軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

165 ブロド対ライオネル

一番に目を覚ますと、俺は昨日と同様、皆の朝食を作り始めた。

昨日三十階層を攻略した俺達は、師匠とライオネルを除く五人と、模擬戦と称した体術訓練をすることになった。

実際には外からリディアが精霊魔法を放ってくるのを避けて、残り四人と掴んでもいいけど、三秒以上は掴まれてはいけないという、変則的な合気道の理合いみたいなことをする鬼ごっこだった。

理合いは相手に抵抗しないで、引っ張られた方向に自ら動き、相手のバランスを崩すものだが、それをしながら四人の鬼に捕まらないよう、避けて時には投げ飛ばし、相手の動きと外からの魔力に反応しないといけないとても集中力を使うものだった。

ただ精霊魔法や体術は投げられたとしても、痛みはないので、久しぶりに童心に戻った感じがして面白かった。

まぁその後は一昨日に行った、師匠達と模擬戦だったから、師匠とライオネル以外は屍のようになっていたので、ハイヒールで癒すことになったのだが……。

朝食を終えた俺達は四十階層へと足を進めていくが、俺では解除できない罠があったりして、師匠やケフィンに任せる形になってしまった。

一応警戒はしていたが、四十階層のボス部屋へ辿り着くまで、やはり魔物は一体も現れなかった。

四十層のボス部屋を開いたのは師匠だった。

「別に誰が開けても同じだろう。暫らくの間はここで魔物を倒してレベルを上げて、しっかり訓練していくんだからな」

それだけ言うとさっさと中に入っていった。

五十階層から出ることが出来ないかもしれないということで、ここで戦ってレベルを上げるってことは、二人の戦闘がようやく見られるんだろうか?

そう思うと少しだけテンションが上がってくるのだった。

四十階層のボスは獅子と山羊と大蛇に羽がある魔物だった。

キマイラは伝承ではブレスを吐き、接近して引っ掻き、噛み付いてくるものだと思っていたが、どうやら空中を飛行するらしい。

どうせならグリフォンかワイバーンの方が戦いやすそうなのだが……。

俺はとりあえず全員にエリアバリアを発動して、師匠から声を待っ……としたら、もう突っ込んでいく。

さすがに今回は全員で近寄るのがベストだと思い、視野を広げながら、いつでも魔法で回復する時を待つ。

念のため俺が毒になっても平気なように、余っていた魔法の鞄を今はリディアが肩に掛けている。

俺には効かないと思うが、蛇は毒を持っているし、山羊からは電撃、獅子は炎のブレスを吐いてくる。

しかし目算で三十メートル四方と狭い空間は、こちらよりもあちらの方が不利なきがする。

一度攻撃を止められると一斉に攻撃を受けなくてはならなくなるからだ。

まぁ師匠がどう戦うのかが分からないから、動けないのだが……。

考えごとをしている側から、師匠が懐からまた閃光弾をキマイラに投げつけて、一気に切リ込むんで山羊の首を一閃して落とした。

「リカバー」

俺は直ぐに師匠へと魔法を発動した。

尻尾である毒蛇には閃光の瞬間は効力がなかったらしく、噛まれるのが見えたからだ。

それにしてもあの閃光弾ってどこで手に入れたんだろう……便利だから俺も欲しい。

ぼんやりと戦闘状況を確認していたら、ライオネルが炎の大剣を振って、炎の玉を放つところだった。

炎を吐く相手に炎?

俺の疑問を余所に、ライオネルが放った高速の炎の玉を獅子はそのまま吸い込んで、炎のブレスを吐こうとした瞬間、背後から現れた師匠に首を落とされて爆発した。

獅子の意識をこちらに向けるためだけに、火の玉を放ったライオネルと、それを活かして獅子の首まで落とした師匠。

完全な連携は、長年のコンビを思わせるものだった。

獅子の頭を落とした時の爆発は小さなものだったが、念のためにハイヒールを発動したところで、師匠の動きが止まり、尻尾の蛇の状態だけになっているところで攻撃を止めて、こちらへと戻ってきた。

「少しやり過ぎたが、飛行する毒蛇を倒してみせろ」

「はい。皆行くぞ」

悔しさが込み上げてきたが、それでも今の実力だとヘタをしたら、誰かが即死してしまうぐらい強い魔物だと思い俺達は毒蛇を倒すのだった。

「レベルが上がって身体能力が上がったとしても、それをきちんと活かさなければ意味がない。あと何度か戦いながら、魔物の弱点を探るんだ」

「「「「「「はい」」」」」」」

俺達は師匠とライオネルの背中に喰らいつけるように、気持ちを奮い立たせるのだった。

何度か戦闘を繰り返した後に休憩となり、俺は師匠に疑問をぶつけてみることにした。

「師匠、この迷宮は俺が潜ってきた迷宮よりも遥かに魔物のランクが高いんですが、何か知っていることはありますか?」

「……それは俺とライオネルのせいだ」

「どういうことですか?」

「この迷宮に出てくる魔物はレベルに応じて変化するらしい。だから俺とライオネルが扉を開けると強い魔物が出てくるし、ルシエルが開いた時はランクの低い魔物が出てきただろ?」

「……ランダムっていうのは?」

「それは本当だぞ。自分が倒しやすい魔物が出るし、その逆も然りだ」

アンデッド系……デュラハンは別としても、そういうことなのか。

「魔物と戦ってレベルを上げて、ステータスを底上げして、修行でそれを十全に使えるようにすることが目的ですか?」

「頭が固いぞ、ルシエル。ステータスが上がれば、俺がどう動いているかも、分かるようになってくるはずだ。出来るだけ魔力と気配を感じ続けろ。きっと俺よりも強くなれるから」

