軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】背水の陣

【タルガ】

フェルティオ侯爵の力で、センテナは僅かな延命をすることが出来た。左右の崖からの砲撃は明らかに減り、ワイバーンすら上空から姿を消したのだ。それも全て侯爵の恐るべき魔術の力なのは間違いない。

「この機を逃すわけにはいきません。斥候を出した後、即座に動けるように準備いたします」

「待て。それは浅慮やもしれんぞ」

「しかし、守りを固めても援軍は見込めない。やはり、こちらから出ていくしか……」

議論する間にも地響きが足元を揺らし、天井から細かな破片が落ちてくる。もう、僅かな時間しかない。そんな状況だというのに、会議は一向に答えを出せずにいた。

いつもとは勝手が違う戦場に皆が浮き足立っているのが分かる。

「……このままでは活路はありません。私も攻撃に転じる他無いと思いますが、いかがですか?」

そう言って正面に座る男を見る。話を振られたフェルティオ侯爵は、面白くなさそうに口を開いた。

「……つまらん話だが、合理的に考えるとそうなるだろうな」

溜め息混じりにそう呟くと、フェルティオ侯爵は皆を睥睨するように眺めて、再度口を開いた。

「この状況で籠城して相手を退却させるのに、防衛をしなくてはならんのは一週間というところだろう。あちらもあれだけの人数の兵站をそう何日も確保出来ん。しかし、このセンテナはこのままなら間違いなく明日には陥落する」

フェルティオ侯爵は吐き捨てるようにそう告げた。その言葉をきっかけに、場には重い空気が流れる。

この要塞センテナは国防の要である。この地を明け渡せば、フェルティオ侯爵領の広い平野を何万という敵が自由に動き回ることだろう。街道を封鎖してスクデットやセアト村への補給を断つことも出来る。

もしこのセンテナが奪われたら、陛下は致命的な戦況になることを恐れて挟撃される前に撤退することだろう。そうなれば、イェリネッタ王国とシェルビア連合国の侵攻を止めるのは難しい。まさに、スクーデリア王国滅亡の危機である。その責任は到底私の首一つで済むものではない。

この場にいる全ての者がそういった事態を想像したはずだ。

「ど、どど、どうしましょう……わ、我らの責任を問われる程度の話では……」

「そもそも、防衛が出来なければ帰る場所などないだろう」

「即時、近隣の領主や傭兵団に声を掛けて増援を……!」

フェルティオ侯爵の推測はよほどの説得力を持っていたのか。貴族の子息である指揮官の一部が慌てふためきだした。自らの進退どころか、生命の危機にも関わってくる明確な危機だ。その気持ちも多少は理解できる。

しかし、何よりもまずは騎士であるという事実が重要である。愚かにも保身のことを思って慌てる者たちを見て、そのことがより明確に感じられた。

「……やはり、起死回生の一手しかないでしょう。閣下」

呟いてから、フェルティオ侯爵に向き直る。フェルティオ侯爵が厳めしい顔を更に顰める様子を見ながら、自らの作戦を伝えるために口を開いた。

「閣下には申し訳ありませんが後方から援護をお願いしたいと思っています。周辺から来るであろう大砲による攻撃に対して、魔術による反撃をしていただきたい」

そう告げると、フェルティオ侯爵は腕を組んで唸る。

「……つまり、貴様が真正面から突撃して敵の目を引く、ということか。それでどうする? 第二、第三の突撃隊でも組織するか? それとも、陽動している間にこちらも崖を登って相手の裏をかくつもりか?」

フェルティオ侯爵はこちらの内側を見透かすような目をして、そんなことを言った。それに軽く首を左右に振って否定する。

「いえ、騎馬隊を主として隊を結成し、一気に敵陣を突き破ります」

「ただの玉砕ではないか」

私の言葉にフェルティオ侯爵は呆れた顔でそう口にした。だが、そんなつもりはない。私はもう一度首を左右に振る。

「危険ですが、可能性はあると思っています。これまで見ていた限り、大砲は命中率が悪く、短い間隔では使うことができません。ならば、数十程度の少人数で素早く移動する相手は苦手だと推測できます」

「……なるほど。それならば確かに大砲から攻撃される前に移動出来るだろう。しかし、浅はかだと言わざるをえない。敵は馬鹿ではないのだ。あの街道の先に何もないとでも思っているのか」

「もちろん、大軍を率いて待ち構えていることでしょう。しかし、それでもやらなければなりません」

語気を強めて、フェルティオ侯爵を見返す。すると、フェルティオ侯爵は面白くなさそうな表情で長い息を吐いた。

「……この場に無いものを欲してしまうとは、私も老いたものだ」

小さな声で脈絡の無いことを呟かれて、思わず眉根を寄せて首を傾げる。それに舌打ちをして、フェルティオ侯爵は口を開いた。

「気にするな、独り言だ……仕方あるまい。玉砕覚悟の突撃というのであれば、思い切りやった方が良いだろう。協力してやる」