軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

141 帝国の転生者

転生者であることが予想されるリィナと名乗っていた女の子。

俺達はその彼女が経営している魔道具屋へと足を運んで来た……しかし店自体がなくなっていたのだった。

聖都では税金を納める必要がある。しかし税金を納めなくても店自体を取り壊されるなんてことはまずなかったはずだ。

それに俺があれだけ売り上げに貢献したにも関わらず、店が潰れるなんてことはないだろうと思う気持ちもある。

そうなると、ここに居続けることの必要性がなくなったと考えるのが筋のようにも思える。

「俺が通っていた魔道具屋はここにあったんだが……」

俺がそうポツリと漏らすと、ケフィンがすぐさま情報収集へと向かい、数分しない内に所在を確かめ戻って来た。

「ここは手狭だったみたいで、引越しをしたみたいです。場所は同じく聖都にあるらしく、所在地も確認していますので行きましょう」

「ああ、案内を頼む……誰もツッコミそうにないから聞くが、何でそんなににやけているんだ?」

何人かと話をしていたことは、こちらから見ていて分かった。

ただこれだけニヤけているケフィンを見たのは初めてだった。

「獣人でも聖都は忌避されるって教えられて育ちました。それがハーフなら尚更です。私が一緒にいることでルシエル様にご迷惑を掛けてしまう、そう思っていたんです。だけど街の方々はルシエル様の従者と分かる前からしっかりと話を聞いてくれて、困ったことがあったらまたおいでって言ってくれたのです」

ケフィンがそんなことを考えているとは微塵も思っていなかった。

これが鈍感ということか……。

人の痛みは外傷だけではないことを知って尚、それを忘れていた自分に腹が立った。

「すまない。そこまで考えていなかった。ケフィンが差別されないで良かったよ」

「謝らないでください。俺が好意的に受け入れられたのもきっとルシエル様のおかげですから」

「ありがとう」

ケフィンだけでなく、話を聞いていたケティも同じように笑顔になっていた。

ケフィンのポジティブな性格に救われた気がして、俺は感謝を伝えたのだった。

ケフィンが聞いて来た道を進むと、案内されたのはスラム街ではなく、メインストリートの一角だった。

ここなら金持ちも集まりそうだし、中々の立地だと素直にそう思った。

「ここみたいですね」

「……敷地面積がおよそニ倍、以前よりは立派だけど、元々あった建物をそのまま利用しているんだな。まぁいいか」

先行投資した分、店のグレードが上がったと思えば、結構いいことをしたのでは?そんな事を考えたりした。

店には先行してライオネルが入る。すると以前訪れた際にも居た喋るゴーレムが姿を現した。

それを見てライオネルが構えるが、壊していい物ではないので、自重させる。

「壊そうと構えなくていい。そのゴーレムは以前来た時にも店にあった。まぁ以前よりだいぶ綺麗にはなっているけどな」

『イラッシャイマセ マドウグヤコメディアヘ ヨウコソ』

片言のロボット言語は変わっていないものの、辺りを見回せば商品のラインナップが大きく変わり、新商品がたくさん並んでいた。

「いらっしゃいませ。魔道具屋コメディアへようこそ」

声が奥から聞こえ、見てみると接客している店員がいた。

少ないが買い物客もいるようだ。

「以前よりも繁盛しているな。ちなみにここは俺が使っている魔導コンロ等、全ての魔道具を購入した店だ」

「ほう。それなら中には結構掘り出しもあるかもしれませんな」

「造り方次第では、ポーラとリシアンも作れるかも知れませんからニャ」

「購入したいものがあったら、声を掛けてくれ。購入するぞ」

「「「「はっ」」」」

……四つの声が重なった。

俺達は店内を物色しながら、興味のあるものを探していると、接客していた女性がやって来た。

「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」

「はい。ですがその前に、店主の……確かリィナさん? はいらっしゃいますか?」

すると窺うような顔つきへと変わる。

店主を呼ぶことに抵抗があるのか?

