軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

久しぶりの実家

関所代わりの城塞都市を通過して、フェルティオ侯爵の領地内を進む。旅程としては二週間ほどだろうか。パナメラの鍛えた精鋭たちとはいえ、歩兵が増えた分だけ旅程はしっかり時間がかかってしまった。

その代わり、無理のない行軍や余裕のある周囲偵察、夜間警戒を続けたおかげで、無駄に疲労を蓄積することもなく目的地へとたどり着くことが出来た。絶対に無理をせず、いつ戦闘になっても万全の状態で戦えるように配慮する。それがパナメラの強さなのだろう。

とはいえ、電撃戦のように速度重視での作戦を実行する時はどの騎士団よりも早く行動に移せるだろう。それだけの練度がパナメラ騎士団にはある。

ディーが十年間徹底して騎士団を鍛えてくれたら、これほどの騎士団になるのだろうか。

そんなことを思いながら、前方を進むパナメラ騎士団の隊列を眺める。すでに先頭はフェルティオ侯爵の居城がある第一都市の城門前へと辿り着こうとしていた。

王都と見まがうような、見るからに堅牢な城壁や巨大な城門。何を隠そう、セアト村の中心を囲う城壁や城門のサイズ感はこの都市のものを参考にしている。細部の彫刻や装飾に関してはより豪華にしてやろうという反骨精神のようなものもあるが、それでも影響を受けているのは間違いないだろう。

そして、その城壁の奥に見える尖塔や兵舎の屋根などは武骨と評されそうなほど簡素だが、それが逆に質実剛健とした美しさを感じられる。

まさに、中世の石造の要塞のようだ。

そんな景色だが、久しぶりの故郷である。追い出されたとはいえ、八年もの間そこで生活していただけに、懐かしさを感じるのは仕方がないことだろう。

「……ヴァン様、嬉しいのですか?」

聞き辛そうに、アルテが尋ねてくる。声をかけられて、ようやく自分が長い時間ぼんやりと都市の外観を眺めていたことに気がついた。

そのことに苦笑しつつ、アルテを見る。

「……そうだね。嬉しいかは分からないけど、懐かしいのは間違いないかな。やっぱり、生まれ育った街だからね」

そう口にすると、隣で鼻をすするような音が聞こえた。目を向けると、ハンカチで顔を覆うティルの姿があった。

「ふぐ……うぅ……っ、も、申し訳……」

どうやら、ティルの悲しみスイッチを押してしまったらしい。その姿と僕達の会話をどう見たのか、パナメラの表情が僅かに険しくなる。

そのタイミングで、馬車の外から扉がノックされた。

「失礼します。ヴァン様、目的地に……」

扉を開けて報告にきたカムシンが、号泣するティルを見て固まった。表情が険しいパナメラを見て一瞬心配そうな顔をする。

「……私が叱責したわけではないぞ」

不機嫌そうにパナメラが呟くと、カムシンは慌てて視線をこちらに向けた。

「あぁ、ごめんね。僕が、街が見えたからちょっと感傷に浸っちゃって……僕の代わりにティルが泣いてくれたんだ」

そう口にすると、カムシンも切なそうな表情になる。

「……分かりました。馬車の窓は開けないようにしますか?」

「いやいや、そこまで気にしないで良いよ。メアリ商会のロザリーさんが僕がいなくなって寂しがってくれる人もいるみたいなことを言ってたし、見知った人に会えたら嬉しいしね」

