軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98 イエニスに響く轟音

代表者会議が終わった翌日、犬獣人のセベック殿と猫獣人のキャスラル殿が揃って頭を下げてきた。

「そう言われましても、すぐには無理ですよ。まずは学校を作りがありますから、それからです」

彼らが申し出てきたのは、区画整理と建物を新しくして欲しいとの要望だった。

「ええ。それで大丈夫です。もちろんタダでとは申しません」

「我等種族は狼獣人や虎獣人の劣等種族と呼ばれていますが、それは戦闘に限ったことです」

「犬獣人は狼獣人よりも集中力が高いですし、約束はきちんと守ります」

「猫獣人は虎獣人よりも空気を読みますし、怠け者ではありません」

「今後何かご用命があれば、ルシエル殿…いえ、ルシエル様側につきますので、今後も宜しくお願いします」

「猫獣人も宜しくお願いします。」

「様付けでなくて結構です。先のことになるでしょうが、時期が来たらまた話し合いの場を持たせていただきます」

俺がそう言うとセベック殿は尻尾を揺らし、キャスラル殿はピィーンと尻尾を立てて、ゆっくり動かして帰っていった。

喜んでくれたようだが……。

「結局何も決まらないのに、彼らは帰って行きましたね」

「ルシエル様も結構悪人だニャ」

ライオネルとケティは笑いながら、人聞きの悪いこと言う。

別に彼らが勝手に勘違いしただけなので、今回こちらに非は無い。

交渉はするけど、契約をするとは言っていないし、それも口約束したに過ぎないので、何の効力もないのだ。

「今は何かを決めて雁字搦めにならないことが優先だ。ケティ、頼んでいた件はどうなった?」

「馬獣人、象獣人、牛獣人、猿獣人の長達は全員半信半疑だったニャ。それでも納得してもらえたニャ」

「良かった。じゃあ引き続き交渉していこう」

「承知しましたニャ」

ケティは部屋から出ていった。

以前ブロド師匠やガルバさん、グルガーさんに手紙を出して、何度かやり取りをしていたのだが、ガルバさんが動くと恐怖での統治になるから、最大のピンチ以外は自分で切り抜けるようにと書かれていた。

ただ四通の手紙が同封されており、それぞれイエニスから追い出された種族のリーダーに届ければ、俺の味方になってくれるだろうと書いてあった。

ケティへ指示してケフィン達と、手分けして各種族に会いに行ってもらったのだ。

どうやら万事うまくいったみたいだけど、あの人がどれだけこの国に影響力を残しているのかは、怖すぎて尋ねられないし、尋ねてはいけない気がする……。

「しかしギリギリで間に合った。そんなところですね」

「ああ。まだ油断は出来ないけど、これで外出しても命を狙われる危険性が、少しは減ったと思う」

これで 馬獣人(ケンタウロス) からの矢を気にしなくて良くなったのは精神的にでかい。

「あとはハチミツがうまく生産が出来れば良いけど……」

「ハニール殿曰く、これ以上は増やすことが出来ないそうです」

「そうか……教皇様にも届いたと報告があったが、コップ一杯のハチミツが金貨に化けるくらい希少価値が高いんだから世の中分からないものだ」

「庶民は食べられないでしょうね」

「まさか砂糖よりも高いとは思ってもいなかった」

ハッチ族自体が珍しく、昔は奴隷のように働かされていたらしい。

現状とあまり変わらないのでは? 俺はそう思ってハニール殿に聞いてみると、笑われて言われた。

「誰からも襲われず、たくさんの蜜を集めて空気が澄んでいるこの環境は、子作りにも最適で天国ですよ」

どうやらあの未開の森には、普段冒険者が滅多に入らないことから、外敵である魔物が多過ぎて、安心して子育てが出来ないらしい。

ここで子供を育てて未開の森に帰る許可も与えている為、現在ここの暮らしに不満を抱いているハッチ族は一人もいないのだとか。

それを聞いて安心した。

グルガーさんからもハチミツの要求と市場の価値について、手紙をもらいそこに書かれていた。

熊獣人のブライアンに初めてハチミツを渡した百mlの値段が最低でも金貨一枚するとのことだった。

「それでも在庫はある程度ありますが、いつ頃に販売を?」

「一度売り出したらハッチ族が狙われる可能性もある。地下三階で作っているフルーツを、市場に卸す時と考えていたんだけど……」

「……フルーツを見た時のフォレント殿の顔は確かに危なかったですからね」

「フルーツであれだぞ? ハチミツを卸そうとしたら……考えただけでも恐ろしい」

商人を出来るフォレンス殿に地下産のお裾分けをしたら、驚かれてからボソッと一言呟かされた。

「これだけのものなら三年もあれば元は取れた」

俺には目が怖かっただけで、呟きは聞こえなかったが、ケティがそれを聞いていた。

あの人をあまり怒らせてはいけない気がするので、いろいろと悩み始めた。

「それでいつ頃に販売を?」

「……実は知っている量が量だから、もう少し考えてからかな……学校が出来たらまた忙しくなるだろうし……話は変わるけど、学校といえば学校長は〇〇〇〇にやってもらいたいと考えている」

