軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ムーンサークル

【side緑川】

「な、なにっ!」

緊急を告げる最大音量のアラームに、モニターの前でうつらうつらしていた緑川が、跳ね起きる。

大穴ダンジョンへオボロを救出に向かって

からこの方、一時たりともゆっくり休む間もなく動き続けていた緑川の体力は、とうに限界だったのだ。

さらに目黒が消え、加藤がその目黒の捜索に向かってから、緑川は、旧ダンジョン公社支部に一人で詰めていた。

監視用の地下室は破棄されたことで、その役割の大部分をダンジョン公社本社へと移管したとはいえ、ユウトの自宅の直近という位置関係は変わらずに重要なポジションとなっている。

急遽、仕事用に自室に準備したPC。そのモニターから鳴り響いたのは、コードブラック。ユウト関係での緊急事態。

それも最も急を告げるものだった。

そのPCのモニターに映ったのは、クロの映像だった。

加藤とオボロと共に難民地区へと潜入中のクロだったが、ユウトの自宅にあるワケミタマドローンを操作中であり、また、このように関係各所への連絡をマルチタスク的にしてくることもあるのだ。

モニター越しに、クロが告げる。

「緑川さん。ユウト様がスキルを使用されました。月に穴が空きました」

「穴? 月に?」

ユウトが巻き起こしてきた数々の修羅場の、最大の被害者といっても過言ではない緑川ではあったが、今回ばかりはクロの言っていることに、全く理解が及ばなかった。

「はい。ユウト様のスキル攻撃の余波です。さすがユウト様。楽々と物理法則の壁を越えました。地上にありながら、月に穴をお空けになられたのです」

そういって、クロが月の映像を出す。

「そん、な……」

「幸い、ユウト様が白黒マーブルエフェクトと呼ばれる現象は、地上からはほぼ視認出来ては無いようです。ネット上の話題でも、いまのところは急に月に穴が空いたという言説が大半のようですね」

感心しきりといった様子で告げるクロ。それどころか、どこか自慢気な雰囲気すらある。

「これは、もしかして大穴ダンジョンを消滅させた時の──」

「さようです。あのときは、神たる因果律の一部と、ダンジョンの存在自体がバッファーとなったお陰で、地上への被害が出ませんでした。今回は、ちょっとばかり大きいとはいえ、単なるモンスター相手だったので、ほぼ減衰されることなく。こうなったのでしょう」

そういって、大したことはないとばかりに月の映像を示すクロ。

「大変、報道管制を……」

「無駄でしょう。月ですよ。それにこれが報道されたとしても、二つの理由から、ユウト様は自身の御技とは思わないでしょう。一つは白黒マーブルエフェクトが一瞬で消え、地上からはほぼ観測されてないこと。もう一つは緑川さんならわかるのでは?」

「え、あ……コボルドの」

「はい。ユシとしてのユウト様は五感が人とは異なります。彼らは嗅覚優位の存在なのです。あだむと接した緑川さんも、それを感じたのでは?」

「──だとすると、なすべきは、次の不用意なスキルの使用をユウト君に遠慮してもらう、ということね?」

無言でうなずくクロ。

それをみて、緑川はこんなときではあれ、クロも随分と変わったのだと改めて認識する。

前のクロであれば、ユウトの行動に制限を加えるようなことは一切認めなかっただろう。

しかし人となり、人の心への理解を深めたとしか思えないクロは、すでにユウトが不用意なことで他の人を傷つけることが無いように、このように緑川へ連絡をしてきたのだ。

「それで、何かこの状況でとれる策のアイデアは、クロさんはあるのですか」

「当然、ありません。補足をさせていただくと、ユシの時に使えるスキルは、ユウト様は使おうと思えば、ユウト様のままでご使用が可能だと、推測されます」

なぜかより一層の絶望感をあおる推測を告げるクロ。少しでもクロが人の心をわかるようになったと感じた少し前の自分を殴りたくなる緑川。

「人類の叡知に、期待しております。切に」

そういって、クロは軽くお辞儀をすると通信が消えるのだった。