軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97 スラム街 消滅

迷宮内部から地上へと戻った俺達は、治癒士ギルドへは向かわず、冒険者ギルドへと向かうことにした。

ケフィン達は先に戻らせ、フォレノワール達の面倒と迷宮から帰還した旨を報告してもらう事にした。

冒険者ギルド内部へ入り、いつも通り受付に頼むとギルドマスターの部屋へ通されるのだった。

「今回はどうなされたのです?」

ジャイアス殿が隣に居るジャスアン殿よりも先に口を開いので、今回有ったことを簡潔答えることにした。

「迷宮が急速に力を取り戻していた……活性化状態だったと言った方が分かりやすいかも知れないな」

「なっ!」

「それで迷宮は?」

驚いたジャイアス殿に変わりジャスアン殿が、迷宮の詳細について身を乗り出して聞いてきた。

「結論から言うと、迷宮を再び踏破してきました。しかし、これで全てが解決したとは思えません」

「再び踏破されたのに…ですか?」

「……まず活性化していた迷宮は以前現れた魔物に加え、新たにアンデッド系の魔物が混ざっていました」

「……続けてください」

俺は五十階層ボス部屋にいた冒険者達の冒険者カードを応接のテーブルに置いていく。

「彼らが五十階層の主部屋、あの赤竜がいた部屋に入っていました……アンデッドと化して」

「……何かの冗談というわけではなさそうですね」

「それなら逐一報告には来ませんよ。五十階層の主部屋からは大量の瘴気が漏れていました。彼らはそれの餌食になったと予想されます」

「……そんな罠を聞いたことない」

「アンデッドと化した冒険者達の一人が、私とジャスアン殿が邪神の生贄にした、そう怨み言を告げて浄化されていきました」

『なっ! 邪神だと(ですって)!』

二人は声を上げて邪神に驚き始めた。

「何か迷宮を沈静化させる良い方法はないのですか?」

「分かりません。それでも最上階の主を倒した時に出てくる大きな魔石が、今回迷宮が活発化し始めた要因ではないかと考えています」

「迷宮の 核(コア) ですか?」

「ええ。あの大きな魔石が核と言うならそうです。もしかするとあれを不用意に触ったからなのかも知れません。私の手に負えるものではないので、冒険者ギルドお二人にこの話をしました」

「……注意喚起ということですか?」

「はい。冒険者は戦いを生業にする方々ですから、それを私が止めることは出来ません。だからお二人の判断に委ねさせていただきたい」

俺がそう告げてから暫らくの間、部屋を沈黙が支配した。

沈黙を破ったのはジャイアス殿だった。

「……情報ありがとう御座いました。この件に関しては即答が出来ません。ルシエル様にも相談させていただくことになりますが、宜しくお願いします」

「分かりました。お互い迷宮が沈静化することを祈りましょう」

「はい。こちらで得た迷宮の情報に変化があった場合には、治癒士ギルドまで届けさせますので」

正直ありがたくない提案だったが、ここはきちんと受けるとことにした。

「ありがとう御座います。今後も宜しくお願いします」

こうして迷宮の活性化についての話し合いが終わり、俺達は治癒士ギルドへと戻った。

治癒士ギルドの地下では、ドランの指導の下、バーゼル隊が組み立て式の住居を作っていた。

「これは?」

「神官騎士達が日中の警備は自分達で出来ると、彼らを貸し出してくれたんじゃ」

「それは良かった。ドラン一人に任せっきりになっていたから、悪いなと思っていたんだ」

「そんなことはない。同じものばかりを作るのは退屈だが、ちゃんとあれも作らせてもらっている」

「……無理はするなよ。魔石は今後あまり持って帰れない可能性もあるから、無駄にしないように使って欲しい」

「……善処する」

このあと、俺はドランに進捗を確認してから、ギルドマスターの部屋に戻り、教皇様と魔通玉で連絡取った。

『話は分かった。邪神についてはこちらでも調べておこう。それとイエニスでハチミツが取れるようになったら、送ってくれることを信じているぞ』

「承りました」

通信が切ってから俺は一言呟いた。

「毎回教皇様がハチミツの話をするってことは、かなりの稀少品なのかも知れないな」

俺はそう考えて、ハチミツや砂糖の料金を知るために、また手紙を書くことにした。

それからの期間は、未開の森と迷心の迷宮を一週間ごとに探索することにした。

未開の森に関しては生態調査を行いながら、資財調達と新種の魔物を探しに向かい、迷宮では三十階層まで駆け上がり、迷宮が沈静化し始めてホッとしながら、魔石の確保に全力を注いだ。

