軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】ムルシアの苦悩

【ムルシア】

ディーやアーブ達十数人の騎士を連れて、すぐさま城門へ向かう。ウルフスブルグ山脈を背に、山道を下りてくる大勢の騎士団の行軍が遠目からでも分かった。

そして、城門の上にいる兵はこちらを見て指示を待っている。

「開門! 開門だ!」

大急ぎで城門を開けさせて、ディー達と一緒に門の前で待った。

門が開いてすぐに現れたのはベンチュリー伯爵とその騎士団だった。白髪で鋭い目つきをした歴戦の猛者、ベンチュリーはこちらを見て顎を引いた。

「おお、フェルティオ侯爵のご子息、ムルシア殿。そうか、この要所を任されたのは貴殿だったな。壮健そうでなによりだ」

「は、はい。ベンチュリー卿もお元気そうで何よりです」

簡単な挨拶を返すと、ベンチュリーは大きく頷いて私の背後を見た。

「それで、そこにいるのは高名な 竜討伐士(ドラゴンスレイヤー) のディー殿とお見受けするが……ヴァン卿から引き抜きでもしたのかね?」

ベンチュリーが腕を組んでそう口にすると、私が答えるよりも早くディーが肩を揺すって笑い声を上げた。

「わっはっはっは! いやいや、今は確かにムルシア騎士団の騎士団長代理をさせていただいておりますが、もう少ししたらヴァン様の下へ戻る所存! セアト騎士団の団長は誰にも譲りませんぞ!」

ディーがそう答えると、ベンチュリーは目を瞬かせてこちらに目を向けてきた。

「……ムルシア騎士団? ふむ、フェルティオ侯爵家騎士団ではないのかね?」

怪訝な顔をするベンチュリー。しかし、その表情には微妙に違和感がある。恐らく、私の名の騎士団があることを知って多少の推測は出来ているのだろう。つまり、自分の推測が正しいかの答えが聞きたいだけなのだ。

その期待に応えられるかは分からないが、事情を素直に話すことにする。

「陛下より勅命をいただきました。今後、イェリネッタ王国への侵攻にヴァンの力が必要であるため、全力で手助けするようにとのことです。結果、ヴァンが……いえ、ヴァン男爵が改修したこの城塞都市の領主代理に任命されました。既に王国軍を受け入れるだけの準備は出来ておりますので、どうぞ中央の城まで」

主立った上級貴族の当主と会話をするような機会が少なかったため、緊張しながら状況の説明と城内への案内を行おうとした。すると、ベンチュリーが眉根を寄せて奥を見る。

「……随分と、様変わりしたように見えるな。ヴァン男爵が作っただけあって個性的だ。それで、この城塞都市の名は?」

ベンチュリーにそう問われて、思わず口ごもる。不審そうに眉根を寄せるベンチュリー。

「どうした?」

再度尋ねられ、観念する。

「……こ、ここは、城塞都市ムルシア、です」

そう答えると、ベンチュリーはフッと息を漏らすように笑う。

「そうか……城塞都市の名前はヴァン男爵がつけたのか?」

「……はい、そうです」

頷いて答えると、ベンチュリーは目を細めて笑った。

「はっはっは! ヴァン男爵らしいな! それでは、我が騎士団の滞在場所を教えてくれ」

「は、はい……城塞都市内は複雑な造りになっています。む、ムルシア騎士団の騎士に案内をさせますので」

そう言ってから、後ろを振り返ってディーの隣に立つ男に声を掛けた。

「マーコス、ベンチュリー伯爵家の騎士団を奥の小城までご案内するように」

「はっ!」

マーコスは背筋を伸ばして威勢の良い返答をし、前に出てきた。マーコスは最も付き合いの長い騎士の一人だ。小柄だが鍛え上げられた精鋭であり、有用な魔術の使い手でもある。

マーコスは胸を張って自身より頭一つ分ほど大きいベンチュリー伯爵家騎士団の騎士団長へと向かっていった。

「ムルシア騎士団兵長、マーコスと申します! それでは、こちらへどうぞ!」

マーコスがそう言って先導するように歩くと、騎士団はこちらに一礼してから進みだした。戦で鳴らしたベンチュリーの騎士団だけあり、その動きはまさに一糸乱れぬというものである。

その姿を見送ってから、ベンチュリーは城門の奥を指し示した。

「陛下がいらっしゃるまで俺も此処で待つとしよう。どこで待てばよい?」

「あ、そうですね……では、そちらに準備をします。少々お待ちください」

ベンチュリーに言われて、今更ながらにそんなことに気が付く。内心で焦りながら、近くの兵を呼んでテントを張るように指示を出す。

次の騎士団が城門を潜るのを確認して、貴族と騎士団長に軽く挨拶をして奥へ行くように伝える。そうこうしている内に各貴族が休める程度の場所は準備が出来た。

「どうぞ、こちらでお待ちください」

「うむ」

出来たばかりのテントに椅子を準備してベンチュリーと他の貴族を案内する。それからすぐに二つの騎士団が到着した。それぞれ少数の騎士団であったこともあり、すぐに挨拶と案内を終える。

そうしていると、ついに王家の紋章を掲げた一団が到着した。四頭立ての馬車が城門を潜り、テントの中からベンチュリー達が姿を現す。

「おお! あの半壊した要塞がここまで変わったか! 中を見るのが楽しみだな!」

陛下が上機嫌にそう言いながら、馬車から顔を覗かせる。不敬があっては大変である。気を引き締めて話をしなくては……。

私は無意識に息を呑み、額から汗を一筋流したのだった。