軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

142 気持ちの整理

リィナの店で買い物をした二日後、俺はルミナさんの私室へ来ていた。

「それで話というのは?」

紅茶を入れてくれたルミナさんと対面した俺は、現在の気持ちを言葉でちゃんと伝えることにしたのだ。

「はい。単刀直入で言わせていただくと、あの時のお礼のキス……とても嬉しかったです。特にこの六年間、恋愛の「れ」の字もないぐらい駆け抜けてきたので、お礼とはいえルミナさんのような方と出来て本当に嬉しかったです」

「いきなりの訪問でそれを言われると恥ずかしいな」

少し頬が赤らんでいるのを見ると、素直に可愛いと思ってしまうのは仕方がないだろう。

「すみません。でもきちんとお伝えしようと思いまして……俺はルミナさんを尊敬しています。好意を持っています」

「……それは私が好きということでいいのか?」

ジッと目を見つめるルミナさんには、少しの不安と何かが見える気がしたが、誤魔化すことはしない。

「はい……ですが、正直なところこれが恋愛感情なのか、それとも仲間として尊敬し、信頼しているからなのか、判断出来ません」

「……それで?」

「ルミナさんが私をどう思っているかは分かりませんが、私がルミナさんをどう思っているのか、向き合う時間をいただきたいです」

これが正直な気持ちだ。

ただの勘違いの可能性だってあるが、ルミナさんには誠実でありたいと思ったのは俺だからしょうがない。

「ふふっ。 やはりルシエル君は真面目だな。それを一々報告に来るとは思わなかった」

「ずっと教会本部にいるのならそれでも良かったと思いますが、一度メラトニへ赴き、師匠の下で色々と学び直すことにしたので……」

「そうか……だったら、しっかりと鍛えてくるといい。私に勝てたら言うことを聞こう」

妄想が膨らみかけたが、それよりも勝つことを目標にするなら、一秒も無駄に出来ない気がした。

「……今回の遠征は二ヶ月程を予定していますので、帰ってきたらまた伺います」

「うむ」

少し照れた表情で微笑むルミナさんは見惚れるほどに美しかった。

俺はルミナさんの表情を脳内保存して、今度は教皇様の私室へと赴くことにした。

教皇様の私室へ入る許可をもらい、人払いが終わったと同時に教皇様が口を開いた。

「それで今回来たのはルミナとの件じゃろ? 妾はいいと思うが、精霊達がどう思うかだな」

第一声がそれかと落胆しながら、今回の訪問の話を伝える。

「恋愛の話ではなく、明日には一度メラトニへと向かう予定なので、その前に教皇様へ挨拶に来たのですよ」

「何じゃ、真面目か。つまらないのぉ」

「何処からその話題を聞いたのですか?」

「それは秘密じゃ」

「そうですか。昨日ローザさんを含めた私と従者達で買い物に行きましたので、普段からお世話になっている教皇様への贈り物をお持ちしたんですけど……」

「はぁ~分かったのじゃ。昨日ローザがルシエル達と買い物へ行った帰りに寄ってくれたのじゃ」

「まぁそうでしょうね」

教皇様の耳にその手の情報を運んでくるのは、騎士団のトップであるカトリーヌさんしかいないと思っていたけど、実は衛生管理から、騎士団の体調管理はローザさんの仕事だったりする。

