軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

85 精霊の導きと啓示

未開の森へと戻り探索を再開させた俺達は、イベントに巻き込まれることも無く順調に資材調達を進めていた。

ザザッズドーンそんな木の倒れる音が森に響く。

「この音を聞いても魔物が現れないとはな。マンドレイクの叫びが魔物を呼んでいるのかも知れないな」

「そうなのかも知れないですわ」

俺の呟きにリシアンが反応し、話しかけてきた。

「それでどうだ? 休憩前に言っていた呼ばれる感覚や声はあるか?」

「ええ。でも範囲が広くてわからないですわ」

俺はミルフィーネとクレシアに視線を向けるが、二人とも顔を横へと振る。

「そうか。引き続き木の選定と声に集中してくれ」

「畏まりましたわ」

そんな会話をしながら作業を進め、休憩前に戦闘した場所まで戻るとありえない光景が拡がり、俺は目を疑った。

「……さっきはこんなに無かったよな?」

「……もしかすると妖精や精霊がイタズラしているのかも知れませんな」

「そんな暢気に言っている場合じゃないニャ。離れるのが無難だニャ」

ケティは十を超えるマンドレイクに驚きを隠せないでいた。

あの叫び声は獣人であるケティも少し辛くなるほどだったらしい。

「ケティ安心しろ。マンドレイクは植物だから魔法袋に回収出来る」

「ニャ? 生き物は魔法袋に入らないって、言ってなかったニャ?」

「一応は薬草の類だし、それがダメでも聖域円環を発動してこちらが恐慌状態に陥ることは防ぐから大丈夫だろ」

「ルシエル様頑張るのニャ」

こうして念のため皆には下がっていてもらい、失敗して俺が気絶した時は俺を担いで退却することを伝えた。

「やるか」

俺は魔法袋にマンドレイクが入るように念じた。

「……あっけないな」

いとも簡単に入ってしまったマンドレイクに唖然としながらも回収を終えた。

「……問題はなかったぞ」

俺が振り返り皆に告げるとエルフの三人が一点を集中して返事もなかった。

「どうしたんだ?」

俺は彼女達が見ている方向に視線を向けたが何も見えなかったし、何もあるようには感じなかった。

「…………妖精ですわ」

「森の案内人のレーシー……」

「初めて見ましたけど大きいです」

「ついて来いと言っていますわ」

「……《強さは先程確認させてもらい、知恵に関してはズル賢いとは思うが……我の姿を視認出来るもの達を連れている運に感謝するんだな》と言っていますわ」

俺はライオネル達を見るが、やはり三人にしか見えていないようだった。

ただ妖精が語りかけてくるなんてことは、普通はありえないのだ。

何か特別なイベントに巻き込まれない限りは…………俺はそこまで考えてレーシーと呼ばれた妖精に付いていくことをリシアン達、三人に伝える。

「……もしかしたら呼んでいたのはその妖精かも知れない。だから警戒しながらいくぞ」

『はい』

妖精が見える三人の後を警戒しながら進む。

「ファンタジー過ぎるぞ」

草や木が形を変えて曲がりくねり、本来は無かった道が作られたりしていく。

魔物とは遭遇せず、徐々に鳥や虫の声も無くなり、風に揺られる木の音だけが耳に届くのだった。

「着いたらしいですわ」

「少し待つように指示してレーシーは姿を消しました」

「それにしても綺麗な泉ですね」

三人に案内されて来たのは、神秘的で美しい泉だった。

カメラがあれば、きっと何度もシャッターを切っていたと思う。

魔物さえ現れなかったら、ここで暮らしても良いかもしれないなぁ

「……動き回るのは危険な感じがするニャ」

「森の妖精はイタズラ好きで、人を惑わして森から出られなくする逸話がありますから、その方が良いでしょう」

ケティとライオネルは警戒を解くことはしていなかった。

俺は頷き、綺麗で神秘的な泉を眺めていた。

それから数分後、エルフの三人は泉に向かって土下座をし始めた。

「どうしたんだ?」

彼女達からの返答は無く何か喋っているようだったが、まるで防音の結界でも張られているのでは? そう思える程全く聞き取ることが出来なかった。

「ドランとポーラも連れてくれば良かったか?」

俺はライオネルとケティに精霊の声が聞こえるドランを連れてきた方が良かったのか聞いてみた。

「ドラン殿は土の精霊の声が聞こえても、見ることは出来ないと言っていましたから我等と変わらないでしょう」

「連れてきていたら相性の問題で、迷わされていたかもしれないニャ」

二人もドワーフコンビを連れてこなかった判断は間違っていない…そう思ってくれていた。

俺が土下座中の三人を見ていると突如頭に声が響いてきた。

《龍の加護を受けし人族よ。まだ御主がここに来るには時が早い》

