軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

144 魔族の謎

魔族のいた場所や、村人が操られていた場所など御捜索したが、何故この村に魔族がいたのか、その痕跡は残っていなかった。

「……もしかして、俺が聖域円環を発動したから、闇の波動や呪いの類が消えてしまったなんてことはないよな?」

俺は不安を打ち消すように三人へ語りかけると、其処には満面の笑みをしたライオネル達の姿があった。

「どうですかな……あれだけの濃い瘴気を纏っていた魔族が、発動後は一切瘴気を纏っていないように見えましたから、浄化して吹き飛ばしていても不思議ではありません」

ライオネルは嬉しそうに手を拡げて顔を横に振る。

俺は問いかける相手を誤ったことを知る。

「何か儀式をやる前に潰したんだから、きっと平気ニャ。真相が解明されなくてもルシエル様のせいじゃないニャ」

そもそも何らかの痕跡があったかどうかを調べることが出来なくなったが全て俺の責任になっていた。

「そうです。あれだけ敵が強いと感じたのは赤竜の時以来でした。魔族が戦闘中遊ばず、ルシエル様とライオネル殿が駆けつけてくださらなかったら、今頃ケティと共に死んでいましたよ」

俺の顔色を読んでか、ケフィンだけが俺の味方……今の発言だと魔族がライオネルよりも強いと言っているように聞こえた。

「ケフィン、ここはもう少しだけルシエル様をいじるところニャ」

ケティが笑いながら、ケフィンの話を流そうとしているように見えた。

今回の戦闘で負った傷が魔族に遊ばれて出来たのなら、本当にケティとケフィン死んでいたかも知れない事実が俺の心を揺さぶる。

「そうだとは思うけど、村人が起き出したみたいだから」

ケフィンの言葉を聞いて、村人達の方へ目を向けると確かに村人達が寝返りを打つ姿が映り込んだ。

「……この状況が彼等にどう映るか分からない。ただ、剣は鞘へ入れておいてくれ」

俺はそう告げるとエリアバリアを張り直す。

これで万が一の確率で奇襲を受けたとしても一撃で殺されなければ、死ぬことはないだろう。

そう思いながら、声をかける。

「村人の皆さん、大丈夫ですか?」

何度か声を掛けているうちに、村人達は順に起きてくる。

「私は治癒士ギルド所属のS級治癒士、ルシエルです。意識はハッキリしていますか?」

俺は声をかけ続けると、徐々に効果が現れ始め、村人達の意識が徐々に覚醒してきた。

そして俺の姿を見た途端、顔が青褪めていく。

「ルシエル様!? いつお越しになられたのですか?」

「ルシエル様だぞ」

「従者の方々もいらっしゃるぞ」

一人が覚醒すると、次々と意識が覚醒していき、何故か彼等は俺の前で土下座をすることになった。

どうやら俺の顔を覚えている村人達がいたようだ。

「土下座はしなくていい。私がこの村を訪れてから一時間も経っていない。村の入り口で異変に気がつきここに駆けつけたら、御主達が魔族に操られていたのを見て、魔族を倒し、急いで回復魔法で治療をしたのだ。それにしても何があった?」

俺がそう聞くと一人の男がこちらに歩み寄ってきて、俺の前で改めて土下座を始めた。

彼はこの村の村長だったと記憶していた。

「実は子供達が私の家に人質として捕らえられています。私達は魔族を名乗る男に脅されて……」

「脅されて?」

「……儀式をやると言われてからの記憶が……」

村長は困った顔をしていて、それが演技には見えなかった。

嘘に敏感のフォレノワールも反応を示さなかった。

「どなたか分かる方はいますか? 一斉に催眠状態になることはないと思うのですが?」

しかし誰も手を挙げるものはいなかった。

ケティとケフィンをもて遊ぶ位の魔族だったら、村人達を一斉に操ることも出来たのかも知れないな……。

「分かりました。村長は家を見てきてください。ケティ、ケフィンは村長を連れて家の中から子供達の様子をみてきてくれ。魔物になっていたら成仏させてやってくれ」

「「はっ」」

ケティ達が村長の家へ向かうのを確認して、村人達にはいつから記憶が無くなったのかを確認することにした。

幸い村人達が生きていたから、状況を聞くことが出来るのだから、メラトニへの遠征を決めて良かったと思いながら、質問を開始した。

「皆さんには疲れているところ申し訳ないですが、いつから操られていたのか、その前後の記憶を教えていただけますか? 魔族が子供を捕まえるまでの過程で皆さんが覚えているところまで教えてください」

