軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】王の驚愕

変わった少年だった。

我が子らと比べるわけではないが、対面して何度言葉を交わそうとも、子供と会話している気がしない。

だが、悪い人間ではなく、王国に対して悪意も無い。その上ピスタと同年代でありながら驚くほど有能な人材だ。

ならば、わざわざ敵対するのは愚の骨頂である。本人が一番望む物を与え、恩を売る。少年の性格ならば、そうしておくだけで精神的に王国に縛り付けておくことが出来るだろう。

瞬く間に砦を築くことが出来るあの力が敵対国に渡ってしまえば、我が国の不利益になるのは間違いない。

まぁ、先程の気持ちの良いまでの真っ直ぐな領主としての心意気を聞く限り、自ら他国に攻め込むようなことはしないだろうが、味方にしておいた方が良いのは確かである。

「まったく……フェルティオ侯爵もとんでもない息子をもったものだな」

そう口にすると、アペルタが口を開く。

「しかし、侯爵は確かヴァン男爵を家から追い出したと聞きましたが。侯爵は陛下の重用する貴族の中でも最も戦で功を立てた一人ですからね。恐らく、四元素魔術士ではなかったことが理由の一つかと」

「……耳が痛いな。強い国を作ろうと貴族の意識改革をしたことも影響があるか」

一度、各魔術について見直さなくてはならない。どうしても四元素魔術を上位とし、中位、下位と各魔術を分けて考えてしまう。

だが、誰からも下位の魔術として認識されていた魔術適性の持ち主が、あれだけのことをしてのけたのだ。

王都に戻ったら我が名の下に各魔術適性の研究をやり直すとするか。

「さぁ、後はドラゴンを退けるだけだな」

そう告げると、アペルタが眉根を寄せる。

「国王不在を知られないよう少数で動いたのが仇となりましたな。この面々ならば恐らく中位のドラゴンくらいならば撃退出来るでしょうが……」

面倒臭そうにそう言うアペルタに笑い、私は先を行くヴァンの背中を見た。

「また面白いものが見られるかもしれんぞ」

「もう充分という気持ちもありますが」

「はっはっは、確かにな」

笑いながらヴァンに続いて城壁の上に向かう。

「へ、陛下! これ以上前線には……!」

「気にするな。自分の身くらいは守れる」

近衛が私を案ずる声を軽く聞き流し、城壁の上に立った。

城壁の上から周りを見れば、既に変わった鎧姿の者達がバリスタのそばに待機して指示を待っている。ヴァン男爵の組織する村人達による騎士団だろう。

上を見上げれば、小さな竜の影があった。随分と高い場所を飛んでいる。

「単独で飛ぶ、 二足飛竜(ワイバーン) ……?」

竜の影は一つしか無く、上空を大きく弧を描くように飛んでいる。大きな違和感を覚える。いや、半ば確信に近いだろう。

「宰相、意見を」

そう口にするとアペルタが深く頷き、杖を片手に持った。高純度の魔結晶を上部に配した特注品だ。アペルタはその杖で空を指し示す。

「ワイバーンが単独で飛行し、襲い掛かってくる状況はまずありません。ならば、ワイバーンとは別の脅威が近くにあるものかと」

「同意見だ。イェリネッタか?」

「立地的にそうでしょうな。大規模な軍を動かせば悟られますから、小規模、もしくは隣接する地方の領主の騎士団と連携して動いている筈です」

と、アペルタは考察を口にした。

ワイバーンは比較的小型のドラゴンで、本来は五体以上。最大では百体もの群れを形成し、集団での狩りを行う。ドラゴン最大の脅威である 息吹(ブレス) を使えないことと、陸上での動きが機敏ではないことから、亜竜という下位のドラゴンとして扱われているが、一体でも充分な脅威だ。

そのワイバーンを捕まえて、隷属させる魔術適性がある。洗脳と傀儡の魔術だ。洗脳してワイバーンを味方にし、傀儡によって操作する。

これは北の極一部の国が行なっているワイバーンの運用だが、イェリネッタ王国も取り入れたということか。

なんにしても、あのワイバーンの上には傀儡の魔術士が乗っている可能性が高い。ワイバーンを用いて何かするならば、国境を越えてきたことがバレる可能性は高い。

ならば、敵の狙いは何か?

