軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クロ2

俺は真剣な、しかしどこか怯え勇気を振り絞っているようにすら見える目の前の女性──クロの話す内容に、ただただ混乱していた。

──クロはいったい何を言っているんだ……いや、俺が、クロはなにものかと、尋ねたからか。

俺が混乱しながらも、今語られているのがクロの本心であり、クロの心からの言葉なのだと言うことはなんとなく感じられた。

そうしている間にもクロの言葉が続く。クロの体の震えが増す。

「私は、浅ましくも願ってしまいました。ユウト様に気に入られたかった。ユウト様に好かれたかった。それも、とても自分勝手な理由からです。それが、ユウト様の歓心を買うことが、ユウト様に嫌われないことが、おのが存在の安寧に繋がると知っていたから」

片手を自らの胸にあて、絞り出すように告げるクロ。

その頭の上の猫耳は、まるで本物のようにクロの言葉に合わせて、しょぼんと垂れ下がっている。

「そうやって少しでもユウト様の望まれる世界に近づくように、合理的に行動をしていたつもりでした。でも、そんな自分を裏切ったのも、自分自身でした。私は私が思っているよりもさらに浅ましく、さらに醜かった」

そういって今度は顔を赤らめるクロ。ぎゅっと何かを抑えつけるように両手で自分自身の体を抱き締める。

「人とは、素晴らしい存在ですね。肉の肉体がもたらす欲望が、肉欲が、これほど激しいものだとは全く知りませんでした。私の関わった人間たちは、誰もがしっかりとそれと向き合い、そして社会の構成員としての振る舞いを保っていました」

遠くを見つめるクロ。

「それなのに、私は判断を狂わされてばかり。肉欲が嫉妬が、この身を焦がす。恋と呼ぶにはあまりに下劣で、愛と呼ぶには苛烈すぎる、この気持ち」

じっと俺の目を見つめるクロの瞳。熱く湿った視線が、俺の視線を絡めとる。

「──く、クロ?」

絡めとられながらも、なんとか絞り出すように俺が告げたクロの名。そこでクロが急にスッと無表情になる。

「ユウト様、残念ですが時間です」

クロが俺の周囲を指差す。

気がつけば、俺の家の庭が、まるでジャングルにでもなったかのように雑草が伸びていた。

──あれ、早川が遊びにくるから、きれいさっぱり刈り取ったはずなのに。

ひどく繁った庭のそこかそしこには、色んな虫が沸いている。

「もう、時間がありません。早く、ダンジョン&キングダムにフルダイブでログインしてあげてください」

「いやいや、ちょっと待って、クロ。急にそんなこと言われても。時間ってなに? それにまだ全然、話が途中──」

「いぶの死に、涙されたユウト様なら、絶対に今すぐ行かれるべきです」

クロの断固たる言葉。それは俺のよく知るいつものクロだった。

そしてここ最近の経験上、こういうクロの言葉には従った方が良いと俺は学習していた。

「庭の刈り取りは私の方で対処しますので。ただ、ユウト様の新聞紙ソードと鎌をよろしいですか?」

「……いや、もちろんそれぐらいは全然いいけど。そうじゃなくてさ、クロ自身のことは?」

「ふふ……こんな浅ましい私のことを気にかけてくださり、ありがとうございます。もしそのお気持ちがかわらなければ、ダンジョン&キングダムにいかれた後にまた」

微笑むクロ。

その笑みを見て、俺は何となくいつもの冷静なクロと、さっきまでの激情を吐露していたクロが、繋がったように感じた。

だからだろう。俺は沢山の不可解なことはいったん置いておいて、いつものようにクロの勧めに従うことにする。

「──はぁ、よくわからないけど、とりあえずダンジョン&キングダムにログインしてくる」

「御武運を」

「はーい。クロもね」

無意識のうちにそんな返しをクロにすると、俺は頭をかきながら、ダンジョン&キングダムにフルダイブログインをするため、家へと戻るのだった。