「〇〇〇〇ですか? そうですね。私も適任だと思います」

「分かった。考えることが多過ぎるが、徐々に形になってきたのは良いことだな」

「ええ。治癒特区が完成する頃には、イエニスの代表としての任期も終わるでしょうから、丁度良いのではないでしょうか」

ライオネルは随分楽しそうだ。

ライオネルには一度メラトニへ向かうことを伝えてあるから、きっとブロド教官と再戦するのが楽しみなのだろう。

「……それで襲撃はあると思うか?」

「何とも言えませんね。虎獣人族だけなら、もう動いていてもおかしくないと思いますが……」

「はぁ~なるようにしかならないか。明日の森の遠征でどうなるかだな」

「細心の注意を払いましょう」

「頼んだ」

実は既に資材調達に行かなくても良いぐらいの木材と、魔石を保有している。

魔石に関しては浪費家が三人も居るので、もの凄く減りが早い。

しかし何でも作らせているわけでなく、獣人でも使える魔道具をコンセプトに造らせて、出来が良ければ好きなものを一つ作らせている。

これが実はイエニスで結構ヒットしている。

これについてはフォレント殿のところに卸している。

卸しているからこそ、血走った目をしたフォレント殿ではなく、いつも笑顔のフォレント殿に戻っているのだが……。

これまで問題があったのは最初のうちだけで、それ以降は表面化する問題は起きていないから、気にも止めていなかった存在がいたことすら、すっかり忘れていた。

そしてそのことが問題を大きくしてしまう。

それは更に三ヶ月が過ぎて、正に学校を組み立て始める寸前のことだった。

まるで大玉花火が上がったかの様に腹に響く、そんな爆発音がイエニスに鳴り響いた。

音がした方を向けば、真っ赤な炎と黒い煙を空に立ち上るのが見えた。

「……あれは治癒特区だろ? ライオネル、ケティはついて来てくれ。ドランとポーラは待機だけど、個人の判断で動いてくれ。ケフィン達はもしかすると次はここか、治癒士ギルドが狙われるかも知れない。状況に応じて警護に当たってくれ」

