軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】城主の仕事

【ムルシア】

朝も早くから外で騎士団の掛け声が響いている。聞き慣れたその声を合図にして体を起こし、ベッドから降りた。窓に近付いて外の景色を眺めると、騎士団が一塊になって走っている。ディーは誰よりも元気が良く、鎧を着た団員達を追いかけるようにして走らせていた。

恐ろしいのは、ディーが誰よりも重装備であることだ。いつもながら、全身鎧と大きな盾、そして身の丈ほどもある大剣を手に走っている。

その状態で前を走る団員達を笑いながら追いかけているのだ。

ちなみに、最初に心配していた食料や人材不足の問題は、定期的にヴァンから送られてくる物資やそれを運ぶ冒険者達のお陰で何とかなっている。

ただ、冒険者達が周囲の警戒ついでに魔獣を多く狩って帰ってくるのは問題であった。なにしろ、この城には素材を買い取る資金が無い。一部は物資運搬用の馬車に載せて持ち帰っているようだが、残りは置きっぱなしになってしまう。

もっとも、冒険者達はヴァンから依頼をされているようで、換金素材を切り分け、腐ってしまう肉類は干し肉にしたりしていた。さらに周囲の木材や鉱石などの資材も集めてきてイェリネッタ王国側の小城下にある素材置き場に保管している。

もしかしたら、この場所にもメアリ商会が 隊商(キャラバン) を派遣してくれるようになるのかもしれない。

今でもセアト村からベルランゴ商会が行商馬車で往復してくれているが、素材の買取や武具、日用品の売買をするには心許無い。今後の人口増加を考えても、ちょっとやそっとでは対応が間に合わないだろう。

大商会の隊商ならばそれも可能になる。

そんなことを考えながらも、あのウルフスブルグ山脈に隊商が自由に往来出来るような街道の整備は難しいと思っている。

なにせ、生息する魔獣が大型のものばかりなのだ。夜間に少し気を抜いただけで馬車を破壊されてしまうなどもザラだろう。崖のそばを通る際には近くで戦闘が起きるだけで滑落してしまう恐れがある。

危険と利益を天秤に掛けると、自分ならば隊商を派遣しない方向で考える。

「……この考え方が良くないのだろうか」

衣服を着替えてから、ぽつりとそう呟いた。

元々の性格だが、どうしても悪い方に転がった場合を考えて判断が鈍る傾向にある。これは父から何度も指摘された短所だ。

対して、父やヴァンにはそれが無いように思う。ヤルドやセストも自分の判断を信じて突き進む性格だが、それは考えが浅いだけだ。

父の場合は最悪の場合も想定しており、それを基に戦略を組み立てている。

また、ヴァンも同様だ。この城を任された時、どのように守れば良いかと尋ねた。すると、ヴァンは最上階から城塞都市を見下ろしながら、こう答えた、

「僕の場合は、もし敵が自分ならどうするか考えます。一つはバリスタを警戒しつつ、多少の損害は無視した強硬策。薄く左右に広く展開して物量で城壁を破る手段ですね。もう一つはぎりぎりまで接近がバレない侵攻ルートの開拓です。危険な山を通過して、左右どちらからか攻め込みます。これはワイバーンがいれば可能でしょう。最後は兵糧攻めです。既に相手にはフェルディナット伯爵領の領地深くまで攻め込んだ実績があります。そちらから侵攻して物資の補給を断つように動く方法ですね」

と、歴戦の将軍か何かのようにヴァンは言った。私が唖然としていると、ヴァンは苦笑を交えて再度口を開く。

「もちろん、穴を掘ったり、川から何か仕掛けたり、夜襲を掛けたりと様々な奇策を使う可能性もあります。なので、どちらにせよ柔軟に対応しないといけません。ムルシア兄さんは慎重だから、防衛戦や少数での野戦は向いていると思いますよ。ディーもいますし、思うままやってみてください」

そう言って、ヴァンはあっさりとセアト村に帰ってしまった。

気楽な調子で楽しそうにしているが、ヴァンと話せば話すほどその深い考えやこちらへの配慮に驚いてしまう。

なにせ、まだ九歳なのだ。エスパーダやディーがつきっきりで英才教育をしたと聞いていたが、それでも信じられない。

ヴァンがエルフの拾い子で、実はもう五十歳であると言われた方が信じられるくらいである。

そんなことを考えていると、遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきた。どうしたのかと外に出ると、櫓に登っていたアーブがこちらに向かって声をあげていた。本来なら城内を上がってくるのだが、余程急ぎだったのだろう。

まさか、敵が攻めてきたのか。そう思って、すぐにその場から返事をする。

「何かあったか!?」

聞き返すと、アーブが後方を指差して口を開いた。

「王家の御旗です! 王国軍が到着した模様!」

その報告を聞き、瞬時に二つの感情が胸の内を支配する。

一つは大勢の味方の到着により、城塞都市を防衛するという役目が完遂されたことへの安堵。もう一つは、陛下を筆頭に上級貴族の面々が到着したことに対する緊張だ。

「……っ! 急ぎ、歓待の準備を!」

慌てて指示を出すと、アーブが大きく頷いた。

「はっ!」

アーブの返事を聞きながら踵を返して城の中の階段を駆け降りる。頭の隅に父の顔が思い浮かび、胃が痛みを訴えた気がした。