軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

準備

「まったく……ヴァン男爵には驚かされてばかりで悔しいな」

とても悔しそうには見えない顔で陛下はそんな感想を口にする。上機嫌な様子の陛下は、その後も大砲について色々と聞いてきたので、自分なりに大砲の脅威や今後の方向性について語っておいた。

もちろん遥か未来の話ではなく、大型化、連射式、小型化などについてだ。最も食いついたのが、小型化によって一人一人が前世の銃のような武器を扱えるという話だった。

農民であってもすぐに敵を倒せる力を得ることが出来るのだ。陛下の着眼点は間違っていない。

大変なのは、そういった武器が出回った時、戦争の形がまったく違うものになることだろう。

これまでは長い槍を構えて密集していれば、戦闘訓練をしていない農民でも一定の戦果は得られた。魔術師対策として鶴翼の陣という翼を広げるような陣形をとったり、百人ずつの隊に分けて隙間が開いた三角形のような魚鱗の陣の亜種といったものを使う軍もあるが、一般的ではない。

しかし、銃や大砲といったものが普及した場合、これまでの戦い方は過去のものとなる。

極端に少数の隊でも戦果を上げることが出来るようになるのだから、戦線を薄く広くする戦術もあり得るのだ。また、ゲリラ戦や待ち伏せ、籠城戦などでも驚異的な力を発揮するだろう。

なにより、罠という使い方が確立してしまったら相当厄介な武器となる。

いずれ来るであろう未来を憂いながら、僕は陛下に向き直った。

「今のところは、少なくともイェリネッタ王国にそういった兵器はないと思います。しかし、その背後には黒色玉を提供した国があります。イェリネッタ王国の最初の守りの要は制圧済みですから、どうにかしようという動きは必ず起こります。新たな兵器をイェリネッタが手に入れる前に、進軍を開始すべきです」

そう告げると、陛下は「分かっておる」と呟き、顎を指で挟むようにして視線を落とした。十数秒もの間熟考した陛下は、眉間に皺を寄せて顔を上げる。

「……よし、ならば明後日に出立する。本当なら一週間の準備期間を考えておったが、ヴァン卿の言うように敵の重要拠点を占拠したばかりなのだ。味方が揃うのを待たずに、セアト村に到着した順番に迅速に行動をしていこう」

そう決定すると、陛下は振り返って集まっている貴族や指揮官達に対して口を開いた。

「予定を繰り上げる! 想定よりも多くの騎士団が揃っている故、早急に新たな拠点へと移動! イェリネッタの領土に食い込んだ楔が抜けぬように更に強固な地固めを行うぞ! 持てるだけの物資を持って行くが、追加の物資は遅れて来る騎士団に運ばせる! 我らの出立は明後日の早朝だ! 良いな!?」

「はっ!」

陛下の命令を受けて、全員の空気が一変した。絶対君主の号令とはかくも違うものか。誰も彼もが生粋の軍人のような表情となり、素早く行動を開始した。

「陛下、陣形はいかがいたしましょう。もしよろしければ、我が騎士団が先陣を……」

「我らが陛下の前に立ち、お守りしましょうぞ」

「行軍には冒険者達を雇って警戒させるつもりだ。陣形は明日にでも決定して知らせる。今は急ぎ、必要な物資を準備させよ」

戦でならした国というだけあり、誰もが戦意が高い。恐らく、パナメラもかなりのものだろう。

そう思って探すと、パナメラは腕を組んでこちらを見ていた。

「パナメラさんは準備に行かないんですか?」

尋ねると、不敵な笑みが返ってくる。

「もう準備は進めている。明日でも出発出来るだろう」

と、頼もしい返事をするパナメラ。流石は戦闘民族だ。三百人で巨大な帝国と真っ向から戦う民族の映画を観たことがあるが、多分それをパナメラが観たら感動すること間違いなしである。

そんなことを考えていると、全員に指示を出し終えた陛下が歩いてきた。

「さぁ、明日は忙しくなるぞ。そうだ、ヴァン卿にも頼みたいことがある。バリスタの貸し出しについてだ」

陛下の言葉に、即座に頷く。

「はい。もちろん、移動式バリスタも、それを載せる装甲馬車もあるだけお貸し出しします。更に、輸送に関してはこちらで冒険者の方々へ依頼しますし、自慢の機械弓部隊も同行しますので」