魔族が何故この村に潜伏していたのかは、わからないが、誰かが手引きして連れ込んだのは間違いないと考えていた。

しかし、それを証言するものは現れなかった。

それどころか、先程魔族に脅されたと証言した村長の話を知らないと口を揃えるのだった。

「まるで……?!」

俺はこの現象を最近目にしていた。

そう。ドワーフ王国で、闇の精霊の力が使われた後だ。

だけどあの時は皆が……耐性のない俺以外は闇の波動で記憶が改竄されていた。

「ライオネル、村長の家だ。皆さんは待機していてください」

俺は後を追うことなく、その場で幻想杖に魔力を注ぐ、一気に聖域結界を発動させた。

次の瞬間にドォーーンと爆発音が聞こえ、何かが飛び出てきて、そのまま空へと飛び立とうとしたが、ライオネルの炎の大剣だと思われるものが振られると、今まで見たことなかった、炎の渦が何かを捕らえて撃ち落とした。

「ライオネルって、あんなことまで出来たのかよ」

俺はそう呟きながら、集合していた村人達に向けても聖域円環を発動していた。

「まだ居たのとは……」

苦しみ出した村民に向かって、俺は躊躇なく魔力を注いだ聖龍の槍を投擲した。

苦しみのあまり、最初の魔族の様な姿に変身した瞬間、魔族の胸に聖竜の槍が深々と刺さり、絶叫をあげて倒れた。

村民達は俺の行動がいきなりのことでひどく混乱し、叫び出したりする者もいたが、俺は幻想剣に変えて魔族と化した村民の四肢を切り落とすと、あまりの残虐性に声を上げるものは逆にいなくなった。

