軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】国王襲来2

門を抜け、整然とした町の中を馬車で進む。兵達は四列にて整列し、邪魔にならないよう配慮した。

町の中は区画分けもされており、建物もどこか別の国の文化を感じさせる造りだ。これは、子供が設計したものとは思えない。部下に異国の設計士がいるのか。

あと気になる点と言えば、町の住民が随分と物々しい雰囲気なことだ。

格好が不統一だというのに、武器は随分と使い込んだ様子である。寄せ集めのならず者といった印象を受ける。つまり、傭兵か冒険者辺りと見るべきか。

しかし、冒険者ばかりの町も見たことはあるが、これほど普通の者がいない町も珍しい。

一応道の端に避けてはいるが、不恰好に道に座り込む者や中腰の姿勢をとる者もいる。

跪いて地面に顔を向ける者ばかり見てきたためか、中々面白い光景だ。兵士達の一部が剣呑な空気を発しているが、余程の度胸か、ならず者共は全く気にしていない。

町は小さく、すぐに端に着いたが、百人程度の村と聞いていたため、十分に広く感じた。

こんな辺境の村ならば、馬小屋ほどの小屋が二、三十戸並んでいれば上々と言える。そう考えたら十分城塞都市と呼べる代物だ。

しかし、その町をパナメラは素通りし、そのまま出てしまった。

門が開き、先頭を進んでまた街道に出る。

そして、我々の乗る馬車の横に戻ってきて、口を開いた。

「村はあちらのようです。まぁ、先ほどの町同様、また私の記憶には無い景色ですが」

笑いを堪えるような顔つきでそう言うと、パナメラは馬車の進む先を指し示した。

窓に顔を寄せ、先を見る。

「……ん? あれは……まさか、要塞か?」

「すごい……! なんて大きいんだ!」

ピスタは子供らしく興奮を隠せずに叫ぶ。確かに、悔しいが、私も圧倒されてしまっていた。

それなりに立派な町を抜けたと思ったら、巨大な異形の城壁と塔が現れるのだ。誰でも言葉を失うだろう。

「……これは、相当な代物ですぞ。はっきり言って、この辺りの守りの要であるペルソナム要塞よりも立派なのは間違いありませんな」

「言うな、宰相。公式の場での発言ではないとはいえ、先代国王の偉業の一つであるペルソナム要塞が辺境の村より劣っているなどと噂されては困る」

そう告げると、冗談を言ったわけでもないのにアペルタは肩を揺すった。半眼で睨め付けると、口元を手で隠して静かに笑うアペルタが答える。

「陛下が珍しく常識的なことを言うもので、思わず」

「失礼な奴だ」

腕を組み、文句を言う。こいつは私が王となる前から付き合いがあるせいか、王を敬うということを知らない。

まぁ、そんな相手はこのアペルタくらいなので貴重な存在ではある。

「陛下。この地が侯爵領となった際には、この村は普通の村だった筈です。子爵の言葉を疑うわけではありませんが、どちらにせよ驚異的な早さで築かれた要塞なのは間違いありません」

「何が言いたい?」

そう聞くと、アペルタは口の端を上げて皮肉げな顔を見せ、答えた。

「 面(・) 白(・) い(・) ではないですか」

言われて、私はようやく自分の感情に気がつく。

そうだ。内心では大いに期待し、今すぐあの要塞に向かいたいのだ。ピスタの前だからか冷静沈着な国王としての振る舞いなぞしているが、本心では今すぐにでも要塞を見て回り、どうやって城壁を築いたのか、どうやってドラゴンを討伐したのか、問いただしたい。

それを自覚して、思わず笑ってしまう。

「ふ、はっはっはっは! 確かにな! これは面白くなってきた。さぁ、もう要塞は目の前だ。何をどうやったのか、すぐにでも問おう。どうであれ有用な情報なのは間違いないからな」

笑いながらそう言うと、アペルタは軽く笑い、頷いた。

「ようやく陛下がお戻りになられた。てっきり、あの要塞の威容にあてられて萎縮してしまったのかと思いましたぞ」

「馬鹿を言え。予想外の事態に考え込んでいただけだ」

アペルタの軽口に少し強めに反論すると、アペルタは口を笑みの形にしたまま前を向いた。

城壁はもう目の前だ。近付くと、王都の城壁よりは低いが、相当に上手い作りの城壁であると知れた。なにせ、継ぎ目がほとんど見えない上に、石材の色も斑らにはなっていない。

それに、大きく作ってある両開きの門も細かな装飾で飾り付けられている。

金に糸目をつけず、数万という労働力を用いればもしかしたら一年程度で作ることが出来るだろうか。

「……それにしても、不思議な形をしている。こちらに迫り出した部分にはどんな意味があるというのか」

馬車の中から左右に聳え立つ城壁を見上げていると、要塞の方から声が響いた。

「開門! 開門だ!」

その声の後に、見た目にそぐわぬ速さで門は内側から開かれた。開かれた先には意外にもしっかりと装備を揃えた騎士団らしき一団がおり、正面中央には執事やメイド、そして子供の姿があった。子供は三人いるが、その中心にいる者がヴァン男爵なのかもしれない。

顔見知りであるパナメラが独り前に出て馬から降り、二、三やり取りをする。

いや、二、三どころではないか。随分と話が弾んでいる。国王を待たせるとは、パナメラ子爵は本当に良い度胸をしているな。

と、アペルタが焦れたように大きな咳払いをしてみせた。

それを聞き、パナメラはその場で後ろに振り返って跪く。奥の者達も同様に跪き頭を下げた。

馬車を降りてアペルタとピスタを後ろに控えさせ、自ら前に出ていく。

僅かに皆が動揺する気配を感じるが、パナメラが何か言ったか。

まぁ、良いだろう。公式的な挨拶はさっさと終わらせてしまうに限る。

「……お主がヴァン・ネイ・フェルティオか。我はディーノ・エン・ツォーラ・ベルリネート。スクーデリア王国国王である。お主は新たに男爵として貴族の末席に加わることになった。精進し、国に利益となる働きを見せよ。貴殿らの力と知恵により、我が国は更に強大なものとなる。期待しておるぞ」

私はまず、男爵となったヴァン・ネイ・フェルティオらしき少年を見下ろし、叙爵を伝えた。そして、次に冒険者ギルドより報告のあった項を告げる。

「また、男爵の領地にてダンジョンが発見されたと聞いている。まもなくギルドより調査隊が到着するが、その際は誠実に全てを話すように。ギルドへの報告は王国への報告ともなるのだ。嘘、偽りは許されぬ」

と、こちらも重要な王としての言を伝えた。

だが、本題はこれからだ。私は再度口を開く。

「……最後に、 緑森竜(フォレストドラゴン) の討伐の報告と我が国のオークション出品、誠に素晴らしい功績であった。この報を受けて、本来なら騎士爵の調査官が派遣されるのだが、今回は場所と内容が異例であったため、私自ら確認に参った次第である。これに関しても質問には全て正確に答えてもらう。異論は無いな?」

そう問うと、ヴァン男爵は静かに頭を上げ、口を開いた。

「はい、正直に全て語ることを誓います。ただ、約束していただきたいことがあります」

「なに? 約束だと?」

子供とは思えないしっかりとした受け答えに驚きつつ、私は聞き返す。

すると、ヴァンは私の目を真正面から見て、困ったように笑った。

「僕は全てを見せますが、陛下に信じていただけなければ、嘘になってしまいます。陛下も、信じる努力をしてもらえたら、と」

「……面白い奴だ。約束しよう」

私はアペルタの笑いを我慢する声を聞きながら、そう答えたのだった。