そしてあっという間に月例会議の日を迎えた。

「今回は私が進行役をさせていただくです」

兎獣人のリリアルド殿が今回の進行役だった。

別段問題もなく会議は進行していった。

「次は前回ルシエル殿が問題提起された……賃金の問題ですか。フォレンス殿お願いします」

「賃金に関しては種族でかなりの格差が出ていたことと、虚実で金を搾取していた種族が判明しました。賃金の増減に関してはまた議論するとして、不正を行っていた種族に関しては返還、もしくは制裁を加えることにする」

「しゅ、種族の公表はしないのです?」

「今回はこれが外に漏れたら、混乱が大きくなります。だから個別に還元するか、次の月例会議で種族が削れるかは代表の皆さんにお任せします」

フォレンス殿はそう言い切った。

この人は商売の交渉で、化かし合いするかも知れないけど、商売に関してはとことん不正はしないんだろうな。

そう思わせる力強さがあった。

「で、では次に治癒特区についてもフォレンス殿」

「はい。治癒特区に関しては虎獣人族と竜人族から申し出があり、二種族の土地と我が狐獣人の土地を削り、その跡地に作ることが決まりました。雇用に関してのこれからです」

「何かご意見は?」

俺を見てリリアルドさんが言ってくるが俺は首を左右に振る。

こうすると事前にフォレンス殿から聞いていたからだ。

「それでは、次も前回ルシエル殿から問題提起されたことになりますが、イエニスの西にある崖の上にいると噂についてです。サウザー殿お願いします」

「申し訳ないが、冒険者は見つけられなかった。今後も引き続き調査は継続させていただく」

「何かご意見は?」

俺はまた首を横に振る。

「それでは最後にスラム街の進捗に関して、ルシエル殿お願いします」

俺に視線が集まる。

その目には嘘の進捗を伝えたら、直ぐにでも噛み付いてやる。

そんな目だった。

俺は笑いながら、現在言えることを伝える。

「はい。現在の進捗率は三十%と言ったところですね。スラム街の人々が治癒特区の工事に入ったら、一気に解体していきます」

「壊すって言っても、根拠がありませんな」

「ハーフと言っても一応はイエニスの大事な住民なんですぞ?」

「我等には全く手をつけている様には見えない」

まぁ不満は出てくると思っていた。

「なるほど。それでは一旦庭に出ていただきましょう」

俺は庭に出るといきなりの俺の行動を止めることがないまま、屋敷の外に出てきた。

「現在は冒険者の住まいを先に作っているところです」

俺は魔法袋から建物を取り出した。

「これが冒険者の為に用意する建物です」

俺がそう言って取り出した建物に、長達は目を丸くさせる。

さすがにこれだけ巨大なものが、魔法袋に入っているとは思わなかったのだろう。

「現在こちらと同じ建物と、学校を建設中ですが、これで疑いが晴れてくるなら嬉しいです」

俺がそう笑うと文句は出なかった。

全く進んでいない新人の仕事をいびるつもりだったかも知れないが、目に見える成果に人は弱い。

これが例え一棟しかなくても、その時のインパクトが強ければ強い程、人は信じてしまう。

こうして次回の月例会議までに、スラム街のハーフ獣人達をどういう条件で雇用するのか?