自分でも驚くほどに身体が動き、操られている気分になったが、紛れもなく俺の危機感が目覚めた気がしていた。

「さて魔族よ、何故聖シュルール協和国の村に、それも中心部に近い村に入ってきたのだ?」

「ガハァ」

血を吐こうがあまり気にすることはなく、四肢にヒールをかけたら傷が少しだけ回復した。

魔族には回復魔法は効くし、浄化魔法や状態回復魔法も普通の効力があることがあることが分かり、アンデッド属性とは違うことが分かる。

「俺は聖騎士じゃないが、こんなに簡単に村を潰そうとしている魔族がいるなら、倒すことも使命だと思っている」

「ハァ……ハァ、なら殺せばいいだろ」

「生きたいとは思わないのか?」

「くっくっく……この怪我で……どうせ……死ぬ」

「魔力を暴発させる前に、胸の魔石を取り出すから、自爆はお勧め出来ない。それと死ななくは出来るぞ」

俺は手足の切った部分にヒールをかけると出血は止まった。

「別に魔族に怨みはない。共存はしなくても、生きる為の干渉をするつもりはなかった。そもそも勇者がいないこの時代に……魔王がいないこの時代に、戦争をして何になる?」

「ならば何故同胞を殺した」

「逆に聞きたいのだが、俺が魔族領に行き、村ごと洗脳していたらどうする?」

「…………」

「それが答えだ……それよりもお前は純粋な魔族か?」

「…………」

「もしかすると元々は帝国の実験施設にいたんじゃないのか?」

「?!」

焦った顔から血の気が一気に引いていく。

「悪いようにはしないから……?! ミドルヒール、ハイヒール」

詠唱破棄で回復魔法を唱えたが、魔族が回復することはなかった。

「……何で死んだんだ? 本当に命を失うなんて、誓約より質が悪い……もはや呪いの類だぞ」

ディスペルを唱えた俺が解除できない呪いがあるのか……エスティアではなく、闇の精霊の話を聞かなければならなくなってきたことを感じた。

ヒソヒソと話す小さな声が重なり、小さなざわめきに感じる。

其処へ真っ黒焦げになった死体を持ってきたライオネルと、怪我を負ったケティ、ケフィンが戻ってきた。

「……こちらにもまだいたのですか?」

「ああ。ライオネル達がいなかったから、聖域円環で苦しんだところを一気に奇襲して倒した。そっちは何か分かったか?」

俺はエリアハイヒールを唱えて三人を回復させた後に、また状態回復魔法を唱えながら、話を聞く。

「……いえ、その代わり子供達は無事でした。何処かへ移送しようとしていたみたいですが……」

「分かった。また後で話を聞く」

「はっ」

俺は村民の方に振り返って、一人一人の顔を確認しながら、口を開く。

「皆さん、魔族は倒しましたので、自宅に戻られて結構です。私は本日村長の家に居りますので、何かあれば声を掛けてください」

全てを忘れるとしたら、聴取しても意味が無いし……逆に不信感に繋がる。

村長の家にいるのが良いことは思えないが、村人の中には俺が治療した者もいるはずだから、話をすることぐらいは出来るだろう。

俺はそう考えて、子供の親元に返していくことを優先させるのであった。

村長の家に明かりを灯し、子供がいなくなったことを確認すると、一息入れることにした。

「……それでこの惨状は何だ?」

戦闘があったのは分かるが、本当に酷い有様だった。

「誘導の為に連れて来た背後から襲われたニャ」

「さすがに危なかったというより、私達も攻撃を受けましたから……外が青白く光ってから、魔族が苦しみ出さなかったら、死んでいたかも知れません」

「二人があの老人に擬態していた魔族に何とか攻撃を与えたところを背後から斬りつけました」

「ライオネル様が攻撃してくれて何とか助かったニャ。ただその後に家が燃え出して焦ったニャ」

「二人で火消ししていたら、屋根が吹き飛んだときは驚きました」

「そうだ!! ライオネル。あの大剣から出た炎の攻撃は何だ?」

「教会の騎士団に武器マニアがいまして、使い方を教えてもらったのです」

「……よく教えてくれたな」

「ルシエル様の従者だからとだと言われました。教会の威信を取り戻す従者だからだと、誇らしく笑っておられた」

「……俺はただの臆病者だけどな。さてと、夕食にしよう」

「「「はっ」」」

家に入る前にフォレノワールを含めた達を隠者の厩舎にしまい、馬車の中に入っていた男達を覚醒させた後、魔族ではないことが確認出来たので解放することにした。

意識を失ったエスティアはベッドに寝かした後で、全ての子供を親元に引き渡し、それが終わったのはついさっきのことだ。

俺はテーブルに浄化魔法をかけて、夕食を並べていく。

「夕食が終わったら、村長の家を片付けながら、探るぞ」

「「「はっ」」」

そして夕食を囲むのだった。

「ケティとケフィンは最初の戦闘をしているときに、現場で何か気がついたことはあるか?」

「怪しげな杖を持っていたのと、壷があったニャ」

杖に壷か……何かの儀式か?

「……そんなものが?」

「ルシエル様が放った魔法が包むと杖も壷も魔法陣も消えていきました」

「魔法陣?」

そんなものはなかったと思うが、本当に全てを聖域円環がかき消したのか?

「先程は見つからなかったので、明日の朝に調べてみますか?」

ライオネルの声で意識が戻り、話を続ける。

「ああ。他に気になった点はあるか?」

「そういえば、村長だと思っていた男を誰も怪しんでいませんでした。もしかすると擬態の可能性があります」

「それは俺も気になっていた。フォレノワールが判断出来ないなんて……普通はありえない。盗賊でも気がつく筈なのに反応できていなかった……もしかすると魔族と魔物は違う可能性もあるが、臭いなどの感情まで似せることが出来る可能性もある」

「分かるニャ。私もケフィンも臭いや感覚で気がつかなかったニャ」

精霊かも知れないフォレノワールが気がつかない、獣人であるケティとケフィンが気がつかない。

本当にそんなことがあるのか?

「確かに……それにしても魔族が三体も出るなんて、一つの村を掌握するためだけなら、過剰戦力だと思いますが……」

「まぁ今回もほぼ間違いなく帝国絡みだよ」

ライオネルが驚いた後に、何かを押し殺した視線をこちらにぶつける。

「……何か知って居られるのですか?」

「当時ライオネル達が調べていた魔族との関係を思い出して、俺が倒した魔族に、元々は帝国の実験施設にいたんじゃないのか?と訊ねたら、それだけで死んでいた。あれは呪いだな」

「……よもや本当に魔族を作り出すつもりなのか?」

ライオネルから感じたのは武人としてだけでなく、故郷である帝国が闇に染まることを認めたくない。

そんな感情が溢れ出ていた。

こういう時は少しでも希望や楽しいを思えることを口に出すと、少しは救われる。

誰かにそう教わった気がした。

「分からないな。ただこのままだと結構不味そうだし、身を守るために戦力を本当に考えてみるか」

「私兵団でも作るのですか?」

ケフィンが直ぐに食いついてきた。

「ああ。いつかは帝国にも行くことになるからな」

「……何故です?」

俺の性格を把握しているライオネルなら、当然そう思うだろうけど、帝国領でもないのに魔族が現れたのだ。

どこにいてもあまり状況が変わらない気がする。

だったら、俺がライオネル達にしてやりたいことは一つだけだ。

「ライオネル達が奴隷でいる立場を望んでいる原因は、帝国に行けば解消されるんだろ? 俺は信頼している者達をいつまでも奴隷にしていたくないんだよ」

「……仕方ありませんな。しかしメラトニへ行き、ロックウォードに戻り、ネルダールへ向かい、他の国を目指すのでは、当面結婚出来そうにありませんな」

少しは気が紛れたと思ったら、仇で返された。

「……関係ないところから、いきなり爆弾を投下するな!!」

「ライオネル様は心配しているニャ。聖シュルール協和国も一夫多妻が容認されている筈ニャ。男が待たせるなんて聞いたことがないニャ。早めにルミナ殿にアタックするニャ」

ニャニャうるさいと思っていると、さらにケフィンの援護が入ってくる。

「そうです。チャンスがまたあるとは思わないことです」

その鼻息は荒く、ケフィンは自分に言い聞かせているようにも見えたが、顔が近くて精神的にダメージを受けた俺は話を切り上げて指示を出す。

「……その話しはちゃんと考えているから言うな。それと今夜、もしかすると襲撃があるかも知れないから、索敵及び警護を頼む」

「「「はっ」」」

こうして妙に疲れた夕食を終え、村長宅の片づけを開始するのだった。