そのため教皇様に報告を入れる為に、私室を訪れることもあるらしいという情報を、ケティとケフィンが掴んでいたのだった。

「……ルミナさんのことは一度時間をかけて真剣に考えてみます。付き合う、付き合わないはもちろんですが、命の危険はこれからもついて回るでしょうから……」

「本当に真面目だのぉ……仕方ないから、魔法独立都市ネルダールへ赴く手筈は整えておこう」

「本当ですか? ありがとうございます」

俺のテンションは上がった。

空中都市に行きたかったというのもあるが、攻撃魔法を覚えたいという気持ちが強かったのだ。

これでまた死ににくくなる。

そう考えるだけで、心にゆとりが生まれる。

そんな気がしていた。

「簡単に死んでもらっては困るし、うまくいけばお父様のようになれる存在だと、妾の勘が告げておるからな」

俺の様子を見て、そう言って笑う教皇様もやはり美しく……物体Xを再び飲み始めた影響が、出始めている気がした。

「……精進してきます。メラトニへ着いたら連絡を入れます。聖都への帰還は二ヵ月後を予定していますが、遅れたりする場合はまた報告をさせていただきます」

「うむ。気をつけるのじゃぞ」

「はっ」

俺は簡単な挨拶を済ませて教皇様の私室をあとにするのだった。

次に俺が向かったのはカトリーヌさんがボコボコにされている訓練場だった。

「ライオネルやりすぎじゃないか?」

「あれをやったのはケティです。どうやらカトリーヌ殿とケティの実力は近いものがあるのでしょう。ケティもあの通りですから」

「……ボロボロだな。あれ? ケフィンは何処に行った?」

「治癒士を慌てて呼びに行きましたが」

ケフィンはどれだけケティのことが心配なんだ……。

俺は魔法陣詠唱で魔法陣を二人に描くとエクストラヒールを発動した。

「この距離でしっかりとコントロール出来るとは……相当な努力だったのでしょうな」

「努力、か……当時の俺はただ死にたくない。それだけしか考えていなかったと思う。だから努力というよりは、必要に迫られたからの方が正しいのかもしれないな」

「ルシエル様は努力する才能と継続する才能があるのでしょうね」

ライオネルは微笑みながら俺にそう語るが、熟練度鑑定に支えてられているからこそ耐えられた。

俺は心の中でそう答えるしかなかった。

「明日の出発は朝の訓練が終わった後に、朝食を取ってからだから、それを伝えておいてくれ」

「わかりました」

俺はライオネルにそう告げて、迷宮へと歩き出した。

試練の迷宮に出てくる魔物はゾンビからに戻っていた。

魔物の数も少なくなって、一階層を歩き回っても、遭遇するかしないかといったぐらいまで減少していた。

「浄化魔法を唱えられる治癒士なら誰が祓魔師でも大丈夫そうだな」

俺は迷宮を進むことにした。

十層のボス部屋までに遭遇した魔物は二桁いたが、グループ化している魔物はいなかった。

「ボス部屋も浄化魔法で瞬殺出来るけど……これだったらまた同じことが起きてしまう可能性があるな」

俺がレベル一で踏破したことは知らないだろうが、俺の実力を騎士団の騎士達は知っている。

神官騎士や聖騎士との模擬戦をした場合は、魔法を使えば勝てるが、純粋な技術勝負になると勝ったり負けたりだ。

そんな俺がソロでクリアしたのだから、臭いと瘴気とレイスの精神干渉を防げる魔道具があれば、十階層毎のボスがいなければ、また踏破してしまうかもしれない。

そうなった場合、誰がそれを止めるのか……悩みは尽きそうにはなかった。

俺は迷宮を踏破することはなく、三十階層まで進んでから引き返すことに決めた。

魔物を倒しては魔石を回収して、迷宮を出ると売店に人がいた。

驚くことにグランハルトさんが、カトリーヌさんの代わりをしていたのだった。

グランハルトさんも俺がいるとは知らなかったのか、一瞬嫌な顔をしたように感じた。

「お疲れ様です。グランハルトさんが何故ここの売店を?」

「現在の職務です。最近ルシエル様が迷宮を踏破する直前に姿を消した者達の捜査で、ここしか考えられなかったもので」

「なるほど。三十階層まで行って来ましたが、誰とも会うことはありませんでした。誓約もしますか?」

「……必要ありません。既に貴方のことは調べさせていただきましたが……如何に努力してその地位になったのか、なってから何を成したのかを全て調べさせていただきました」

鼻息を荒くして話すグランハルトさんを軽く引きながら、挨拶をして魔導エレベーターに乗り込んだ。

「色んな意味で怖いけど、あの人があそこのポジションなら、きちんと帰ってくるだろうな」

俺は安心しながら、ライオネル達と夕食を取りながら、今日だけはゆっくりと眠るために、天使の枕を使って眠りに就いた。

翌朝、メラトニへ向けて出発するのだった。