妨害や恫喝や恐喝をしてくる可能性も頭に入れて、作戦を練っていくのだった。

ところが、全くそんなこともないまま二ヶ月が経った。

スラム街の顔役であるドルスターさんからは、賃金がきちんと支払われていることと、今までと違い休憩に関してもきちんともらえるようで戸惑っていた。

「気をつけた方が良い。こういう時は何かがある前兆だ」

「分かりました。ところで例の手続きは?」

「大丈夫だ。全て済ませた」

「分かりました。今日帰られる頃には、スラム街は消滅しています」

「……何でだろうな。あんなところでも愛着があったんだと思うぜ」

「物に関しては必要ないと判断した場合、全て細かく分解させていただきます」

「頼んだぞ。S級治癒士ルシエル様」

「はい。任されました」

ドルスターさんを含めたスラム街の住人達の殆どが、治癒特区に向かった。

残りはケフィン達に誘導してもらって、スラム街はドランの土操作とポーラの五メートル級ゴーレムと、俺の浄化魔法と魔法袋により、この日消滅した。

スラム街の住人の中は泣き崩れる者もいた。

スラム街の住人ではないもの達は、その光景を唖然と見ているものが殆どだった。

代表者会議で決定していたことを、躊躇なく実行した俺に対して恐怖する者も多くいた。

翌日、そんな恐怖を抱いたもの達の目に飛び込んできたのは、笑顔で新しい家に住み始めた元スラムの住人達だった。

本来は三ヶ月ほど地下で生活をしてもらうはずだった。

しかしこれに異を唱えた人物がいた。

その人物はナーリアだった。

「民衆の一度傾いた考えを戻すには、かなりの時間が掛かります。そうすれば後からどれだけ作戦だと言ったところで、ルシエル様の悪名は各地に広がってしまいます」

「それはそうかも知れないが、それを気にしていたら作戦がうまくいかないだろ?」

「いえ、スラム街を生まれ変わらせたルシエル様を悪く言うよりも、味方につけて自分達も恩恵を受けたい。そう思う種族の方が多いはずです」

「だが、それだと納得しない者達が……」

「いると思います。ですが、ルシエル様は一言も嘘はついていらっしゃらないですよね?」

「……ああ」

「大丈夫です。今回のこともルシエル様だから出来たことなのです。反発があってもそれを上回る大儀があれば、人はそちらに味方するものです」

最後だけナーリアは寂しそうな顔をしたが、それも一瞬でこちらを見て頷いた。

翌日、俺は緊急の代表者会議に呼び出された。

そしてハ種族が集まると集中砲火が始まった。

「ルシエル殿あれはどういうことか! 何故スラム街の者たちがあそこに住んでいる」

口火を切ったのは珍しく竜人のジャック殿だった。

彼は強き者と加護を持つものに対しては、友好的だが、種族に対しての偏見が強い。

「そうだ。スラム街を無くすと言ったではないか」

次に口を開いたのは虎獣人だが、そもそも彼には発言権がない筈なのだが、やはり口を挟んできた。

「ハーフ獣人を、あんな立派な建物に住まわせるとは何を考えている」

犬獣人のセベック殿は自分の住んでいる家よりも、ハーフ獣人が良い家に住むのが我慢出来ないようだった。

「これでは詐欺ではないか! 冒険者を誘致すると言っていたはずだ」

猫獣人のキャスラル殿もセベック殿と一緒だ。

ただ彼の場合は言っていることと思っていることは逆で、こっちに何かを訴えかけているのだが、意味が分からない。

「何を考えてあんなことをしたのか、それを聞かせていただきたいです」

兎獣人のリリアルド殿は鼻息が荒かった。

彼は俺が代表に就任してから、裏金作り計画がばれて立場が悪いため怨まれていても仕方が無い。

だが、そんな集中砲火だけではなく、疑問を投げ掛けられた。

「ルシエル殿、あれはそんな簡単に作れるのか?」

「もしや視察していたのは、街の全体を考えてのことだったですか?」

「……まさか?! 最近熊獣人達の元気が良いのも……」

狼獣人のオルガ殿、狐獣人のフォレンス殿、そして熊獣人が好きなサウザー殿からも? 疑問だった。

俺はゆっくりと握った右手を前に出すと口を開きながら、一指し指を立てた。

「まず一点目、私はスラム街を潰すと約束しました。汚かったスラム街は潰れて、現在は綺麗な街並となりました」

俺は全員を見ながら中指も立ててピースサインの形を作って続ける。

「二点目、冒険者の誘致する為ですが、スラム街で冒険者になれる力を持った者を誘致しました。スラム街が無くなり、治安も改善して住める場所もあるので、さらに誘致しやすくなった筈です」

「それは詭弁だ。ハーフ獣人如きのために何故新しい家など」

「これは異な事をおっしゃられる。二ヶ月前にはハーフ獣人でも大事な住民と言われていたではありませんか。私はこれからも住みやすく、良い街にしていくつもりですよ」

俺は終始笑顔を貼り付けて喋る。

今回はきちんとロープレして、質問内容もいくつも考えていたのだから、心に余裕もある。

そこでフォレンス殿から声が掛かった。

「ルシエル殿、もしやスラム街を買い取ったのは理由が?」

「ありませんよ。いや、なかったんですが、あまりにも皆さんが協力的ではなかったので、私の出来る範囲で出来ることをしてみました」

反対派は言いたいことがあるのだろうが、フォレンス殿がいち早く動いた。

彼の凄いところは儲かると試算して、それが黒でないなら良く話を聞いて即決出来るところだ。

「……学校がまだ出来ていないようですが?」

「それは現在着工中ですよ」

「そうですか。待ち遠しいですな」

オルガ殿は相変わらず、シーラちゃんのことで頭がいっぱいであった。

「熊獣人族と最近仲が良いようだが、如何にして?」

「彼らは人数が少ないことで、疲れていましたからね。少し治療と食事をご馳走しただけですよ」

ハチミツという名の食事を。

「なるほど。食事ですか……」

サウザー殿がこれでトリップしたことにより、代表者会議の口撃をしてきた者達も納得はしていないが、改善案も思いつかない為、ここでお開きとなった。

今度こそ、妨害を覚悟しないといけないな。

俺は長屋敷から帰りながら、そのことを考えるのだった。