まぁ、一年以上も経てば忘れられてるだろうけど。そう思いながら、無理に前向きな返事をしておいた。

それに無言で頷き、カムシンが退出する。

静かになった馬車の中で皆の顔を見ると、アルテやパナメラが僕とティルの顔を様子を見るように窺っているのが分かった。

気にさせてしまって申し訳ないなぁ、などと思いつつ、心配してくれる人がいることが嬉しかったりもする。

少しほっこりしながら、僕達は無事に城門でのチェックをパスして都市内に入ることが出来た。

ざわざわと賑やかな街の気配がして、流石は地域で一番の都市だと感心しつつ、窓から外を眺める。すると、馬車の周りに多くの人が集まっていることに気がついた。

大通りだから、というわけでは無さそうである。

そんなことを考えていると、不意に僕の名が呼ばれた。

「ヴァンさまっ!?」

可愛らしい声が聞こえて、自然と声の主を探す。すると、赤いワンピースを着た少女の姿があった。少し背が高くなっているが、間違いない。衛兵の一人娘であるヴィーザだ。よく見ると、近くには三十歳前後ほどに見える男女の姿もあった。一人はヴィーザの父であり、城壁を守る衛兵のシャソンなので、もう一人はヴィーザの母親だろう。

「久しぶりだね、ヴィーザ。少し背が伸びた?」

手を振って、笑顔で返事をする。すると、ヴィーザの隣に立つ女性が少し緊張した面持ちでヴィーザの肩に両手を置いて頭を下げてきた。

「ちょっと、ヴィーザ……! その、ヴァン様。男爵様になられたと聞きました。話しかけてしまい、申し訳ありません」

慌てた様子でそんなことを言うヴィーザママに、僕は思わず眉をハの字にしてしまう。

「えー……そんな寂しいこと言わないで下さいよ。ヴィーザは友人だと思っていますからね」

そう口にすると、目を瞬かせてヴィーザ一家が動かなくなった。貴族らしくない発言だったから呆れられてしまったかもしれない。

そう思って自らフォローをしようとしたのだが、その前に周囲に集まっていた住民たちの中から笑い声が聞こえてきた。

「わっはっは! 間違いない、ヴァン様だ!」

「お帰りなさい、ヴァン様!」

「ぼ、僕のことは覚えてますか!」

嬉しそうな表情の住民たちが馬車の方へ歩み寄り、すぐ目の前で皆が声を掛けてきてくれた。皆の嬉しそうな表情や笑い声を聞いて、思わず涙ぐんでしまう。

「ちょ、ちょっと待って! 皆一気に話しかけてきたら何も分かんないよ!」

皆が覚えてくれていたことに感動して泣いているなんてバレたら恥ずかしい。そう思って、両手を振ってテレ隠しの文句を言う。それにまた笑い声が返ってきた。

「ヴァン様、すごい馬車ですね!」

「すごいでしょ。僕が作ったんだよ」

「この騎士団は皆、ヴァン様のですか!?」

「違うよー。パナメラ子爵の騎士団がほとんどだよ」

馬車の進む速度が遅くなり、住民と会話をしながら街の中を進んでいく。まるでお祭りの神輿のようにどんどん人が集まってきた。

そんな中、一人の青年が口を開く。

「ヴァン様、この街に帰ってきてくれたんですか?」

その質問に、思わず口籠ってしまった。皆の顔を見ていると、思わず帰ってこようかと思ってしまう。それくらい、皆の歓迎は嬉しかった。

しかし、僕はセアト村を治める辺境の地の領主、ヴァン・ネイ・フェルティオ男爵である。そんな無責任なことはできない。少し浮かれていた気持ちを切り替えて、真剣な顔で答える。

「……申し訳ないけれど、今は陛下からセアト村を領地として拝領した領地持ちの貴族なんだ。その領地を長い間離れることは出来ないんだよ」

そう答えてから、周囲に集まった多くの住民に対して微笑みを向ける。

「もし良かったら皆もセアト村に遊びに来てね! 大浴場っていう湯浴み場もあるし、色々と美味しいものもいっぱいあるからね! 今ならこの街の人限定でお家も用意してあげるよー!」

大きな声でセアト村の宣伝をして、両手を振った。それに皆が歓声を上げる。上機嫌で馬車の中から皆に手を振っていると、後ろでパナメラが噴き出すように笑った。

「中々やるな、少年。フェルティオ侯爵のお膝元で領民の勧誘をするとは……その地の領主からすれば敵対行為ととれる行動だぞ?」

そう言って、ニヤリと笑うパナメラ。僕は笑顔のまま振り向き、首を傾げた。

「……え?」