軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

やっと面接が終わったと思ったら

「つ、疲れたー……」

「お疲れさまでした」

疲労感たっぷりに呟き、志願者のいなくなった応接室でテーブルに突っ伏す。エスパーダは涼しい顔をして労いの言葉を口にしつつ、書類を整理している。鉄人だ。エスパーダ二十八号だ。いや、エスパーダが二十八人もいたら恐ろしすぎて泣きそうだ。考えるのは止めておこう。

疲労感からそんなどうでも良いことを考えてからボンヤリと虚空を眺める。あー、身体が怠い。

そんな気怠げな空気漂う日暮れ頃、勢いよく外から扉が開かれた。

「ヴァン様、お疲れ様です!」

現れたのはディーである。ディーは白い歯が輝く見事な笑みを浮かべ、部屋に入ってきた。

「ヴァン様、今日は時間が無いので訓練は一時間だけですぞ! ですが、ご安心くだされ! その一時間が半日分以上の密度になるように特別訓練を考案しております! それはずばり! 半日分行う訓練を分割せず全て同時にすると言うもの! 走り込みをしながら並走するこのディーと剣で打ち合います! 実戦では常に訓練と同じ状況で戦えるとは限りませんからな! まさに、走りながら剣を振り、走りながら相手の攻撃を防ぎ、避ける! 何故、こんな良い訓練方法を思いつかなかったのか不思議なくらいですぞ!」

上機嫌なディーがとんでもないことを言いだし、それにカムシンが眉根を寄せる。

「ディー団長。流石にそれは……」

「むむ!? カムシン! 貴様もやってみたいか!? よし、ではこの三人でやってみようではないか!」

「え!?」

瞬く間に犠牲者が増えた。しかし、どう考えても訓練の内容がおかしい。これは生死に関わる内容だ。

「え、エスパーダ! 流石に死んじゃうから止めて!」

慌ててエスパーダにお願いすると、エスパーダは深く頷いて口を開いた。

「ふむ……ディー殿。今日は時間も遅く、この後の時間も足りないくらいです。三十分ほどに短縮してもらえますかな」

エスパーダがそう告げると、ディーは残念そうな顔をしたが、すぐにハッとなった。

「むむ! それなら、少々険しい山を登りながら剣の打ち合いをするというのは……! おお、良い案やもしれませんぞ!? よし、そうと決まったらすぐに向かいましょうぞ!」

「え? や、山を登りながら、なんだって!?」

「それは、流石に死人が……!」

ディーの思い付きに顔面蒼白で聞き返したが、いつもの豪快な笑い声が返ってきた。

「わっはははは! よぉし! 面白くなってきましたな!」

結果、歯を見せて笑うディーによって、僕とカムシンは連行されてしまった。ティルとアルテがあわあわしていたが、止められるわけもない。

「さぁ、着きましたぞ! まずは、二人で先に走ってもらって、後から追いかけさせてもらいましょう!」

「……え?」

ディーによって連れて来られた場所は、まさかのロッククライミングスポットのような場所だった。いや、かなり激しめだが登山と言えなくもない傾斜ではある。しかし、明らかにディーより大きな岩などもゴロゴロあり、それを乗り越えながら進むのは大変そうだ。

「え? ここを登るの?」

そう聞き返すが、ディーは白い歯を見せて頷くのみである。

「……ヴァン様、本気でやりましょう。全力でやらないと、ディー団長が追いかけてくるそうですから」

「……ここを走るだけで嘘だと思いたくなるのに」

カムシンとそんな会話をしていると、ディーが目をつぶり、腕を組んで数を数えだした。

「一、二、三……」

「なに!? なんのカウント!?」

「い、行きますよ!」

突然ディーが数を数えだしたことに驚いていると、カムシンは冷や汗を流しながら地を蹴った。素早い。毎日僕の三倍以上の訓練をしているだけはある。

「ちょ、ちょっと、カムシン! 置いて行かないで!」

「すみません! しかし、ヴァン様には手加減してくださると思いますから!」

カムシンは申し訳なさそうにそんなことを叫びつつ、器用に走りやすそうな足場を見つけて斜面を駆けあがって行く。まるで高山に住むヤギのようにジャンプを繰り返しながら山を登って行く様子を見て、これはマズいぞと本気で思う。どう考えても、カムシンに追い付けそうにない。だが、ディーはこれを上回ってくるに違いない。

「そ、そうだ! わ、罠か何か仕掛けながら走れば……!」

必死になったヴァン君は、およそ剣術の訓練とは思えないことを考えながら走り出した。後方では元気よく数を数えているディーの姿がある。

「お、檻……! いや、壁だ! 越えられないような壁を作れば!」

僕は必死に頭を働かせながら走ったのだった。