作品タイトル不明
ゲームと現実
「早川ー。早川ー。……えっ!? ──って、なんだ、これ……」
俺がユシの体を操ってたどり着いた、早川の臭いの発生源だと思われる場所。
地上で早川の血の臭いだと思われるものを一嗅ぎしてから、俺は勢いでここまで来てしまった。
それでも、途中、穴を降りながら大きく深呼吸したことで、少し冷静さを取り戻していた。
ゲームのはずのダンジョン&キングダムで、なぜ早川の臭いがしたのか。少し冷静に考えれば、明らかにおかしな状況だ。
そもそもが、クロが実体のある女性だったことからして、おかしい。
そのクロが後悔するから急いでフルダイブしろと言っていた、ダンジョン&キングダム。そこで早川の血の臭いを嗅いでしまったせいで、俺はその二つを無意識のうちに結びつけてしまっていたのだろう。
そう、まるで早川の身に危険が迫っているから、急げと。しかし、冷静に考えれば本当にそんなことが起こりうるのか、当然、疑問がわく。
何せ、ダンジョン&キングダムはゲームのはずだから。
もしダンジョン&キングダムがゲームじゃなかったら、あだむもいぶも、それに他のダークコボルトだって実在することになってしまう。
そんなふわふわとした疑問が頭の片隅にこびりついたまま、俺は遭遇してしまう。
そこにあったのは、理解しないように無意識で否定していた現実。
やはりダンジョン&キングダムがゲームなどではなかったことを裏付ける光景が、広がっていた。
「──目黒さんに、あの女性も会ったことがある……」
「白羽、黝人」
俺の名前を呼ぶ女性、そう、たしか前に一度、首都で会ったことがある。そう、白羅ゆりさんだ。
ダンジョン産の宝物にとても詳しい方だったはずだ。
その白羅さんは、遠目にも酷い顔をしていた。それなのに俺の顔をみて名前を呼びながらパッと顔を輝かせる。
その笑みをみて、まるで消える直前に最後にひときわ大きく輝く、灯火の炎のようだと、俺はふと思ったのだ。
次の瞬間、その白羅さんの姿が地面に吸い込まれるようにして消えていく。
自分でも何を言っているのか良くわからないが、本当にそう見えたのだ。
「地面にドアって……え、やっぱりゲーム……な訳、ないよな。それに目黒さん、浮いてるように見えるんだが──」
そしてその場には、横たわる目黒さんらしき人物だけが残されていた。
俺は混乱しながらも、そちらへと歩み寄る。
「目黒、さん?」
近づくとわかる。
早川の血の臭いは、どうやら目黒さんの顔の下の部分にかかった血の汚れから漂ってきているようだった。
それをみて、再びかっと頭に血が上りそうになるのを必死に抑える。
その時だった。目黒さんの背中で大きなドアがパタンと閉じる。
まるでそれが合図だったかのように目黒さんの閉じられていた目が開き、まるで糸で吊られているかのように不自然な動きでその体が起き上がる。
その目黒さんのはずの体から、突如、激しい悪臭が吹き出してくる。
これまで嗅いだどんな悪臭よりも濃厚で、ただひたすらに、臭い。
それは、かつていぶを殺したゲームのボスだと思っていた存在、因果律の臭いだった。