「おぉ、それは良い! これなら物資の心配も無用だろう! 頼むぞ、ヴァン卿!」

ご機嫌でそう言われた陛下は、またアプカルルとドワーフの様子を見に行くと言って去って行かれた。お供が少数なのはセアト村の治安を信頼してということであれば嬉しい。

上機嫌に去っていく陛下の後ろ姿を見送ってから、この場に残ったパナメラに視線を向ける。すると、パナメラは真面目な顔でこちらを見ていた。

「……ちょっと腹を割って話そうか」

「割ったら死んじゃいます」

「馬鹿者」

そんな気の抜けた会話をしてから、少し真面目に対応する。

「新しい武器の話ですか? それとも、イェリネッタ王国の動向についてですか?」

尋ねると、パナメラは一瞬目を丸くし、すぐに力強い笑みを浮かべた。

「流石だな、少年。私の言いたいことを予想していたか。それほどまでに私のことを考えているとは、それは恋心ではないのか」

「僕はパナメラさんのこと好きですよ」

悪戯っぽい顔で冗談を言うパナメラに、ニコニコと笑顔で乗っかる。すると、パナメラはウッと呻いて一歩下がった。

「……少年は将来恐ろしい男になるな。多分、歴史に名を残すことになるぞ。アルテ嬢を泣かさないようにな?」

そんなことを言われて、眉根を寄せて口を尖らせる。

「アルテを泣かせることなんてしないですよ。大切にしようと思っていますから」

正直にそう答えると、調子を狂わされたパナメラが眉間に皺を寄せて唸る。

「……どんどん口が達者になっている気がするな。いや、貴族としてはそれも才能の一つになるだろうが……」

ぶつぶつと何か呟いて、パナメラは深く息を吐いた。

「……余計なことを考えても仕方が無いな。それで、少年はどう思う? 私が敵方ならば、ここまでやられっぱなしではいられない。どうにか起死回生の一手を狙うだろう」

パナメラがそう口にして僕を見たので、溜め息を吐いて頷く。

「それはそうでしょうね。なにせ、これまでスクーデリア王国がイェリネッタ王国を攻める時は、常にウルフスブルグ山脈を迂回して海側の街道を通って攻め込んできました。だからこそ、イェリネッタ王国の守りは海側に集中しており、今回陥落した要塞はまさに急所ともいえる場所となります。そのまま北に行くことも出来ますし、東西両方に進んでもイェリネッタ側は嫌がるでしょう。戦場が分散するということは、守る側が不利になるのは自明の理です。なにせ、最低でも三方に兵を分散しなくてはなりませんからね」

自身の予測を簡単に説明すると、パナメラは目を細めた。

「ならば、やはり今度は相手から攻めてくるか」

パナメラにそう言われて、頷く。

「そうでしょうね。こちらから先に攻め込んでも、せっかく落とした要塞を攻撃されたなら、どれだけ有利に侵攻していたとしても戻るしかありません。補給も断たれてしまうし、何より後で必ず挟み撃ちにあってしまいますからね」

答えると、パナメラは腕を組んで「ふむ」と低く声を出した。それを横目に見つつ、ドワーフの炉から上る煙を見る。

「……陛下も必ずそういったことは考えておられると思いますよ。だから、拠点を盤石のものとしてから侵攻をすると思います」

と、自分の考えを述べる。パナメラはそれに肩を竦めて頷いた。

「もちろん、陛下ならあらゆる場面を想定されているだろう。しかし、相手の兵器について詳しいヴァン男爵ならば、イェリネッタの次の一手についてより精確な予測が出来るかと思ってな……よし、聞き方を変えよう。もし、少年がイェリネッタの総大将としたら、どう戦う?」

そう尋ねられて、苦笑しながら首を左右に振る。

「僕の場合は戦い方がちょっと特殊ですからね。色んな方法を考えると思います。一番良いのは罠を張ることですね。黒色玉を使った罠を用意しておけば、そう簡単には攻めることが出来ません。動きが遅くなったタイミングで先ほど説明した大砲を使えば、相当な戦果を挙げることが出来るでしょう」

問いかけられたので答えたのだが、パナメラは想像以上に深刻な顔で顎を引いた。

「……罠、か。それはあまり考えが及ばなかったな。すぐに陛下に進言しておこう」

そう言って、パナメラは護衛を連れて踵を返した。

「……もしかして、余計な事言っちゃった? これはまた前線に呼ばれるパターンじゃ……」

僕は戦々恐々としながら小さくそう呟いたのだった。