軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

164 ランダムボス

ヒュドラを倒したはいいのだが、そこからが問題だった。

入ってきた魔法陣は起動せず、姉妹がヒュドラからなんとか逃げたという魔法陣に飛び込むと、そこは一階層の入り口だったのだ。

「ずっとここにいたら、罠の察知と解除のスキルが伸びそうですね」

それに反応したのは師匠だった。

「そういえば昔罠の解除を勉強させていたよな? ちょうどいい機会だから教えてやる」

そう言って肩を叩かれた瞬間、墓穴を掘ったことを悟った。

今回は仕方なく十階層のボス部屋まで行くことが目標となったが、この迷宮は今までと違い、道が分かっていたとしても再び十階層に辿り着くまでに、早くても数時間は掛かる。それ程までに罠が多い。

まぁ落とし穴や転送されてしまう以外は、毒、麻痺させるような矢や針が飛んでくる程度らしいので、全部この身で受けて進むのも問題はなさそうだ。

そんなことを思いながら、これ以上の軽はずみな言動は控えることにした。

口は災いの元とも言うし、言ったが最後、もっと酷いことが起こりそうな予感がしたので、迷宮にある魔力の歪みを探すことに集中して、進むのだった。

ようやく十階層のボス部屋へ辿り着く頃には、お腹が空いてしまい、師匠からはブーイングされたが、女性陣が労ってくれたので、苛立つ事はなかった。

それを見ていた師匠が、ボス部屋の扉を開けてしまったので、仕方なく続いて入ると、待っていたのはロボットみたいなゴーレムだった。

「師匠、あれ雷を帯びていますよ?」

まぁ雷と言うよりは電気なのだが、不純物が混ざったら水ならショートする筈だが……リディアの精霊魔法で生み出される水は純水だろうか? 俺がそこまで考えて時だった。

「面倒だから斬ってくる」

師匠はそう言ってゴーレムに走りだした。

近寄る師匠に向かってゴーレムから電撃が放たれたが、余裕を持って躱すと剣を連続でゴーレムに突いているのは分かったが、着地した瞬間、ゴーレムがバラバラになって魔石へと変わった。

「一体何をしたんだ?」

それに答えてくれたのは、やはりライオネルだった。

「ゴーレムやスライムは核を持っていて、それが割れるとその姿を維持出来ずに壊れます。旋風は高速で色んな場所を突くことにより、核を破壊したのでしょう」

言っている意味は分かるけど、出来るかと言ったらノーだ。

本当にこの人は別次元の強さなんだな。

「ルシエル、今日はここで宿泊する。食事が終わったら、模擬戦だ」

「……はい」

この別次元の師匠と戦うことが幸か不幸か俺には判断が出来なかった。

まぁ待っているのは、絶望的な戦力差だからこそ、開き直ることも出来るだろう。

そう思ってボス部屋を浄化して、自炊道具を出すとエスティアと姉妹はきちんと料理が出来るようだった。

それを遠目からケティがみていたので、一緒にやるように伝え、皆にはケティに料理を優しく教えてもらうように頼んだ。

ケフィンから頭を深々と下げられて、笑ってしまった。

しかし俺が笑っていられたのは、そこまでだった。

「ルシエル、どう攻撃してきてもいい。俺は攻撃を待ってから反撃する。言っておくが、バリアを張っていないと一気に意識が飛ぶから、攻撃する前にちゃんとかけておけ」

以前のように奇襲がないことで、優しくなったと思っていた。

この時までは……。

身体強化をさせた状態で攻撃を仕掛けたところで、必ず返し技が待っている。

ストレートパンチを繰り出したところで、毎回クロスカウンターが待っているのだ。

しかも模擬戦と言っていたから戦闘かと思えば、俺の戦闘スタイルで扱う武器の扱い方を昔よりも細かく教えてくれるのだ。

剣術、槍術、二槍剣術、徒手空拳を用いた体術の、良い点、悪い点を説明しながら、何度も打ち合ってはカウンターを入れられる。

「ルシエル、オマエが今までの修行で得たのは、気と魔力の動きで、相手の予測を立てられるということだ。これを半月で覚えるには、しっかりとした下地がないと無理だ。さらに資質が重要だ。危険を過敏に察知することが出来て、不退転の覚悟を持って、決して諦めず、心が折れない者じゃないと無理だ。さぁ立って後の後の先で俺を倒してみせろ」

師匠はそう言って闘気を燃やす。

「いきますよ」

俺は身体強化をしながら攻撃を放たれる瞬簡にハイヒールを発動したが、次の瞬感、地面に転がされていた。

「ルシエル、時には捨て身の攻撃が有効な時もあるが、いつもそれが正しいとは限らない。相手を良く見るんだ。どう動くか、察知スキルを常に意識することで、 想像(イメージ) を経験として蓄積していける、その可能性がオマエにはあるんだ」

まるで世界最強を目指す漫画みたいなことを言っているが、才能が限界突破することなんてありえるのだろうか?

