軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

side白羅ゆり3

白羅ゆりの歌が終わった瞬間、床に横たわる目黒の体の周囲から、真っ黒なもやが溢れだす。

そのもやが溢れだしたタイミングで、まるで弾かれたように白羅ゆりの体が吹き飛び、ごろごろと地面を転がっていく。

「ふぎゃっ……!」

喉も枯れきった力ない悲鳴をあげながらも、最後の力をふり絞り立ち上がる白羅ゆり。

その視線の先。溢れだしたもやが目黒の体が横たわるダンジョンの床で何かを形作りはじめる。

「黒き、ドア──因果律が、訪れる……急がないと……」

よろよろと折り畳みテーブルへと歩み寄ると、そこに用意した毛の束と皿を手にする白羅ゆり。

そして、目黒の近く、そのもやに触れないギリギリのところまで戻ってくる。

その頃には、溢れだしたもやのほとんどが床に作られていたドアへと変化していた。

「チャンスは一度だけ……タイミングがすべて──」

白羅ゆりはもうろうとしながら呟き続ける。

そうしなければもう、意識が保てないほどに、白羅ゆりは限界だったのだ。

「ドアが開き、因果律本体が目黒の肉体に埋め込まれた進化律の力を求めて襲いかかるはず。魂魄の『魄』でしかない因果律が完全に目黒の肉体に囚われた瞬間に、『魂』として早川姫をフルダイブさせる器として指定する。それですべての準備が──」

そこまで白羅ゆりが呟いたところで、目黒の横たわる床に形作られた真っ黒なドアが完成する。

ドアが内開きに開かれていく。

完全にドアが開く。

床に水平に形成されたそのドアは、まるで地面にあいた深淵へと繋がる穴のようだった。

そのドアの先に、因果律の世界が目黒の体越しに垣間見える。

白羅ゆりの瞳に映るそれは、一見すれば彼女が生まれ育ち、そして呪縛されている進化律の世界と大きく変わらないように見えた。

しかしそこは魂が枯渇し、他世界より魂を簒奪しなければ維持できない世界。

魂あるものが見れば、どこかうすら寒く、根源の部分で拒絶反応が起きてくる世界だった。

その二つの世界の狭間に浮かぶように横たわる目黒の肉体。

そして、向こうの世界に、彼女が現れる。

因果律。

言葉通り、彼女も待ち構えていたのだろう。

その見た目は緑川が遭遇した進化律と瓜二つだった。どこか早川姫やクロを思わせる面差し。

因果律が自身の世界から両腕を伸ばす。ゆっくりとその手が目黒の体へと回されていく。

白羅ゆりはドアの淵まで近づき、思いっきり体を伸ばす。これ以上、一ミリでも進めば白羅ゆりの体が因果律の世界へと堕ちていってしまう、ギリギリの場所だ。

万が一魂を持ったままの白羅ゆりがあちらの世界へと堕ちれば、待っているのは残り少ない時間を、生きたまま魂を貪られる末路。

それを理解し、しかしギリギリのところで白羅ゆりの手は目黒の体へ届かない。

故に、白羅ゆりが覚悟を決めたその時だった。

白羅ゆりの背後に、圧倒的な存在感を放つものが現れる。

「白羽、黝人」

その神々しき姿を一目見た白羅ゆりは、その御名を呟き、歓喜に顔を輝かせると、そのままドアの淵から渾身の力で跳躍する。

因果律の体がちょうど目黒の体へと完全に吸い込まれ消えたタイミングで、白羅ゆりの手が世界の狭間に浮かぶ目黒の体へと届く。

その手の皿の血の大部分はこぼれてしまっていたが、白羅ゆりはなんとか残った数滴を、目黒の口に含ませることに成功する。そして早川から切り取った髪の束を目黒の喉元へと置こうとした時だった。

無理に無理を重ねた白羅ゆりの肉体に、真の限界が訪れる。

早川の髪の束が、白羅ゆりの手からこぼれ落ちていく。

白羅ゆりの顔が、絶望に彩られる。

そしてそのまま、白羅ゆり自身も、自らの体を支えきれずに因果律の世界へと堕ちていったのだった。