軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

訓練後

険しい山の斜面を駆け上がりながら、斜面に転がる丸太を見つけた。自然に折れて朽ちたらしい木だが、木材は木材だ。

急いでウッドブロックに加工して、大きな岩と岩の間の道を塞ぐように壁を作り上げる。ウッドブロックは鋼鉄以上の硬度だ。簡単には壊せない筈だ。

「い、今のうちに距離を……!」

そう口にした瞬間、壁の向こうの方から声が響いてきた。

「そろそろ向かいますぞー!」

「き、きた……!」

ディーの叫び声を聞いて、飛び上がりそうなほど驚く。その勢いのまま地を蹴り、登る先へ振り向いた。なんと、カムシンは既に百メートルは先に進んでいる。

「早っ!?」

慌ててカムシンが通ったであろう道を進み、斜面を駆け上がっていく。即席の壁ではそう長くは足止め出来ない。急いで他の素材を探して……。

そんなことを思いながら大きな岩を乗り越えて進んでいると、後方から激しい衝突音と地響きが鳴り響いた。

「せぇい!」

そんな掛け声を聞き、驚いて振り返る。

すると、そこには僕が作った壁を無視して、左隣にある巨大な岩を真っ二つに叩き割ったディーの姿があった。激しい風と共に砕けた岩の破片が足元まで転がってくる。粉塵が舞う中、左右に分かれた巨大な岩の間に立つディーが歯を見せて笑った。

「はっはっは! 道が無ければ作れば良いだけですな!」

「そんなのディーしか出来ないよ!?」

最早、純粋な恐怖心である。笑いながら追いかけてくるディーに、本気で山の斜面を駆け上がった。大小さまざまな岩や崖の部分などもある筈なのに、自分でも驚くほどの速度で駆けあがっていく。

「おお! ヴァン様は登山のコツを掴んでおられますな! 素晴らしい速度ですぞ!」

そんなことを言いつつ、気が付けば隣には笑みを浮かべたディーの顔があった。

「ヒェッ」

自分でもどこから出たのか分からない声が出た。いや、肺に空気が残っていなかったのかもしれない。だが、そんな状況下でもディーは気にせず剣を振り被る。対処しやすいようにわざと大振りにしてくれているのかもしれないが、楽しそうな笑顔で険しい斜面を駆け上がりながら大剣を振り上げる姿は悪魔のようである。

「さぁ、どう躱しますかな!?」

何故かディーの方がワクワクしながら剣を振り下ろしてきた。風を薙ぐ轟音と共に向かってくる大剣。訓練用に刃を潰した剣だが、あれだけの大きさになると鉄の塊として十分凶器である。

「っ!」

必死に横に跳び、大剣を避ける。顔のすぐ近くで剣が振り下ろされたため、一瞬耳が聞こえなくなった。

「死ぬ! 死んじゃう!」

横に跳んだ慣性を吸収するために地面を転がり、顔と同じくらいの岩の上部に手を着いて一気に立ち上がり、そのまま勢いを付けて走り出す。こちらが登山を再開したと見て、ディーは軽く頷きながら斜面の上の方を見た。

「お、カムシンも中々ではないか! よし、次はカムシン! 行くぞ!」

「う、うわぁあああ!」

ディーの追跡宣言を聞き、カムシンが山を駆け上がりながら悲鳴を上げる。

「わっはははは! 逃げろ逃げろ! さぁ、攻撃が来るぞ!? 剣を構えよ、カムシン!」

「くっ!」

冗談みたいな勢いで斜面を駆け上がるディーと、それから必死に逃げるカムシン。というか、カムシンも十分速い上に、どうやっているのか斜面を登りながらしっかりと剣を構えている。ディーにいたっては跳んだり跳ねたりしながら剣を何度も振り下ろしている。

地響きと共に粉塵が舞い上がり、剣を振る轟音と金属と金属の激しい衝突音に混じって、ディーの楽しそうな笑い声が響いてくる。

「……よし、そっと帰ろう」

あれは鬼だ。訓練の鬼に違いない。対して、僕は天才ではあっても身体能力は普通の美少年である。こんな恐ろしい訓練に付き合っていたら儚く散ってしまうかもしれない。それは我が領地の損失である。

そんな適当な理由を付けて自分を納得させながら、静かに斜面を下る。岩が多く、場所によっては転落してしまうようなところもある。気を付けねばならない。

「む? むむむ?」

その時、上の方から鬼の声が聞こえてきた。恐る恐る振り返ると、斜面の遥か上の方で腕を組んでこちらを見下ろすディーの姿があった。足元にはカムシンがぐったりと倒れている。

「おお! 今度は下山訓練ですな!? よぉし! 行きますぞー!」

何を勘違いしたのか、ディーは妙なことを叫びながら地を蹴って跳んだ。崖というほどではないが、かなり急な山の斜面である。そこを躊躇なくジャンプして降りてくるディーが恐ろしい。

「わっははは! さぁ、次はどう動きますかな!?」

気が付けば、たった二、三回の跳躍で目の前に飛び降りてきたディー。大剣を構えて笑うその姿に、僕は全てを諦めたのだった。