「要所である城塞都市ではなく、辺境の村を目的とした理由は何だ?」

「城塞都市スクデットは三度に渡ってイェリネッタ王国の進軍を止めた実績があります。この村を足掛かりに利用する腹積もりかもしれませんな。まぁ、この村がまさかこのような状況になっているとは知らないでしょうが」

「それはそうだろうな。報告を聞いていた私ですら想像を超える規格外の村だ。イェリネッタの情報網でも詳細までは得ていないだろう」

同意して、周りを見る。村と呼ぶのを躊躇いそうになる見事な城壁や防衛設備。だが、肝心の騎士団は見た目が独特であり、はっきり言えば能力も練度も判断がつかない。

「……側から見れば、絶好の機会ととられる可能性もあるな」

「そうですな。む、ワイバーンの上から何か指示を出しているようです。もしかすると……」

アペルタの言葉を聞き、私はすぐに動いた。

「ヴァン男爵! 敵はワイバーンだけではなく、少数精鋭の騎士団の可能性が高い! 気をつけよ!」

「分かりました!どちらにせよ、冒険者の町はまだ防衛力が足りませんので、こちらに避難させましょう! ディー!」

「はっ! すぐに村へ避難するよう伝えます!」

我の助言に、ヴァンは素早く反応して部下に指示を出す。やはり頭が良い。本人の瞬発力もだが、部下も悩まずに即実行するほどヴァンを信頼している。

練度の高い騎士団の演習を見ているようで気持ちが良い。

「さて、どう防衛するつもりだ?」

「本来なら冒険者の町からエスパ騎士団が第一の防衛ラインを築く筈でしたが、残念ながらまだまともに演習も行えていません。なので、エスパ騎士団には冒険者の避難誘導をさせ、本格的な防衛戦はこの村で行います」

「人間の軍と戦うのは初めてなのだろう?」

「既に想定はしていました。問題ありません」

「ふむ……とはいえ、相手が人間の場合は簡単ではない。敵側に智者が居れば、手駒次第では想像だに出来ない手法で攻めてくることもあるぞ」

我が子の思考を導くのと同じように助言を与えるが、ヴァンは殆ど考えることなく返事をした。

「はい。長距離からの攻城兵器や魔術、城壁を破壊する手段や交戦せずに村の中へ入る方法など、様々な奇襲を考慮しています。場合によってはこの村を捨てる覚悟と準備も……一応ですけど」

と、スラスラと答える。それも、歴戦の騎士団長のように、様々な事態を想定しての答えだ。

その一つ一つの想定について詳しく聞きたいが、その時間が無いのが惜しい。

「皆ー! 援護射撃するから焦らずに! 貴重品も忘れないように、落ち着いて避難してねー!」

「へーい!」

「あ、金貨忘れた!」

「何処だ!? 俺が拾ってやる!」

「ふざけんな、馬鹿野郎!」

ヴァンは緊張感があるのかないのか分からない指示を出し、それに応える冒険者達も何処か気が抜けている。

大騒ぎをしながらも速やかに避難してくる冒険者達と、エスパ騎士団であろう者達。

それらを収容した後、正門は閉じられて堀に渡していた橋が上げられた。

避難してきた者達も予め決められた配置があるのか、指示を受けずとも皆迷うことなく動いている。

この村が普通の城塞都市だったとしても、陥落させるのは相当難しそうだ。住民の数はかなり少ないが、ヴァンを中心に固く団結し、皆が村を守るために自ら考え行動している。

「……これは、少年を王都に連れ帰れないまでも、何か考えなければならんな」

私は小さくそう呟き、自前の魔結晶の杖を取り出したのだった。