「ミドルヒール。……師匠が言っているのって、未来予知と未来予測の話ですか?」

「それが出来るのは、一握りの天賦の才に恵まれた者達だけだ。ただ俺やオマエの様な凡人でも、その才能を持って相手を凌駕することは出来る。強く具体的な戦闘を想像することで、戦闘経験を蓄積しくことにより越えることさえ出来る。まぁ継続しないと、直ぐに天賦の才を持ったものに追いつかれてしまうけどな」

師匠は頭を軽く掻き毟ってそう言った。

しかし悲しいことに師匠と俺を同じ括りにされても、全く説得力がなかった。

それよりも師匠が凡人であるというところから疑問を持ってしまう。

「師匠、何故師匠が自分自身のことを凡人だと思っているか、分かりません」

「……俺は小さい頃に帝国の騎士になりたかったんだが、十五歳の時に落とされた。それで仕方なく冒険者になったが、二十歳までEランク止まりだったんだ。そして当時のS級だった冒険者パーティーと接する機会があって、パーティーの爺さんと知り合ったことが縁で修行を開始した。俺は血反吐を吐きながら五年間、鋼の精神で爺さんの修行に耐えていたら、いつの間にかS級ランクが見える位置にいた。ルシエル、だから天賦の才はないが、努力と継続する才能があるオマエが俺の弟子で後継者なんだ」

正直その話を聞いて信じられなかったが、師匠が嘘を言っているようにも見えなかった。

その時、ふと前世を思い出した。

同期入社で同じ営業職だった出世頭が、三年目を境に一気に失速して降格していき、会社を止めていったことを。

そしていつも昇進出来ないギリギリラインの成績しか残せていなかった自分のことを。

人当たりは同じぐらいだったが、知識や話術が巧みだった同期の彼は一年目から、どんどん昇進していった。

それに比べて俺は三年目まで、新人並みの契約しか取れずに苦戦し続けていた。

童話うさぎとカメのように、兎の半歩も進めてはいなかったけど、テレアポと訪問件数を増やし、商談相手の特徴を頭に入れ、少しずつ新規の顧客を作り、紹介をもらえるようになった三年後には逆転していた。

あの時諦めなかったのは……ああ、そうか。

俺も単純だったんだな。

顔を横に向けたときに、当時何故あんなにも努力していたのかを思い出すことが出来た。

前世と法則や環境は変わっていても、この世界だって似たようなところはあるし、それ以上に努力を継続する人には、とても優しい世界だったことを、俺はいつのまにか忘れていたらしい。

聖属性魔法の才能が俺にあったからスキルレベルがⅩになったのか?

そう聞かれれば、俺は違うと答えるだろう。

それと同じように師匠の場合はたくさん鍛えて、たくさん魔物を倒した結果が今なのだろう。

「とりあえずやれることは全部やりますが、あくまでも俺は治癒士ですから、手加減をお願いしますよ」

「まず武器を十全に扱えるように指導する。次に戦闘の流れを捉えられるように、全ての察知スキルを意識させる。最後に全体を把握して指揮を執れるようにしていく。あくまで治癒士だからな。まぁ強くなって困ることはあるまい」

