軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

船という存在と侯爵領

「先んじてきた使者より話は聞いておる。船を見にきたのだろう?」

ロッソにそう言われ、頷いて応える。

「はい。海を渡ってきた船があると聞きました。是非、見てみたいです」

ロッソの目を見てそう告げると、笑みが返ってきた。嘲笑うような笑みではなく、まるで孫を見る老人のような微笑みだ。

ロッソは微笑みを浮かべたまま、片手を振って口を開く。

「正直だな、ヴァン子爵。あまりにも正直過ぎて、少々心配になるほどだよ」

その言葉に、パナメラがフッと息を漏らすように笑って頷いた。

「……そうでしょう? しかし、そんな珍しい貴族だからこそ、共に歩くと楽しいものですよ」

と、パナメラが褒めているのかいないのか分からない感想を述べ、ロッソもそれに苦笑する。

「ふむ、本来なら早々に力のある貴族に潰されるか、上手く利用されて搾取されるのが関の山だと思うがな。運が良いことに、子爵は陛下に大いに気に入られている。堂々と敵対する者はいないことだろう」

ロッソがそう言うと、パナメラが深く頷いた。

「今後も、大きな戦いはあることでしょう。子爵の能力は大規模な戦いでこそ高い効果が期待できます。ヴァン子爵もまだまだ大きくなりますよ」

「……羨ましい限りだ。対イェリネッタ王国の防壁としての役目しか持ち得ていなかった我が領地は、反対に少しずつ存在感を失うことだろうね」

パナメラの明るい話しぶりとは逆に、ロッソは溜め息交じりにそう口にする。そのロッソの言葉に室内の緊張感が増した気がした。

どうしようかと思っていると、ロッソは口の端を上げて迫力のある笑みを浮かべる。

「もちろん、我がロッソ侯爵家もこのままでいるつもりはない。イェリネッタ王国への防壁としての役割は果たしつつも、今後は戦力の三割を派兵することにしよう。パナメラ卿にも負けない働きをしてみせようとも」

ロッソがそう言うと、パナメラは深く頷いて微笑んだ。

「それは素晴らしい。閣下の御力を拝見できる日を楽しみにしていましょう。ところで、良かったら閣下も是非ヴァン子爵に同行しませんか? 恐らく、面白いものが見られるかと」

「……ふむ。面白いもの、か。そういう話は好きだね。ただ、船には簡単には近づけないとは思うが」

「え? 近づけない?」

ロッソの言葉に思わず口を挟むと、特に怒った様子もなく首肯が返ってきた。

「そうだ。なにせ、船は陸に接岸していないのだからね」

ロッソとお供を連れて、皆で海岸へと向かう。もちろん、港として整備などはされておらず、海に岩が露出している部分や真っ白な砂浜が広がっていた。そして、大きく広がる海には巨大な船の姿があった。白銀色の大きな船だ。陸地から百メートルほど離れた場所に浮いているようだが、錨でも下ろしているのだろうか。光沢の具合から見ても木製ではなさそうだが、外に装甲のように貼っているだけかもしれない。金属製っぽい見た目だが帆船のようだ。白い帆が幾つもあって美しい。

「外洋を渡るんだから蒸気船とかも期待したんだけど……」

大きな船。それはそれでロマンに溢れている。ただ、大砲も開発されているようだから、蒸気の活用も期待していたのだ。現実的に考えれば地球の歴史上でも蒸気の活用を発見するまでには時間が掛かった気がする。

ならば、これが現在の世界最新鋭の船だとしてもおかしくはないだろう。

そう思いながら、単純に観光と思って船を眺めていると、パナメラが興味深そうにこちらの顔を覗き込んできた。

「なんだ、少年? 珍しく騒がないな」

パナメラにそう言われて、首を左右に振る。

「いえ、とてもはしゃいでおります。隣にロッソ侯爵閣下がいらっしゃるので、あえて自重している次第であります」

「なんだ、その言葉遣いは」

適当に流したところ、パナメラが鼻を鳴らして笑った。

それを横目に見て、ロッソが腕を組んで微笑む。

「……まるで姉弟のように仲が良いな。良い関係性を築いているようだね」

「どちらかというと僕がお兄さんのような……」

ロッソの発言に反射的に否定しようとしてしまった。それに、反対側に立っていたパナメラが顔だけをこちらに向ける。

「何か言ったか、少年」

「いえ、なんでもありません」

背筋を伸ばして返事をすると、ロッソが吹き出すように笑った。

「……いや、失礼。さて、それでは本題に戻るとしようか。あの船が現れてからの間、私とて何もしていなかったわけではないからな」

そう言って、ロッソは船の情報を開示した。

船の名前はフリートウード。長さはおよそ百メートル。材質は予想通り主に木材。外側に金属を貼り付けているようだ。海を二週間近くかけてトリブートにまで辿り着いたらしい。そして、驚くべきは船の持ち主だ。国の名はフィエスタ王国。なんと、未発見の海洋国家だった。