軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】 大変な事態

【アーブ】

カムシンとディーが飛び込んでから、ロウと一緒に大急ぎでロープを海へ投げ込む。だが、二人の姿は一向に現れなかった。

「ま、まずい……いくら何でも長過ぎだ!」

「皆、船首側も確認してくれ!」

「は、はい!」

ロウが指示を出すと、船尾に集まっていた人も一斉に船の周囲を確認しに移動する。大型魔獣の影はもう近くには見当たらない。もしかしたら、ディーとカムシンは魔獣を追いかけていったのかもしれない。

「……いや、船の下の可能性もあるな」

そう口にすると、ロウが顔面蒼白の顔をこちらに向ける。

「飛び込むから、ロープを……」

「無理するな。俺の方が泳ぐのは得意だろ」

手を震わせながら覚悟を決めるロウの意見を、鎧を脱ぎながら否定する。急いでロープを腰に巻き付けて、手すりに足をかけた。

「すぐに海面に顔を出すつもりだが、五分経っても出てこなかったら引っ張ってくれ」

「わ、分かった!」

ロウの返事を聞いてから飛び、海面に足から降りた。一気に水中に沈み、周りを確認する。水の透明度が高いから、海中でもよく周りが見えた。見える範囲には人は見当たらない。船底もそうだ。やはり、魔獣を追いかけて泳いでいったのか。

しかし、それならヴァン様達は海面に顔も出さずに魔獣から泳いで逃げているのか?

そんなことはディーぐらいにしか出来そうにないが……。

そう思って魔獣のいた方向へ顔を向ける。すると、かなり先にカムシンの姿があった。両手を広げた格好で水中に漂うカムシンの姿を見て、一気に血の気が引く。

やばい。意識を失っている。

そう考えた時には、もう体が動いていた。急ぎで水をかき分けるように泳ぎ、カムシンの方へ移動する。時間がない。想像より遠くにいる。カムシンのもとへたどり着く前に、ロウがロープを引いて引き上げてしまうかもしれない。

必死に泳いで何とかカムシンの手を掴むことが出来た。そのタイミングで、腰に巻いたロープが勢いよく引っ張られる。

「……っ! はっ、はっ、はぁ……っ」

海面に上がって呼吸を整えながら、カムシンの体を後ろから引っ張り上げて顔を海面に出させた。波を被る度に鼻や口に海水が入り、痛みが走る。

「か、カムシン……! 起きろ!」

ロープで引っ張られながら、カムシンの名を叫ぶ。反応があるか分からないが、必死に声を掛け続けた。

「引き上げるぞ!?」

「頼む!」

船の上からロウの声が響き、それに答える。すると、勢いよく体が持ち上がり、海から脱出を果たした。甲板までの数メートルの高さを一気に持ち上げられ、手すりを掴んでカムシンを片手で抱えたまま船の上に戻る。

「カムシン! 大丈夫か!?」

甲板に転がったカムシンの頬を片手で叩き、ロウが声を掛けた。すると、カムシンは激しく咳き込んで水を吐き出し、薄く目を開く。

「ぐ……ヴァ、ヴァン様、は……」

気が付いてすぐにカムシンはヴァン様の名を呼ぶ。それにすぐに答えられる者はいなかった。ヴァン様だけでなく、パナメラ様とアルテ様、ティルの姿もいまだに発見できていないのだ。どうしても、皆の中に悲壮な空気が流れてしまう。

その不安な空気を感じたのか、カムシンは体を捩るように動かして上半身を持ち上げた。

「み、見つかってないん、ですね……」

床に手を突き、膝を震わせながら立ち上がるカムシン。その肩を手で掴んで止めた。

「……今飛び込んでも近くにはいない。これは賭けだが、ディー様のもとへ移動してから周辺を探すしかない」

「そ、そこにいなかった時は……? ヴァン様は、もしかしたら船首の方に流されてしまっているかもしれません」

「……今、潜って調べた限りだと近くにはいないと思う。海底は深くて分からないが、そこまで沈む時間は無かったはずだ」

自分でも曖昧で頼りない発言だとは思うが、そう判断するしかなかった。正直、海の中のことなど分からないのだ。しかし、カムシンは険しい表情ながら頷いてくれた。

「……分かりました。でも、確かに、魔獣の向かう先に、すごい速さで泳ぐ人影がありました。もしかしたら、パナメラ様が皆を連れて……」

「パナメラ様はそれほど泳げるのか?」

「分かりませんが、ヴァン様達ではない気がして……アルテ様の人形でもないはずですし……」

カムシンとそれだけ話してから、ロウに目を向ける。

「……深い海の中で見たことだ。もしかしたら、勘違いの可能性はある。しかし、今のところその情報に縋るしかない」

自分を説得する為に、そう口にした。それを分かっているのか、ロウは眉根を寄せて苦しそうな表情を作り、大きく頷いた。

「……急ごう。それしかない……魔獣の向かった方向へ向かう! 皆、急いで準備してくれ!」

方角を決め、ロウが船の移動を伝える。他に方法はないはずだ。時間もない。後は、ただただ神に祈るしかないのだ。