軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51.公爵と伯爵

クラヴェル家への処置がマルグリットに知らされたのは、数日後のことだった。

ノエルがド・ブロイ家を訪れるのはこれで三度目になるが、今回はお忍びではなく正式な礼服をまとい、迎えるルシアンとマルグリットも正装である。

これには理由があった。

王家に対し虚偽の申告をした罪、ド・ブロイ家とクラヴェル家の決裂を誘い、国政を混乱させようとした罪で、イサベラは伯爵位の継承権を剥奪され、それに伴い貴族籍も抹消された。

幽閉同然に修道院へ送られた彼女が外の土を踏むことは、おそらく今後十数年はないだろう。

モーリス・クラヴェルは、イサベラの監督不行届きを理由に同じく伯爵位を退けられた。王都からは追放となり、二度と足を踏み入れることはできない。

領地へ帰れば生活に困らない程度の仕事にはありつけるはずだ。しかしマルグリットの嫁いだあと経営が悪化の一途を辿った原因である彼を、クラヴェル領の民たちが許すかはわからなかった。

「というわけで、クラヴェル伯爵家は継承権を持つ者がいなくなってしまってね。ただ、隣国との友好に一役買った勲功の家を潰すのも忍びないということで、今回は特別な取り計らいをすることにしたよ」

緊張を面に表すマルグリットへ、一枚の紙が渡される。

羊皮紙に金の飾りを施し、王家の紋章の捺された書状。

「マルグリット・クラヴェル・ド・ブロイの名乗りを許し、君にクラヴェル伯爵位およびクラヴェル領主の地位を預ける」

「勿体ないお心遣い、誠にありがとうございます。王家に忠誠を誓い、いっそうお役に立てるよう努めます」

腰を深く折り、両手で捧げ持つようにしてマルグリットは書状を受け取った。

ノエルはにこりと笑うと、今度はルシアンに向き合った。

「それから、ルシアン・ド・ブロイ。君をド・ブロイ公爵として認める」

「ありがたき幸せにございます。私もマルグリットと協力し、王家の力となることをお約束いたします」

ルシアンも頭を下げる。

「今日は内示だ。正式な宣誓はまた両陛下ともに宮殿で」

「はい」

「――あ、言い忘れていた。領地付きの公爵位と伯爵位はできるだけ別の人間に継がせてほしい、との母上のお言葉でね」

領地が大きくなりすぎればそれもまた王家への脅威になる。今回のことはあくまで特例なのだ。

「……まあ、なんとかなるよね」

「?」

「……」

首をかしげるマルグリットに、苦虫を嚙み潰したような顔で真っ赤になるルシアン。

ノエルはルシアンの肩を軽く叩いた。

「期待してるよ。隣国とは条約を結んだとはいえずっと緊張状態を続けてきた。国境沿いの領主が名実とも夫婦になればむこうへの圧力にもなるし、公の場でも思う存分イチャついてくれていいから」

「……婚姻を解消してもよいと言ったのは嘘だったのですね」

まだ顔を赤くしたままのルシアンがため息をつくと、ノエルは悪びれた様子もなく肩をすくめた。

「そりゃあね。いま解消されたらただのパフォーマンスだったことが隣国に知られてしまう」

「荒療治……と言いたいところなのでしょうが、マルグリットを傷つけたこと、しばらく忘れませんのでそのおつもりで」

「ル、ルシアン様!」

不遜な物言いに慌てるマルグリットの肩を抱き寄せ、ルシアンはノエルを見つめた。

「わかっているよ。許してもらえるまで便宜は図る」

「本当に婚姻を解消すると言ったらどうするつもりだったのですか」

マルグリットが「離縁してください」と言い出したとき。

ルシアンがマルグリットを愛していなかったら。

渡りに船だと、離縁していたら。

もしくは、マルグリットの意思を尊重するつもりで、その要求を受け入れていたら。

賭けるには勝算の低い状況だったように、ルシアンには思えるのだが。

「……君がマルグリット嬢を手放せるわけがないんだよ」

くすくすと笑われて、マルグリットは頬を赤らめる。

あいかわらず、自分を価値の高いもののように扱われることには慣れていない。

(まったく……この方はどこまでお見通しなのか)

それ以上なにも言えなくなったルシアンとマルグリットを残し、

「じゃあまた、宮殿でね」

ノエルはいつもの食えない笑顔を浮かべて、戻っていってしまった。

正装を解き、くつろいだ格好に戻ったルシアンのもとへ、マルグリットがやってきた。

ルシアンは眉を寄せてソファに沈んでいる。

これまでのマルグリットなら、自分に怒っているのだろうかと考えてしまったところだ。

だが、シャロンから言われたとおり、自分が想像していたルシアンの気持ちは間違っていた。本当のところはルシアンに尋ねてみなければわからない。

「お疲れですか、ルシアン様」

「問題ない」

隣に座ったマルグリットを見上げ、ルシアンは無表情に答えた。

と、ここでルシアンも、ニコラスの助言を思い出す。自分の状態を細かに説明すること、希望を素直に出すこと――。

「疲れてはいる。だが休暇をとる目途はついている。そのときに休むから問題ない。……今のは、考え事をしていただけだ」

「そうなのですね」

「マルグリット」

身を起こしたルシアンがマルグリットを抱きよせる。

「こうしてると落ち着く」

「そ、そうなのですね」

顔を赤らめて身を縮めながらも、マルグリットも抵抗はしない。

(本当に、わたしといることがルシアン様にとって喜ばしいことなのね……)

そのことをルシアンは態度で示してくれているのだ。

それだけでマルグリットはふわふわと夢見心地になってしまう。

しばらく考え事を続けていたルシアンは、区切りがついたのか、マルグリットから離れてしまう。

ふたりのあいだにできた距離を寂しいと思う間もなく、

「王宮に呼ばれるのは来週だろう。それまでには内部の書類も片付いている。俺も君も領地の資料には目を通したな。父上と母上にはもうしばらく王都にいていただくようお願いしてある」

ひと息に言ってから、ルシアンはやさしくほほえみ、手をさしだした。

「謁見を終えたら、ド・ブロイ領へ行こう。海を見に。それから、クラヴェル領も紹介してくれ」

「……はい!」

マルグリットは顔を輝かせ、ルシアンの手をとった。