞くと、村の後方に城塞都市があるような内容でしたが……」

私の言葉を遮り、騎士の一人が勝手に自分の推論を語り出した。その無礼に苛立ちを覚えるが、私は舌打ちを返して口を開く。

「馬鹿者。あの城壁を見よ。あれを築くだけで間違いなく一、二年はかかる。馬鹿みたいに人を動員して工期を短くしても半年はかかるはずだ。大体、近い距離にまた町を作る意味があるか? 答えてみろ」

「……いえ、ありません」

自分で考えることも出来ない愚か者を諭すと、騎士は深く頭を下げた。

元々、上空からの報告は一方的であり、大まかな事しか分からない。

その理由は、上空の状況にある。ワイバーンに乗る傀儡の魔術師は気を抜けば制御が解け、振り落とされる危険がある。そのため、常に魔力を一定以上流し続けなくてはならず、肝心の報告を細かく行うことが出来ないのだ。

更に、生物を操る場合、その生物の本能に抗うような指示を出すのはかなりの魔力を使うらしい。つまり、ワイバーンを勢いよく城壁に突撃させて突入する、なども難しいということだ。

あれで王国でも上位の傀儡の魔術師だというから使えない。その使えない傀儡の魔術師の断片的な情報に指揮官が混乱するなど、あってはならない。複数の情報を自ら判断して選び、最適な行動を常に実行していく。これが、本当の指揮官というものだ。

そこまで考えて、ふと溜め息を吐き、頭を左右に振る。

これだけ頭脳明晰なる私が、何故冷遇されるのか。優秀な者を妬む輩がそれだけ多いということか。

「……何としてもこの城塞都市を突破し、私の実力を示さねばならない」

そう口にして、私は我が軍を振り返る。

「いいか。ワイバーンからの情報では一部の村人が村を出て避難したという。奴らは我々に気が付いているかもしれん。気を付けて進め!」

「はっ!」

警戒しつつ大型の盾を構えて街道を進軍したが、攻撃は来なかった。あっさりと城壁の間近まで接近した我々は城門を見上げ、顔を見合わせる。

「……ここまで来て罠は考えにくい。恐らく、村人達は少数であり、此処を脱したのだろう。ワイバーンまで来ればそのような判断をする可能性もある」

結局、経験豊かな騎士団が常駐していなければ、ワイバーンを見ただけで村人などは逃げ出して当たり前ということか。

「これは最高の機会やもしれんぞ。これだけの拠点を無傷で手に入れたなら、その後のスクデット攻略にも間違いなく役立つ。さぁ、城門を開け!」

「はっ!」

命令すると、兵達は城門の破壊を開始した。

だが、いくらやっても破壊どころか、ヒビすら入る気配が無い。

「ど、どういうことだ!?」

「ウニモグ様! 鉄の鎚ですら壊せません!」

「ば、馬鹿な……!」

報告を聞き、歯嚙みする。どう見てもミスリルなどには見えない。まさか、新たな魔獣などを用いた素材か。

「……そういえば、村人どもは裏から逃げたという話だったか。ならば、裏側の門は開いている筈だ。よし、皆の者! 回り込むぞ!」

命じつつ、自らも移動を開始する。

「攻撃魔術師は後方から付いてこい! 前は重装兵! 奇襲に備えろ!」

「はっ!」

城壁に沿って進みながら隊列を整えなおし、回り込む。

だが、村の裏側に辿り着く前に、我々の足は止まることとなる。

「な、なん、なんだ、あれは……!?」

誰かが声を裏返らせてそう言った。

動転するのは仕方がない。なにせ、横にある城壁に囲まれた村にも驚いていたのに、その村の向こう側にはそれより遥かに巨大な城塞都市が姿を見せたのだから。

「ば、馬鹿な! あれは城塞都市スクデットか!?」

「そんな筈は……」

「スクデットは円形の城塞都市の筈だ! あれは別の、秘密裏に作られた軍事拠点に違いない!」

兵達は混乱し、大きな声でそんなことを口々に叫ぶ。

「静まれ!」

混乱する兵達を怒鳴り、遠目に城塞都市を観察する。

「不可思議な形状だ。あの城塞都市は、機能していると見るべきか?」

「城壁の上に等間隔に何かが並んでいます。あれが防衛の為のものなのは間違いないでしょう。近くには人影もあるように見えます」

「……あそこに隠れて魔術による攻撃をするつもりか。弓矢や岩石による攻撃もあり得るな」

顎に手を当てて唸る。

「あれだけの建造物、二年や三年で完成するものではないだろう。いくら見落としがあったとしても、我が国の諜報部隊があれだけの城塞都市を発見できないわけがない」

「それはそうでしょうが……まさか、あの城塞都市を……?」

「制圧する。当たり前ではないか」

私がそう告げると、何人かの騎士が眉間に皺を寄せた。不満そうな顔を睨み、口を開く。

「あの城塞都市の周りには兵はいない。それはワイバーンからの情報で確かだ。ならば、まずはあの城塞都市の防衛力を見る。可能ならば制圧行動に移るとしよう。それならば問題無いだろう」

そう言いなおすと、臆病な騎士共も納得したように押し黙った。

まったく、なんと使えない兵士達だ。私は頭を左右に振り、溜め息を吐いたのだった。