「リィナさんですか?」

「はい。少しお話を聞かなくてはいけないので……」

「……少々お待ちください」

俺は微笑みながらそう告げる。

店員は白いローブを纏った俺を見てから、関係者以外立ち入り禁止の扉を開き、中へと入っていった。

「ここに何かあるのですか?」

「ああ。少し調べる必要があるんだ。まぁ危ないことではないけどな」

それから暫らくして接客の女性と、白衣を纏いメガネを掛けたショートカットからセミロングに髪型が変わったリィナがやってきた。

「いらっしゃいませ。私に何か御用ですか? ……ってあれ? 昔商品をたくさん買ってくれた教会の人?」

「ええ。一年振りに聖都へと帰還したんで、新しい魔道具が出来ていればと思いまして伺いました」

俺ではなく、他の誰かを予想していたのか、険しい顔が一変して、柔らかい顔になった。

「不躾なお話ですが、これまでも教会関係者が訪れていましたか?」

俺は笑顔を消して窺うように聞いてみることにした。

「はい。でも教会関係の方達って良い人だけじゃなかったんですよね」

……脅していたのか?

それとも揺すりか?

「そうなんですか? 不快な思いをさせていたなら、謝らせていただきます」

「あ、頭を上げてください……後ろのお付きの人達が凄く怖いので」

ライオネル達から威圧感が出ていた。

俺以上に俺がとって欲しい行動を読み取る彼等は本当に凄いと思う。

少しは打算があったのだけど、教皇様にこのことは報告しておくかな。

「ああ、すみません。逆に気を遣わせる結果になってしまいました」

俺は軽く会釈をしてから本題へと話を進めることにしたら、彼女も気持ちが同じだったらしく、話を振ってくれた。

「それで用件は何でしょうか?」

「一通りの商品の説明、もしくは説明がついた羊皮紙をお願いしたいのと、これのことなんですけど、何か知っていますか?」

俺はそう言って、指輪を取り出しリィナに差し出した。

「あ、それは……お客様は教会でどれぐらいの地位に居られる方ですか?」

既に死んでしまっているとはいえ、一般人にそんなことをしたら、世間が敵になってしまうじゃないか。

脅しなどから身を守る手段なら、リスク管理はしっかり把握しておきたいといったところか?