俺は返事を聞かずに走り出した。

治癒特区は簡単に言ってしまえば総合病院みたいなもので、治癒士ギルドと薬師ギルドに、行ったり来たりすることが出来る、そんな施設になっている。

現在は完成を目指して着工中で、ハーフ獣人だけじゃなく、様々な獣人が出入りしていた。

今回の爆発で、かなりの人が巻き込まれていることが予想される。

さらに外傷が無くても火事の場合は、体外はもちろん、体内を火傷して下手をしたら、呼吸不全や最悪、死んでしまう人も多いと聞いたことが前世であった。

今助けられるのは俺だけ。

そう思うと身体に力が湧いてきた。

野次馬が道を塞いでいるが、俺は叫びながら通る。

「どけぇ~!! 治療の邪魔だ~!」

俺の声に反応して道が割れていく。

そこでライオネルが前に立ち、ケティが後ろを陣取る。

いつも陣形になると、自分がテンパっていたことに気がつく。

走りながら一度深呼吸すると酷い火傷を負ったものが、建物から吹き飛ばれていた。

「周りの人は怪我人がいる場所を教えてくれ! ハイヒール」

外に飛んでいたものの傷ややけどが綺麗に治っていく。

やけども治って良かったと思いながら、この現場で働いているのはハーフ獣人だけでも、37人が就労していた筈だ。

絶対に救ってみせる。

俺がそう言い聞かせると次々に声が上がる。

俺はそこに走り、皮膚が炭化している者でもハイヒールを掛けていくと、回復していった。

そのことに涙が溢れそうになるが、全員を助けないと意味が無いと頭を切り替えて、行動に移る。

俺は建物の外周に居た怪我人を助け終わると、黒煙と炎が上がる建物に入ることを決断した。

まだ中に人が居る…………大丈夫。

勝算はある。

「ライオネル、ケティ行くぞ」

燃えさかる建物に躊躇無くついて来た二人に感謝をしながら、建物に入った瞬間、腕輪に魔力注いで風の結界を発動させた。

「無茶を言って悪いな。ケティはここに来たことがあるんだよな?」

「良く覚えていたニャ。五階建てだけど、四、五階の中はだだっ広い空間になっている筈ニャ、今は三階の途中まで作られていたと思うニャ。あ、後は地下もある筈ニャ」

地下があるってことは

「……一番上から行くぞ」

「ニャ!?」

ライオネルもケティも疑問に思っている様だった。

「煙と炎は下から上に上がる。上にいる方が危険なんだ。案内を頼む」

俺は簡潔に説明すると、階段を五階まで駆け上がる。

「天井が吹き飛んでいるって、どれだけ激しかったんだ?」

俺は五階のフロアについて天井がないことに気がつき唖然としてしまった。

「まだ生きてるニャ」

俺はケティのその声で気がつき、倒れている怪我の救助に走る。

見通し良いフロアに固まって三人が倒れていた。

直ぐに駆け寄り、即ハイヒールを掛けて傷は治るが、意識までは回復しない。

「はぁ~担ぐか?」

「必要ない」

パァーン、パァーン、パァーンとライオネルが張り手をすると三人の意識が直ぐに覚醒して飛び起きた。

「火傷は治している。速やかに1階に逃げろ。行けるな?」

三人は大剣を持ったライオネルに睨まれて、声が出せない状態でいたが、俺の声に頷いた。

五階、四階は間仕切りがなかったおかげで、直ぐに救助者を発見することが出来た。

四階にも五名の救助をした。

「二人とも大丈夫か?」

「煙も吸い込んでいないから、平気ニャ」

「出火は下のフロアだったようですね」

「ああ。それにしても何故こんなに燃え上がったんだ?」

「早く作ろうとして突貫工事だったニャ」

「耐火仕様にもなっていないのでしょう」

「こっちに言えば融通出来たのに」

「借りを作りたくなかったのでしょう」

俺達はそんな話をしながらも、脚は止めずに救助していく。

三階では倒れた石材の下敷きになっているものも居たが、ライオネルが大剣で石材を破壊し、ちぎれた腕はエクストラヒールで修復する。

生きていれば治せる。重機が必要なところはライオネルがいる。

生命探知機の代わりにケティがいる。

それを心強く思いながら、怪我人の救助に当たる。

こうして一階まで下りる頃には、柱が燃えて折れて、天井が落ちてきたりもしたが、風の結界で弾けないものはライオネルがことごとく切り飛ばしていった。

「ドルスターさんとその従者がいない。それに……地下から色の違う煙が気になる。もう薬師ギルドの薬が運ばれて来ていたのか?」

「そんな話は聞いていないニャ」

「出火の原因とは考えにくいですが……」

地下への扉はライオネルが叩き切り、地下への階段が出てくると俺達は中に入っていく。

風の結界が無ければ視界が悪く、また臭いも相当だっただろう。

案の上ドルスターさんと従者達に薬師ギルドマスターのスミック殿がいた。

「エリアハイヒール、リカバー、リカバー、リカバー、リカバー。よし担いで出るぞ」

俺がそう言った瞬間、また大きな爆発音が聞こえたと思ったら、一階へ階段が塞がれてしまうのだった。

「……やっぱりそっちのパターンか。とりあえず炎を消すか」

「承知」

「分かったニャ」

人生はそんなに甘くないと痛感しながら、ライオネルとケティに指示をした。

二人は俺の指示に従い炎を消していく。

俺は浄化魔法で埃やススを落としていくことにした。

「まぁまだ酸素もあるし、何とかなるな。ライオネル、天井を切れるか?」

「さすがに無理ですね」

「ケティも?」

「流石に想定外ニャ。ルシエル様は何故慌ててないニャ?」

いつも慌てる俺が慌てていないのが不思議なようだった。

「ここが地下だからだ。いつまでも戻らなければ、ドランとポーラがゴーレムで救出しに来るだろうし、来なくても少しずつ魔法袋に瓦礫をしまっていけば、脱出も可能だろう」

「こうなることを想定されていたのですか?」

「ああ。地下に入るときに考えていた。このあと全員を救出して、奇跡の生還を果たせば俺の名声が上がる。そうすれば俺がいなくなっても、俺が作った工場は安泰だろう。それに俺がいなくなることで、動き出す奴も炙り出せると思ってな」

「ルシエル様は腹黒いニャ」

「なかなか大胆な手を使うようになりましたな」

「そんなにストレスが溜まっていたニャ?」

二人は驚きの顔でこちらを見たが、この半年間どれだけいびられたか、ケティをつけて槍玉に上げられて、どれだけ神経をすり減らしたか知っている。

苦笑いを浮かべた二人に俺はいまの心境を一言で語る。

「ストレスについては、物体Xを原液で樽一杯飲ませたいぐらいのもんだよ。さて、お茶にしようか」

俺は二人に微笑みながら、お茶の用意をして、四人が起きるのを待つことにするのだった。