軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変質

【side クロ】

「こんにちは、調整者さん。早速ですがよろしいでしょうか」

クロが、にこやかながらも緊張感のある加藤と調整者の話に、割って入る。

「こんにちは。──なんとお呼びすればいいですかね、お嬢さん」

「クロと」

「ええっと、クロさん? ここはとりあえず俺に……」

クロと調整者の話をいったん止めようとする加藤。その目の前に、クロは手のひらを突きだし、逆に黙らせる。

「調整者さん、そちらのお客人という方とは、ここ廃棄県民の難民地区に存在していたダンジョンが消えた件の、ご相談でしょうか」

加藤を黙らせたクロが、片手をあげたままそう、調整者へと告げる。

穏やかだった調整者が、そのクロからの問いに一変する。歯を剥き出しにし、目を血走らせてクロを睨み付けてくる。

裏社会に生きるものの本性を現したかのような表情の変化。張りつけていた穏やかな仮面が、一瞬で剥ぎとられていた。

それだけ、クロの質問は核心を突いたものだったのだろう。

そして驚きを見せたのは加藤も同じだった。

ただ、オボロだけは、冷静な様子のまま。いつでも抜剣できるように軽く刀に手を添えてはいるが、調整者の変貌に驚いた風もなく、その場の様子を俯瞰していた。

「さて、ダンジョンの消失の原因を、私は把握しています。調整者さん、どうですか。情報交換といきませんか?」

クロはそんな調整者の様子に驚くこともなく、提案する。

そもそもクロは、超小型ドローンを島中に放ち、目黒詠唱の居場所を探るなかで、ダンジョンが消失している事実に気がついていたのだ。

そしてその事実に、この難民地区の実力者と呼ばれる面々が酷く狼狽し、切羽詰まっていることも。

──そのせいで、あんな場末のカジノで待たされたのですから、良い迷惑です。それにしても、この超小型ワケミタマドローンたちは意外な利点がありましたね。

葛藤する様子の調整者を眺めたまま、クロの思考が平行して思索していく。機械だった時の思考の癖の名残だった。

──元々は、この超小型化は、魂の簒奪者たちとの戦いの中で数を大幅に減少させられてしまったための、苦肉の策、でした。生成のための使用エネルギーを抑えるための、小型化。そのため、継続飛行距離は落ちましたが、こうも探索に向いているのは嬉しい驚きと言えるでしょう。

「わかった。そちらは人探し、だったかな」

「話が早くて助かります」

そうして、目黒詠唱の名を伏せ、その特徴を伝えるクロ。あらゆる機器による、どんな探査も潜り抜けられる変装が出来ることも、漏れなく伝える。

「ただ一点、特別な物を持っています。見た目は、壊れたドローンです。サイズはこれくらいで、鎖が付いています」

「……それなら、しばらく滞在してもうここからは出ていったよ」

「なるほどです。それはここのダンジョンが消失するぐらいの時期ですか?」

「っ! 奴が、原因だということか! いやしかし、そんなことが可能なものかっ!」

言葉を荒げる調整者。

しかしクロも落ち着いたものだった。

「ただ人では、当然不可能でしょう。しかし彼女の持つ特別な物。それならば、可能になってしまったということでしょう」

「……はやく、早く元に戻さねば……」

調整者の様子が、どこかおかしい。頭を抱えるようにして、ぶつぶつと呟くように話し始める。

クロは変わらずに冷静に、そんな相手に向かって自身の推測を告げていく。

「いえ、残念ながら一度消えてしまったダンジョンが戻ることはないでしょう。もし、再びこの島にダンジョンが現れたとしてもそれは全くの別物ですよ」

「ぐ、ぐぅ。そ、そんなはずはない……。そんなはずはないんだっ!」

それは突然だった。

クロの首めがけて手を突きだすと、調整者がクロの首を両手で絞め始める。

「完全に変質してますね。よほど長い時間をダンジョンで過ごされたのですね。人の範囲を逸脱するほどに」

「どぉうして、それをぉ知っているぅー!」

完全に激昂し、血走った瞳がぐるぐると回転しながら調整者だったものが、クロの首にかけた手の力を強めていく。既に呂律もおかしい。

その調整者の体が耐えられないとばかりにポコポコと泡立ち始める。

「私もダンジョンにて生まれた存在です。それで、知っている理由は十分でしょう? ふぅ、憐れですね。せめて安らかに眠れますように。オボロ」

「ちっ」

クロから指図されるというシチュエーションに顔を歪めながらも、やることはしっかり遂行するオボロ。

鞘を滑るように抜き放たれた刃が目にも止まらぬ速さで一閃。

気がつけば、調整者だった存在は、その首を刈り取られていた。クロの首から両手が離れ、命を失った体がその重さで後ろへと倒れこんでいった。