「地位ですか……まぁ、教皇様とアポなしで会えるぐらいですよ」

「……それだったら、お願いがあります」

メガネを触りながら、俺の言葉を確認すると、安心したように要求が飛び出してきた。

きっと嘘発見器の機能がついたものかも知れないな。

「なんだろう?」

「その人達がお店に来ないようにしてください」

その懇願した表情は、本当にお願いしているように思えた。

「分かりました。但し、交換条件があります。これが何なのか教えてくれないか?」

「……それは魔力を消費し続ける代わりに状態異常耐性を上げるものです。ですがまだ試作の段階だったものを奪われたんです」

「それは災難だったな」

俺は彼女に状態異常耐性を底上げする指輪を三つ返した。

残りの四つはこのまま預からせてもらう。

「返してもらってもいいんですか?」

「ああ。じゃあ気を取り直して、全ての商品の説明をお願いしてもいいか?」

「はい。では何から?」

「順番は任せるよ。ただ、必要なものは全て購入する予定だから、無駄なく全ての商品を説明して欲しい」

俺がそう告げると、リィナは店員と顔を見合わせて、声を弾ませながら商品案内を始めた。

「ありがとうございます。では早速これなんですけど……」

リィナが商品の説明を始めてからすぐに、思い出したことを聞く。

「そういえば以前来た時に鑑定のスキルが使える眼鏡だっけ? あれの完成は?」

「出来ませんでした。まだまだ努力が足りないみたいです」

「そっか。まぁそれがあれば便利だと思っただけだから……説明を続けてください」

こうして再開した説明で、俺はどんどん購入する物を判断していく。

買うものは店員さんに個数を頼んでいくが、この買い物を純粋に楽しんでいる者がいた。

エスティアだ。

商品説明をいつもの影の薄さでは考えられないぐらい前に出て、質問をしていた。

そしてテンションの上がりきったエスティアの爆弾発言に俺達は呆然とするのだった。

そのぶっ飛んだ質問が、急にポンっと飛び出したのは、もうすぐ買い物が終わるかという時だった。

「凄い。聞いていたものばかりです。もしかしてリィナさんって、転生者か転移者と呼ばれる存在なんじゃないですか?」

先程まで饒舌に商品説明をしていたリィナは、完全に固まってしまった。

「今から五、六年位前に帝国の施設にいたとき、アリスお姉ちゃんがやってきて、自分のことを新しい肉体を手に入れた転移者だって教えてくれたんです」

「……その人は?」

「……殺されてしまいました。だから帝国に居たくなかった」

衝撃の事実に俺やリィナだけではなく、当時はまだ将軍だったライオネルや隠密もしていたケティも、エスティアの報告に耳を疑っていた。

転生者の事実が明るみに出ている。

それよりも何故、帝国機関は転生者の情報を役立たせようとしなかったのだろうか?

それだけの資金力も治療技術もあったはずなのに。

「そう。殺されてしまったの……」

リィナの落胆振りはこちらから見ていても分かった。

「アリスお姉ちゃんは色々な話をしてくれたんです。空を飛ぶ大きな鉄の固まりの話しや色々な情報を瞬時に調べることの出来る箱があったって。他にもここで説明してもらった商品の中にも同じような物がたくさんあったから……もしかしたら、リィナさんもそうなのかなって思ったんです」

飛行機に……PCか? 転生者の死亡を聞いたのは初めてだけど、結構精神的にくるな。

リィナは小刻みに震えていた。

「……そう。確かに私は転移者かも知れないけど、それなら何かあるの? 貴方がそれを知って何かが変わるの?」

突然の質問と転生者の話を出したからには、それなりのことがあってだと俺も思って聞き耳を立てた。

「……そちらの世界には、たくさんの物語が書かれた書籍が存在しているって、教えてもらいました。その中でも男同士の友情や禁断の愛が描かれているものが、世界の理だと聞いていたのです」

「「「はっ?」」」

さっきまでのシリアス感が一変してしまった。

アリスさんは腐女子だったのだろうか?

それともあちらのレベルが高かったのだろうか?

あまり考えたくなってしまった。

「アリスお姉ちゃんがそう言っていたので、世界の理に興味が出てきて……」

「……それは一般的ではないわ」

完全に同意します。

「そうなんですか……」

「ええ。確かに好んでそういう書籍を読む人々もいたけれど、一般人にはハードルが高過ぎるのよ」

「なるほど……だったら、空飛ぶ鉄の固まりや馬がいない車みたいなものは、リィナさんは知っていたり、作れたりしますか?」

いきなりの落差だった。

この質問を答えるということは、転生者だと教えるようなものだった。

天然なのか、それとも普段はそう見せているだけなのか、

やはりエスティアのことは謎だ。

「……作れるかはわからないけど、発想は面白そうだわ」

「まだ作ってないんですか?」

「ええ。そもそもそんな御伽噺に出てくるものを作るには、スキルレベルが足りないわ」

もし仮にリィナが転生者であったとしても、この技術力と発想力を活かすことが、俺にも出来るのではないだろうか?

俺はそれを考えていただけの筈なのに、気がついたら口を開いていた。

「リィナさんは開発に興味がありますか? 貴方に未来の目標、または目的がありますか?」

こちらを見つめて、彼女は迷わずに答えを聞かせてくれた。

「はい。あります」

そこからはエスティアのことは無視をして、話を進めることにした。

「教えてもらってもいいですか?」

俺はそれから彼女と少しだけ話をした。

そして彼女に俺が転生者だとは明かさずに、仲間に引き込む決意を固めるのだった。