軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】ヴァンの安否

【カムシン】

「ヴァ、ヴァン様……っ」

ぎりぎりで、ヴァン様の手を取ることが出来なかった。船尾が持ち上がり、あっという間にヴァン様の姿が遠くなっていく。手すりから手を放して飛び込もうとしたら、すぐ真横をティルが通り過ぎていった。

「……っ!」

これで届くかもしれない。限界まで手を伸ばして、ティルの服を掴もうとする。だが、ティルは一切の躊躇いもなく、甲板の床を蹴って空中へ飛び出てしまった。間に合わない。

そうこうしている間に、船尾がせり上がり、目の前には空が広がった。その勢いで体が浮くが、どうにか手すりを掴んで吹き飛ばされずに済む。

まだ船は大きく上下に揺れているが、手すりから身を放して転びながら甲板を走った。

「ヴァ、ヴァン様が落ちました! ロープを! 早く!」

叫びながらも、自分で周りを見回してロープを探す。帆を広げるための綱があった為、即座にそれを剣で切断する。背の低い柱に巻き付けられた綱を必死に解こうとするが、長すぎて時間がかかる。こうしている間にも、ヴァン様は水中の魔獣に狙われているかもしれない。

「っ! 早く! 早くしないと……!」

気が付けば涙が出ていた。綱は十メートル以上ある。これでもういくしかない。咄嗟の判断で、綱を途中で切断した。

「ヴァン様はどこだ!?」

そこへ、血相を変えたディーが走ってくる。

「せ、船尾から落ちました! 今から飛び込むので、ロープを!」

それだけ言い、切断した綱の端を手にして床を蹴って飛び出す。

「馬鹿者! むやみに飛び込んだところで見つからん! 全員で海面を探す! 皆、船尾に集まれ!」

そう言われて、慌てて手すりを掴んで身を乗り出したまま止まる。海面は激しい波が立っており、人影など全く見えそうにない。ディーの号令で一気に船尾へ人が殺到したが、誰も発見することは出来なかった。

「い、いない……!」

「だめです! もしかしたら、船の下に……!」

アーブとロウも船から落ちそうになりながら探しているが、それでも発見できないでいた。もう数十秒が経過している。だめだ。このままでは……。

そう思った時、海中に巨大な黒い影が蠢いた。あの魔獣だ。先ほどと違い、何かを追うように素早い動きで移動している。

それに気が付いた瞬間、たまらずに海に飛び込んでいた。

「っ! アーブ! ロープを投げろ!」

「はっ!」

背後でそんな声が聞こえたが、それに意識を割く余裕も無い。海に飛び込み、すぐに水中でヴァン様の姿を探す。飛び込んで分かったが、想像以上に激しい水流にまともに動くことも出来ない。

巨大な魔獣を水中で確認すると、巨大な口を持つ丸い頭部の魔獣の姿があった。体は太く尾にいくにつれて細くなる魚のような体型だ。今は、何かを追うようにして船から遠ざかっていくところだった。

巨大な魔獣が向かう先には、複数の小さな人影が見えた気がした。あれは、まさかヴァン様か。

どうにか、あの魔獣をこちらに引き付けないといけない。だが、それをすることが出来ない。必死に手足を動かして助けに向かおうとするが、まるで時が止まったように進まないでいた。

なんの為の護衛なのか。なんの為に、毎日必死に訓練を続けてきたのか。今、この時、ヴァン様を助けることが出来ないなら、自分に生きる価値などない。

自分の無力さを呪いながら、必死に手足を動かしていたその時、海面から大きな音が聞こえてきた。

現れたのはシャツと腰から足首までを覆った鎧用の衣服に身を包むディーだった。まるで鎧を着こんでいるのではないかと錯覚するような分厚い筋肉。そして、身の丈ほどもある大剣だけを持ち、ディーは水中で周りを見た。こちらに気が付き、眉根を寄せるディー。

魔獣の向かう先。そちらを指差した瞬間、ディーは顎を引いて泳ぎ出した。あの大剣を片手に沈まないだけでもすごいことだが、ディーは恐ろしい勢いで足を動かし、水中でどんどん加速していく。

あっという間に自分を追い抜き、魔獣へと接近していくディーの後ろ姿。まるで魚のように水中を泳いでいくディー。筋肉の力だけではない。足の動かし方、姿勢なども関係があるはずだ。どうにか、今すぐにそれを手にいれないといけない。

強く、水を蹴る。だが、想像しているよりずっと遅い。どんどん、ディーの背が遠くなっていく。

それを見送っている内に、何故か視界が歪んで暗くなっていく。どうにかディーの後を追い、魔獣を止めなくてはならないのに、どうして何も見えなくなっていくのか。

ヴァン様……。