師匠はそう言って笑うが、それは純粋に弟子の成長を見守る目に見えた。

四十階層で朝起きて寝るまでの殆どを過ごし、レベルが上がり、師匠の動きが見えるようになり、女性陣の料理の腕前が徐々に上がり始めて、早くもひと月が経とういう時、ついに師匠とライオネルが戦うことになった。

しかも急所への攻撃など全てがありの戦闘だ。お互いの武器を破壊するわけにはいかないので、俺がストックしていた武器を出すことになった。

武器が壊れたらそれで模擬戦を終了させることで、了承を取った。

「優勢でも武器が壊れたら、引き分けです。それに今日だけではなく、何度も見ないと覚えられないんで、二人とも負けないでください」

「弟子なら師匠を応援しろよ」

「従者を応援するのが主の務めです」

「エリアバリア。よし、それじゃあ本気の旋風と戦鬼の戦いを見せてくれ。 始め!!」

合図から仕掛けたのは師匠だった。

視認するのがやっとの速度で、大盾を構えるライオネルに、旋風の通り名が偽りなしの高速連撃を、上中下段に打ち分けながら、たまに蹴りを入れている。

あの攻撃を見て分かるのは、師匠の体幹がしっかりしていて柔軟で可動域が広いこと、そして特筆すべきはあの足捌きだ。

蹴りを入れる時以外は、足裏が地面から離れることがなく、指と踵だけで全ての体重移動をしている……化け物だな。

ライオネルは防戦一方だけど、あの全ての流れるような攻撃を剣圧で起きたカマイタチだけで止めている。

しかも蹴りを師匠が出すタイミングで、何度かシールドバッシュを仕掛けて、体勢が少しでも崩れたら、右に持った直剣で一気に腕と足を切り裂こうとしているのが分かる。

並みの相手だったら、あのプレッシャーに耐えられず、攻撃が雑になるだろう。

俺がそう考えている時だった。

ライオネルが隙を作ってしまったのか、大盾を持つ手が右に入り過ぎたところを師匠の斬撃が襲う。

しかしそれが罠だったのか、ライオネルは盾を蹴り上げて、剣を弾き、体勢を崩しながら師匠へと斬りかかり、片手で振り切ったとは思えない剣圧が、風の刃となって師匠の足を切り裂いた。

師匠の左足は一気に真っ赤に染まり、師匠は片足で後ろへと跳躍した。

「やるな……戦鬼」

「ふん。これじゃ割に合わんさ」

良く見ればライオネルが防いだと思っていた師匠の剣は、盾に当たる前にライオネルに届いていたらしく、左腕が血で赤く染まっていた。

ライオネルは左腕に殆ど力が入らないようで、大盾を構えているが震えているのが分かる。

師匠は殆ど左足をつけない状態だった。

「ルシエル、さっき戦鬼が放った斬撃だが、一応あれはオマエでも使えるようになるぞ。見て感じて覚えろ!」

師匠が俺にそう叫んだ瞬間、左足を地に突けて剣を高速で振り切る瞬間、魔力の波動を感じた。

斬撃が俺にも本当に飛ばせるのか? それが本当なら嬉しいが、それを考えている暇もない。

次の瞬間ライオネルに向かって斬撃が幾重にもなってライオネルに向かっていく。

「舐めるな 旋風!!」

ライオネルも同じように剣を振るうが、その斬撃が師匠の比ではなかった。

柔と剛、軽と重、師匠とライオネル二人の斬撃はライオネルが上回った。

しかし、師匠が剣で受けると幻だったかのように消えてしまった。

そして二人に貸していた剣は、ここでその役目を果たし終えて砕け散った。

「この勝負ドロー」

俺そう告げると、直ぐに念の為、エクストラヒールをかけて回復させる。

「くっくっく」「はっはっは」

師匠とライオネルはお互いの顔を見合いどちらからともなく、大笑いを始めるのだった。

「ヤバイな。全く攻撃が通らなかったぞ。腕を落としたと思っても、切り落とせていなかった」

「こちらも足を切り落としたはずなのに、切れていなかった」

攻撃が通らないことが、何故こんなにおかしいのか、全く意味が分からないが、二人とも清々しい顔をしていた。

「ルシエルがいれば、今からでも魔族領にいけるんじゃないか?」

「ルシエル様の聖属性魔法は、既に人類の宝になっているからな」

「しかしな」「でもさすがに」

「「ルシエル(様)が魔族領に入れば、生き残ることは出来ない」」

そんな残念がらなくても、元々行く予定もないし、行く気もない。

仮に教皇様から行けと勅命を受けても、絶対に断るつもりだ。

「声を揃えて言わなくても、魔族領へ行くことはないです。もしあるとすれば、安全が確保されていて、魔族領から魔族が出られないように、封印をする時ぐらいですよ」

そうなれば穏やかに……暮らせるよな?

俺の不安を余所に二人は今回の模擬戦の話を続けるのだった。

「しかし全力を出すっていうのは、本当に気持ちがいいな」

「それは私も一緒だ。やはりルシエル様について来て良かった」

この戦闘狂共の頭を冷やすために、誰かに何かを言って欲しかったのだが、皆の方へ目を向けて見れば、人類最高峰の達人同士の模擬戦に感動しているようで、期待は出来なかった。

この日から人類最高峰の戦いを見て感じて勉強し、高レベルの魔物を狩ることでレベルを上げ、師匠達に指導の下で、修練をさらに十日間続けて、迷宮を踏破することになった。