「……まぁその通りですね」

「……いきなり素直になったな」

「師匠の弟子を名乗っているので、うじうじ反論するよりも、まともに一撃入れてスカっとする方が気持ち良さそうなんで」

「その前にブラックアウトさせてやるわ」

こうして俺と師匠の特訓は食事が出来るまで続いていくのだった。

食事を取った後は、ライオネルに向かって打つ込みをして、皆は師匠に鍛えられたところで、俺が回復をして本日の修行は終わった。

翌朝、最初に起きた俺が皆の食事を作り終えたぐらいに、皆が起き始めた。

そして女性陣からレシピについて問われ、久しく見ていなかったレシピ集を渡すと、賑やかな食事となるのだった。

食事を終えると、謀略の迷宮の攻略を進めることになった。

師匠とケフィンに罠解除の指導を受けながらなので、とても進行速度は遅いのだが、魔物が出ないので、慌てずに罠を解除しながら進む。

「それにしても迷宮の地図は高かったんじゃないですか?」

「金貨十枚だ。この迷宮は罠も復活するし、宝箱も復活するからな。そこまで損することはないだろう。まぁ宝が見つけたらという希望も含めてだけどな」

攻略はそんな感じで和気藹々と進んでいき、二十階層のボスは部屋を開けたのはライオネルで、敵は巨人サイクロプスだった。

「……師匠もライオネルも運が悪過ぎないか?」

しかし師匠もライオネルも戦闘狂なので、サイクロプスが出来てきたのにも関わらず、嬉しがっているだけだった。

「じゃあ、今回は私が行かせてもらいます」

そう言って魔法袋入っていた大盾を渡してエリアバリアを催促すると、その後は歩いてサイクロプスへと向かって歩いていく。

「さすがに不味いでしょ……」

皆に指示を出そうとしたら、師匠に肩を掴まれた。

「あのぐらいの魔物に戦鬼が負けるか。参考にならないと思うが、しっかりと見ていろ」

その言葉を信じながらも、いつでも回復魔法を発動する準備をして待機する。

俺の横ではケティも不安そうになりながらも、ライオネルの背中を見送っていた。

サイクロプスは一目の人型ではあるが、正に巨人で十メートル以上にも見える身長とそれを支えるボディーの威圧感はあの赤竜に近いものがあった。

しかしライオネルは歩みを止めず間合いに入り、サイクロプスがライオネルに向け腕を振り下ろした。

ライオネルはそれをあろう事か、そのまま大盾で受け止めにいき床がその衝撃で沈むが、見事に受け切り、炎の大剣で大木のような右手首を一気に切り落としたのだった。

見ていた俺達は意味が分からなかったが、痛みに絶叫しながら、残った片方の腕を横から叩こうとしたところを、またもや大盾で受けきり、地面が少し陥没したことなど気にせずに、左手首を切り落としたのだった。

サイクロプスは諦めず、今度は踏みつけようとして、それをあっさりと避けられ、右の足首を切られて、起き上がることが出来なくなってしまった。

そしてライオネルはこちらを向いて、声を掛けてきた。

「もしかすると巨人殺しになれるかも知れませんので、一撃入れてください」

サイクロプスには悪いが、一撃だけ入れさせてもらった。

完全なパワーレベリングであり、寄生しているようだったが、ゲームではないのでありがたく頂戴したのだ。

その後ライオネルが転がったサイクロプスの首を切り飛ばして戦闘が終了した。

そこで一旦休憩を挟んで、軽食にしながら先を目指して出発したが、やはり魔物は姿を現さず、黙々と進み、三十階層のボス部屋に辿り着いたのは、罠解除と罠察知スキルレベル二ずつ上がったときだった。

開けたのは俺だった。

出てきたのは首がない騎士と黒馬だった。

そうデュラハンなのだろう。

俺は戦う前に聖域円環を発動してみた。アンデッドならそれで朽ちる筈だと思ったからだ。

しかしどうやらアンデッドではなく、妖精説の方で、さすがに皆で攻撃をすることにした。

師匠とライオネルは腕組みをしているし、二人の出番はないということだと察した俺は、皆に指示を出していく。

師匠達みたいに一人で戦える程、俺は強くないのだ。

「ケティ、ケフィンは横から攻撃を仕掛けてくれ、リディアは精霊魔法、エスティアとナディアは俺と騎士を警戒しながら、馬を潰すぞ」

俺はエリアバリアを全員に発動してから、デュラハンに詰め寄っていくところで、まさかの出来事が起こる。

先に攻撃を仕掛けたケティとケフィンが交差すると、デュラハンがそのまま落馬してしまったのだ。

念のためリディアが精霊魔法を放ち、エスティアとナディアが馬に剣を刺すと、デュラハンは消滅して二つの魔石を落とした。

「 聖域円環(サンクチュアリサークル) で弱ったのか? それとも妖精に働きかけ要因が何かあったのか?」

俺は呟きながら後ろを振り返り、師匠とライオネルに助言を求めようとしたが、最初のキングレイスを倒した時のような顔をされてしまうのだった。

俺はきっとこの修行の期間、ボス部屋の扉を開かせてもらえないと悟るのだった。