軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フェルティオ侯爵領へ

作ったばかりの高級馬車、カリナンの中、ゆったりとした空間と窓から見える街道の景色を楽しむ。赤みのある風合いの木材と、魔獣の革を使ったソファー。黄金の美しい装飾を施した窓枠とオイルランプは贅沢な空間を演出してくれている。

「いや、本当にいい加減にした方が良いぞ。少年?」

対面に座るパナメラが顔を引き攣らせてそんな言葉を呟く。何故か怒られてしまった。

「え? 馬車、気に入りませんでした?」

驚いて顔を上げると、パナメラは咎めるように目を細くして口を開く。

「気に入るとか、気に入らないじゃない。これだけ豪華な大型馬車、王族でも持っていないぞ。それを新興の男爵が持つなど、なんと言われるか」

呆れたような顔でそう言われて、苦笑とともに頷く。

「もちろん、この馬車を僕が独占するわけじゃないですよ」

そう言ってから、ティルを見る。

「紅茶とお菓子を用意してくれるかな?」

「はい! すぐに準備しますね!」

お願いすると、ティルがすぐに立ち上がって壁面に取り付けている棚から真空二重構造になった水筒を取り出し、テーブルにティーカップを並べて紅茶を注いだ。出発から二時間は経過しているが、まだほのかに湯気が出ている。そして、木を材料にした紙で包んだ焼き菓子が盛り合わせられたバスケットを真ん中にそっと置く。

その様子を眺めてから、笑顔でティルにお礼を述べた。

「ありがとう」

「いえいえ! あ、ちなみに私も一つ……」

「いいよ、食べて食べて」

そんな会話をして、上機嫌な様子のティルが一番に紙に包まれた洋菓子を手に取った。その様子に苦笑しつつ、パナメラにもどうぞとボディランゲージで伝える。それに、なぜか厳めしい顔になりつつ、パナメラはカップを手に取って口に寄せた。

紅茶を口に含み、その香りと味を楽しむようにゆったりと飲み込んでいく。その様子は普段のパナメラとはかけ離れていて上品である。いや、口にしたら怒られそうなので口にはしないが。

「美味しいですよね」

代わりに当たり障りない言葉を口にする。すると、パナメラは優雅にカップをソーサーの上に戻し、すぐにまた眉間に皺を作った。

「美味しいが、そうじゃない! いや、そもそも、その魔術具らしき容器はなんだ!? なぜ、まだ淹れたてに近い紅茶を楽しむことが出来る!?」

怒鳴るパナメラ。なぜ美味しい紅茶を飲んで怒ることが出来るのか。いや、お菓子を食べたら機嫌が良くなるに違いない。だって、美味しいんだもん。

「……お菓子もどうぞ?」

恐る恐るそう告げると、パナメラは不機嫌そうな表情のまま、お菓子を個包装していた紙を剥いで中の焼き菓子を取り出す。手のひらの半分ほどの大きさなのだが、パナメラは半分に千切ってお上品に口に運んだ。

「……うむ、美味い」

そう言って、また紅茶を口に運ぶ。あれ? あまり機嫌が回復した感じがしないぞ。

どう声をかけたものかとパナメラの様子を窺っていると、パナメラは目を細めたままこちらをちらりと見た。そして、溜め息を吐く。

「……言いたいことは分かった。少年は、自身の立ち位置をより強固なものにしようとしている……そういうことだろう?」

そう口にすると、パナメラは腕を組んで真剣な顔をした。

「これまでの少年の作った驚異的な兵器、武具類は直接見なければ分からない。ゆえに、武力を重視していない貴族達の興味は引けなかった。しかし、この豪華な馬車や不思議な容器などは明らかにそういった貴族達にも響くだろう。なにしろ、成り上がり者の私であっても金になりそうな雰囲気を感じることが出来るくらいだ」

やれやれ、といった態度でパナメラはそんなことを言う。それに、思わずニヤニヤが止まらなくなった。

え? そんなにお金になるの? やったー、すぐに量産体制を整えよう。この馬車は通常の馬車より頑丈で小回りが利くくらいで、もし敵対勢力に使われても脅威とはなり得ない。そうなれば売って利益を得るのに躊躇はない。

と、そんなことを思っていると、パナメラは首をわずかに傾けて鼻を鳴らした。

「まったく、恐ろしいな。十歳にもならんとは思えん……アルテ嬢。旦那様は将来一国の王になってるやもしれんぞ。その時は私が側室になっても良いか?」

「え、えぇっ!? ぱ、パナメラ様が!? い、いえ、そ、そんな私なんかが許可を出すような話では……」

激しく動揺して両手を振るアルテに、パナメラは意地の悪そうな笑みを浮かべる。

「お? アルテ嬢、少年のことをアルテ嬢の旦那様と呼んだことに何も言わなかったな? なんだ、もう婚約ではなく夫婦になっていたのか。いつの間に初夜を迎えた?」

パナメラがガキ大将のような顔で揶揄いだす。それにアルテは一瞬目を瞬かせてキョトンとしたが、すぐに耳まで真っ赤にして奇声を発した。

「ピェッ!? な、なな、なん……っ」

聞いたことのないアルテの鳴き声に、パナメラだけでなく僕まで笑ってしまう。

「はっはっは! 冗談だ、アルテ嬢。いや、悪かった。揶揄い過ぎたか」

「あんまりアルテを虐めないでくださいよ」

「いや、すまんすまん」

エサを待つコイのように口をぱくぱくと開閉しているアルテを横目に、パナメラとそんなやりとりをする。ティルは微笑ましそうに笑いながら、二個目の焼き菓子を口に運んでいた。

こうして、意外にも平和かつ楽しい時間を過ごしながら旅をすることが出来たのだった。