軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アプカルル?違うの?

アルテの人形が最速で接近し、素早く尾びれを切り裂く。大き過ぎて切り傷程度かもしれないが、動きを止めることには成功した。そして、鉄の矢をバリスタで発射し、身体の中心を撃ち抜いた。

耳を覆いたくなるほどの化け物鯨の絶叫と最後の抵抗。それを眺めながら、パナメラが最後の火の魔術を放った。

「 火炎雨(ファイアレイン) 」

小さな声でパナメラがそう告げると、小さな火球が無数に化け物鯨の体に降り注いだ。衝撃などはないが、広範囲を焼き尽くすような恐ろしい魔術だ。瞬く間に化け物鯨を中心に火の海が広がっている。

「……ちょ、ちょっとやりすぎかなぁ」

そう呟くと、アルテとティルも乾いた笑い声を発した。

「怖かったですけど、可哀想になるほどの光景ですね……」

「パナメラ様が本気で怒るとこうなる、という……」

二人の反応に小さく頷き返していると、パナメラが片手で髪をかき上げながら歩いてくる。

「失礼な。戦争と魔獣相手以外であんな魔術を使うわけがないだろう?」

と、パナメラは供述する。う~ん、怪しい証言である。

「……どこかの貴族に暗殺とかされかけたらどうします?」

試しに聞いてみると、パナメラは当たり前のように答えた。

「それはもう戦争だろう? 領地全てを燃やしてくれる」

「草一本残らない結果に……!?」

パナメラの発言を聞き、化け物鯨以上の恐怖を感じた。僕が裁判官なら危険人物として拘束しておくところだ。いや、恨まれたら怖いからリゾート地に別荘付きで軟禁としておこう。

そんな気の抜けたことを考えていると、ティルが海を指差して口を開いた。

「あの、海にアプカルルさんがいらっしゃいますよ」

「アプカルルさんが?」

ティルの言葉を復唱して視線を移す。すると、確かに海岸にアプカルルのような人影を見つけた。海面に顔だけがにゅっと出ている辺り、とてもアプカルルっぽい。

化け物鯨も動かなくなったし、海に行ってみようかな。

「……もう大丈夫そうだし、様子を見に行ってみますか?」

意見を出してみると、パナメラが腕を組んで唸る。

「……そうだな。しかし、あの火の海の中を抜けるのは難しくないか?」

「え?」

パナメラの言葉に驚き、燃える化け物鯨と火の海を指差した。

「消せないんですか?」

そう尋ねると、パナメラは困ったように眉根を寄せて口を開く。

「今燃えているのは私の魔術ではなく、流木や大型魔獣の脂だ。恐らく、数時間は燃えるぞ」

「えー!?」

パナメラの発言を聞き、改めて火の魔術の恐ろしさを認識することとなった。戦争で使われる方はたまったものではないだろう。

「……とりあえず、もう少し待ちましょうかね」

仕方なくそう言ってから、改めてログハウスを再建することにした。ついでなので、ログハウスにはバリスタを全方向に設置し、更に地下通路も綺麗に整備しておく。これで次からは大丈夫かな?

三時間ほど経っただろうか。ようやく火は化け物鯨を燃やすものだけになった。というか、あの化け物鯨はとても美味しいのではなかろうか。脂がたっぷりである。

「熱っ!」

「とても近づけないですね……」

動き出したら怖いという気持ちもあり、海岸の端っこをこそこそ移動して海に向かっているのだが、それでも化け物鯨を燃やす火の熱気に火傷しそうになる。

「するめになった気分だね。炙られて美味しくなってしまう」

「あ、炙られたら美味しくなるのですか?」

「美味しい。炙ったらとりあえず美味しい」

「……少年、適当なことを言うな」

「あ、熱すぎて笑う余裕もありません~……」

四人でぶちぶち言いながら海へ移動する。流石に波打ち際まで移動すると一気に涼しくなる。

「い、生き返るー」

「涼しいです」

「ふぅ……いい汗をかいたな」

「み、水を飲みたいけど、この水は……」

海についても四人でまとまりのない会話をしていた。すると、そこへ海面をするすると生首が移動してくる。先ほどのアプカルルだ。五メートルほどの距離まで寄ってきて、アプカルルとの違いに気が付く。

透明感のある明るい金髪は長髪で海の中で広がっている。耳がエルフのように細長くなっており、アプカルルとの違いは明白だった。そして、性別は若い女性である。

「おお! 人魚! 人魚だ!」

それもマーメイドプリンセスのような見た目に興奮気味に声を上げる。すると、人魚は二メートルほど離れてしまった。

「……ヴァン様、また警戒されています」

ティルが苦笑しながらそう言うと、ラダプリオラと初めて会った時を思い出した。そういえば、あの時も大きな声を出してしまって警戒されたのだ。そして、食べ物で釣って警戒を解いたのである。

「よし。お肉と果物だ。それがあれば寄ってくるぞ」

「……そんな対応で良いのか」

僕の意見を耳にして、パナメラが呆れたようにそう口にしたのだった。