軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おい、さすがに早すぎないか

どれだけの時間が過ぎただろう。

僕もレイも、ほとんど会話を交わさなかった。

それなのに、まったく不快感がない。

そしてそれはレイも同じようで。

横の席に座った王女は、ただただ無言で僕の手を握りしめていた。

その体温が、どうしようもなく柔らかくて温かかくて。

そんな時間を過ごしながら、僕はふと、レイの過去について思いを馳せる。

――王城にいる間、何度黒いローブをまとった刺客に命を狙われたか……――

さきほど、彼女はたしかにそう言った。

察するに、何度も死線をくぐり抜けてきたんだろう。だから殺される前に、僕と一緒にラスタール村に逃げてきた。

だけど、すこし妙なんだよな。

アルセウス救済党の厄介さは、僕が身を以て知っている。奴らは間違いなく、そこいらの冒険者より格段に強い。

なのに――レイはいままで無事だったんだよな。

彼女の戦闘力はさして高くない。

にも関わらず、幾度となく襲いかかってきた刺客に対し、なんらかの方法で生き残っている――

そこに違和感があった。

「ねぇアリオス」

「ん?」

「もっとこうしていたいけど……もう、行く時間みたいね」

言われて時計を見上げると、たしかに集合時間が目前に迫っていた。これ以上の長居は遅刻を招いてしまう。

気になる点ではあったが、まあ、いつか聞けばいいことだろう。

そう判断し、僕とレイは家を後にするのだった。

冒険者ギルド、ラスタール支部。

そこに、多くの顔見知りが集まっていた。

まずはAランク冒険者のカヤ。

Bランク冒険者のユウヤ・アルゼン。

アルド家の 元(・) 奴隷にして、造られし存在たるエム。

そしてギルドマスター兼、元鍛冶職人のアルトロ。

そこに僕とレイを含め、6人が一堂に会していることになる。

ちなみにウィーンには休んでもらっている。さっきの《バトルモード》とやらはだいぶエネルギーを消費するらしいからな。

「おお、来たか」

僕たちの姿を認めたアルトロが、表情を輝かせながら立ち上がった。

「さあさあ、座るがいい。お主は我が支部において貴重な戦力じゃからのう」

「はは……ありがとうございます」

「今回の《アルド家制圧》も、大変な活躍だったそうじゃないか。皆から聞いたぞい」

「いえ……僕だけの力じゃないですし」

「いやいや、アリオス様、すごく強かったですよ!」

エムがくわっと目を見開き、ひょいひょいと剣を振る仕草をする。

……あれは淵源流の真似だろうか。

知らんけど。

「あの元剣聖をボコボコにしてましたしね!! ほんとすごかったです!」

「くく、あのリオン・マクバをボコボコにか……。まあ、奴の失墜っぷりは残念であるがな」

「ええ……まったくですね」

そしてリオンとダドリーはまったく異なる道を選ぶこととなった。

リオンはテロ組織の構成員に。

ダドリーはひとり放浪の旅に。

二人は今後、どんな道を歩んでいくんだろうな。

そんな思索を巡らせていると、アルトロがふいに表情を改めた。

「さてアリオスよ。本題に入る前に、通達事項がある」

「伝達事項……ですか?」

「うむ。《アルセウス王国ギルド本部》にて、お主の昇格が確定された。今後はCランク冒険者として名乗るがいい」

なんと。

もう昇格か。

つい最近ギルドに入ったばかりであることを踏まえれば、異例の早さである。というか早すぎるのではないだろうか?

「まあ、お主はもうSランクになってもおかしくないとは思うがの。ギルドは古い組織なのじゃ。我慢しておくれ」

いやいや、そんな。

このスピードでも充分早すぎると思うんですがそれは。

「では、これを受け取るといい。Cランク冒険者のギルドカードじゃ」

銅に輝くカードを受け取るや、「おおーっ!」と拍手歓声があがる。ありがたいことに、みんな嬉しそうだな。

「はは……もうCか。私はすぐに追いつかれそうだね」

苦笑しているユウヤにも、嫌味な様子はない。

「まあ、君は最初から私より強かった。早く追い抜いてくれたまえ」

「いえ……恐縮です」

僕は先輩冒険者たちに頭を下げると、ギルドカードを懐に納める。

元剣聖リオン・マクバを倒したことで、そこいらの冒険者よりは強くなったという自覚はある。

だけど、それで自惚れることはない。

そうなった瞬間、瞬く間に失墜する。あのリオン・マクバのように。

そして拍手が収まった頃、ようやくアルトロから本題から切り出された。

捕らえたアルセウス救済党の構成員。その対処法についてだ。

「まず単刀直入に言おう。さっそく王都の本部にて、王国軍から書面が届いたそうだ。内容は、まあ想像通りというべきかな」

アルトロは真面目な表情でメモ紙を取り出すと、やや低めの声で内容を読み上げた。

「――テロ組織の捕獲について、まずは王国として心から感謝を申し上げたい。貴殿らの活躍にも心から賞賛を送りたいと思う。ついては、《アルセウス救済党》の捕虜に関して、我が国に確保を任せていただきたい。同党が結成されたのは 我が国(・・・) の責任であるがゆえに、それを貴殿らに押しつけるのは非常に申し訳ないと思っている……」

そこまで言ってメモ紙を折り畳むと、アルトロは僕たちを見渡して言った。

「――とまあ、要約すればこのような内容じゃの」

やはりそうきたか。

予測はしていたが、ここまであからさまだとは。

しかもアルド家を制圧してから、まだそこまで時間が経っていない。情報の掌握が早すぎる。

想像通り、敵もかなり焦っているんだろうな。

「アルトロさん。それで……ギルドはどんな対応を取っているんですか?」

「うむ。アリオスよ、良い質問じゃの」

アルトロはにかっと笑うや、腕を組んで言った。

「ギルドとしては、ひとまず拒否の形を取ることとなった。国に従う義務はないしの」

「拒否ですか……ずいぶん強気ですね」

アルトロの言う通り、ギルドはそもそも別の中立国に拠点を構える組織。

国籍を問わず多くの者が結集しているため、政治的なしがらみにまったく囚われないのが強みである。

だからギルドの拒否に対して、王国は強行的な手段を取れないはず。書簡にて遠回しな要求をしてきたのはそのためだ。

「ですが……それだけで安心はできません」

王女レイミラがぽつりと呟く。

「あちらにはおそらく、レイファー兄様がついています。どんな手を用いてくるかわかりません」

「レイファー兄様……。あの第一王子か……」

カヤが表情を強ばらせる。

「たしかにまったく読めない方だもんね……。頭のキレる方だとは思うけど……」

「ええ。僕もそう思います」

これは憶測だが、父リオンを失墜に追い込んだのも、レイファーの画策である可能性が高い。

あの決闘後、レイは長い休暇を授かることとなった。それによって、王城ではさぞ動きやすくなったことだろう。

表向きは義妹の休暇を悔しがっておいて、見事、政局を思うがままに操っている。

リオンやダドリーはそのために使われたんだ。あの第一王子に。

「ん……?」

ふいに僕は目を細めた。

――来ている。

実に 夥(おびただ) しい数の、 闖入者(ちんにゅうしゃ) が。

「アリオス……?」

僕の様子に気づいたレイが、ふと首を傾げる。

「出ましょう、皆さん」

僕は急いで立ち上がり、一同を見渡した。

「早速来たようです。王国軍からの招かれざる客が」