「……どういう意味だ?」

俺が急に喋り始めて周りは驚いているが、それ処ではない。

《時が経てば、その意味も分かるであろう》

「……俺はまたここに来られるのか?」

《この森に来られたら案内をしてやろう》

「……来られたら?」

《運命を乗り越える強い意志があれば、来られるだろう》

「抽象的過ぎる。ちゃんと答えてくれ」

しかし返答はなかった。

エルフの三人はこちらに向かって歩いて来ていた。

「大丈夫ですか?」

「……俺の人生は平穏のまま過ごせないらしい」

俺がそう告げるとケティが笑って口を開いた

「いつも通りだニャ」

「……確かに今まで通りか」

いつも通り平穏ではない環境に思うことはあるが、イタズラに警戒しても仕方ないと納得して迷いを払う。

「ルシエル様、どうやらここからずっと森の奥に進めばエルフの国があるらしいのです」

「ただ精霊様がまだその時ではないとおっしゃっていましたわ」

森の先を見てエルフの国があることが分かり驚いていると、俺も言われたその時ではないという言葉が妙に引っかかった。

「それでクレシアは何で泣いているんだ?」

さっきからクレシアは声を上げずに涙を流していたのだ。

「……私は望まれて生まれてきた子供だって精霊様が教えてくれたのです。人とエルフは本当に愛し合っていないと生まれないと教えていただきました」

嬉しそうに語るその顔にはハーフであることで差別があったのだろうと推測出来た。

「そうか、良かったな」

「はい」

「それで帰り道はどう進めば良いのだ?」

「あっちに進めば帰ることが出来るそうですが……こっちの道を進めばハッチ族の集落があるらしく、そちらに赴いて欲しいと精霊様が言われていましたわ」

ハッチ族って何? 俺の顔を読んでミルフィーネが話し始める。

「花や木から蜜を集めて生活している種族です。それにルシエル様にもハッチ族にも有益なことになると言われていましたわ」

……精霊様…か。どこまで未来が見えているのか気になるが、ハッチ族→蜂だとしたら計画が一気に進む。これを逃す手はないだろう。

「……もうじき日が暮れる。またここに来られるなら帰るし、無理なら隊を割ってケフィン達と合流してもらう。ここにまた来れそうか?」

聞いた相手はもちろんエルフの三人だった。

「……申し訳有りませんが、無理そうです」

代表してミルフィーネがそう告げてきた。

そうすると問題は帰る人員だが、エルフ三人のうち最低一人は戻さないといけない。そして護衛は……仕方ない。

「ケティとヤルボ隊、リシアンとクレシアは帰還してくれ」

俺は魔法袋から魔法の鞄を取り出すとケティに渡す。

「これにテントを含めた野営道具が入っている。ケティが長になって野営を仕切ってくれ」

「むぅ一緒に行きたかったニャ~」

「うちのパーティーで実力が高いライオネルとケティを分散させれば、両方の生き残れる確率が上がるのだから、諦めてくれ」

「分かったニャ」

「皆も野営の準備を進めて明日の昼までに俺達が戻らなければ、一度街に帰還して計画を進めておいてくれ」

『はい』

こうして俺とライオネル、ミルフィーネを残しケティ達は森の外に向けて出発した。

「さてと、本当は何でハッチ族の村に行かないといけなかったんだ?」

「左様。何を精霊から言われたのだ?」

ライオネルはミルフィーネに剣を構える。現在奴隷契約をしているとはいえ、俺と教会関係に危害や不利益になることはしないことだけしか命令していないのだ。

だから嘘をつくことは可能なのだ。

今回の嘘はクレシアの顔を見て気がついたから良かったが、ライオネルやケティが居ない時のことも考えたほうが良いと考えさせられた。

「ライオネル…剣は構えなくて良い。ミルフィーネ教えてくれ」

沈痛な面持ちのままミルフィーネは固まっていたが、少し時間をおいて話を始めた。

「……バレていたのですね。実はハッチ族の集落周辺が最近になって瘴気が濃くなり、このままでは数日で壊滅すると精霊様に言われて、ルシエル様ならお救い出来ると申されたのです」

「だから嘘か…………はぁ~…あとでおしおきだな。…ってライオネルは何でそんなに目を輝かせているんだ?」

「瘴気となれば強い敵が現れそうですからな」

「フラグを立てるな。浄化して交流したら、さっさと帰るぞ。ミルフィーネは道案内だ」

先程とは違い、強い魔物と戦闘があるかも知れないと察知したライオネルは勝手に張り切りだした。

瘴気なら浄化すれば魔物も出ないだろうと思いながら、俺はミルフィーネの提案に乗ることにした。

「……ルシエル様ありがとうございます」

深々とお辞儀をしたミルフィーネは颯爽と先頭を歩き始めた。

俺とライオネルは周りを警戒しながら、ミルフィーネの誘導に従って森を進むのだった。